AIの民主化、サーバレスからローコード開発まで、AWS re:Invent 2021におけるデータ、機械学習、開発関連の発表12個AWS re:Invent 2021まとめ(2)

AWSが2021年11月より開催した「AWS re:Invent 2021」における発表を、2回に分けてお届けしているこの連載。前回はインフラ関係の発表を7つに分けて紹介した。今回はデータ、機械学習、開発関連のニュースを12個にまとめて紹介する。

» 2021年12月15日 05時00分 公開
[三木泉@IT]

この記事は会員限定です。会員登録(無料)すると全てご覧いただけます。

 「AWS re:Invent 2021」におけるデータ、機械学習、開発関連の発表では、新しいユーザー層を開拓するものと、既存サービスを使いやすくするものが目立った。 キーワードは「AIの民主化」「サーバレス」「ローコード/ノーコード開発」「メインフレーム移行」「コスト最適化」「大規模な機械学習への対応」だ。

 スタートアップ企業にとっては、「AWS Amplify Studio」「Amazon SageMaker Studio Lab」「Amazon Redshift Serverless」「AWS Amplify」の「AWS Cloud Development Kit(CDK)」統合、の4つが特に大きなメリットをもたらすと、アマゾンウェブサービスジャパン スタートアップ事業本部 部長でシニアソリューションアーキテクトの塚田朗弘氏は話している。

 この4つは、「AWS やクラウドの知識・経験がなくてもサービスを開発・構築できる」「拡張性・柔軟性の向上でグロースフェーズのビジネス成長を加速する」といった点で貢献できるという。

 本記事では上記を含め、データ、機械学習、開発関連の発表を12個に分けて紹介する。

1.Redshiftをさらにクラウド的に使える「Amazon Redshift Serverless」

 AWSは、「Amazon Redshift Serverless」のパブリックプレビュー提供を始めた。東京でも使える。

 Redshift Serverlessは、データウェアハウスサービス「Amazon Redshift」をサーバレスで使える機能。 演算リソースは、データのロードあるいはクエリが発生すると自動的に立ち上がり、処理量に応じて自動的にスケーリングする。処理がない時はシャットダウンされるため、料金が発生しない。

 正確には、料金は演算リソースとストレージに分けた従量課金となっている。演算リソースについてはRedshiftの処理能力(Redshift Processing Unit:RPU)が秒単位で計算される。RPUは、日、週、月単位で上限を設定できる。これにより、演算リソースのコストはコントロールできる。

 一方、ストレージのコストはRedshiftが管理するデータ量、およびスナップショットに使われるデータ量で計算される。

 AWSは今回、データ関連サービスのサーバレス化で、他にも「Amazon EMR Serverless」「Amazon MSK Serverless」「Amazon Kinesis Data Streams On-Demand」を発表した。

2.利用量の変動が大きい機械学習の推論用サーバレス、「Amazon SageMaker Serverless Inference」

 「Amazon SageMaker Serverless Inference」は、機械学習の推論をサーバレスで行える機能。 推論リクエストの量に応じて、自動的に演算リソースを割り当て、スケーリングして実行する。このため、演算リソースの準備や運用に時間と手間をかける必要がない。また、使った分だけ料金を支払えばいい。料金は、推論コードの実行時間および処理データ量に基づいて課金される。推論リクエストがない間は課金されない。

 SageMaker Serverless Inferenceは、たまにしか実行されない推論や、利用量の変動が激しい推論で、メリットが大きいという。

 AWSは、東京など幾つかのリージョンで、SageMaker Serverless Inferenceのプレビュー版を提供開始した、

3.推論で適切なインスタンス構成をアドバイスする「Amazon SageMaker Inference Recommender」

 「Amazon SageMaker Inference Recommender」は、機械学習の推論フェーズで最適なMLインスタンスの構成を推奨するツール。 大規模なMLモデルを運用するMLOpsエンジニアを対象としている。機械学習の統合開発環境「Amazon SageMaker Studio」の一機能として、中国を除く全リージョンにおける一般提供が開始された。

 モデルのリソース要件およびデータのサイズに基づくMLインスタンスタイプの選定、インスタンスタイプへのモデルの最適化、負荷テストとインスタンス構成のチューニング、といった作業に多くの手間と時間を費やして、試行錯誤する必要がなくなるという。

 SageMaker Inference Recommenderでは「モデルに適したインスタンスタイプ」「インスタンス数」「コンテナのパラメータ」「モデルの最適化」を自動的に推奨する。 さらに複雑な構成作業をすることなく負荷テストを実行できる。 その実行結果から、「レイテンシー」「スループット」「コスト」のトレードオフを評価し、最適な構成を選択できるという。スライダーのようなインタフェースは提供されない。

4.いわゆる「ローコード開発」とは位置付けが異なる「AWS Amplify Studio」

 AWS は、「AWS Amplify Studio」のプレビュー版を提供開始した。これは、アプリケーションのフロントエンドをビジュアルに開発できるツール。

 いわゆるローコード/ノーコード開発ツールに似ているが、企業の業務部門が社内アプリケーションで使うものというより、「サービスを構築する開発者が、UI/UXデザイナーなどとの連携で、アプリケーションのプロトタイピングおよび構築を、少ない工数で高速に実行する」といったシナリオを想定している。

 Amplify Studioでは今回、「Figma」というUIプロトタイピングツールと連携。アプリケーションのユーザーインタフェース(UI)をGUIで開発できる。

 FigmaでコーディングなしにUIを作成した後、これをReact UIコンポーネントに自動変換できる。これに手を入れてUIをさらにカスタマイズし、アプリケーションをきめ細かくコントロールできる。

 AWSは、アプリケーションのバックエンドをビジュアルに構築できる「AWS Amplify」を提供済み。 先ほどのUIは、Amplify Studioによって、Amplifyで構築したバックエンドとコーディングなしに統合できる。具体的には、ユーザー認証機能やデータストア、機械学習を使ったチャットボットや予測、ユーザー分析機能などを確認して設定できる。

 これにより、フロントエンドからバックエンドまで、アプリケーション開発の流れをローコード/ノーコードでフルにカバーできる。

 実は、AmplifyおよびAmplify Studioは一体的なサービスではなく、細かくコンポーネント化されている。今回発表したAmplify Studioは、これまでAmplifyの「Admin UI」と呼ばれていたコンポーネントに、UIライブラリを加えて機能強化し、切り出したものだという。各コンポーネントは別個に使う、連携して使うのいずれも可能。

  また、今回はFigmaとの連携が強調されているが、Amplify StudioにFigmaが含まれるわけではない。今後、その他の 各種ツールと連携する可能性があるという。

 さらにAWSは今回、AmplifyのAWS Cloud Development Kit(CDK)との連携強化を発表した。Amplifyには、カスタマイズにより、Amplify が対応していないリソースでも記述して追加できる機能があるが、これが簡単にできるようになった。

5.ビジネスアナリストのための「AIの民主化」サービス「Amazon Sagemaker Canvas」

 ビジネスアナリスト(業務部門でデータから知見を得て共有する立場の人)のための「AIの民主化」的な機械学習モデル自動作成ツール。機械学習ノウハウを全く待たなくても、コードを全く書かずにさまざまな予測ができる。二項分類、多クラス分類、数値回帰、時系列予測などに対応している。

 データサイエンティストやデータエンジニア向けには、「AWS Sagemaker Autopilot」というAutoMLツールを提供開始済みだが、 今回はそれ以外の人々のためにビジュアル化と自動化を進めたツールを出してきた。

 Amazon S3、「Amazon RDS」、Redshiftなど AWSのデータサービスに加え、オンプレミス、他のクラウドなどからデータを読み込める。

 データを読み込むと、セルフサービスBIツールのように、半自動的にデータのクリーニングや結合ができる。どの項目を予測するかを指定すれば適切なモデルの種類が選択される。

 推定精度などを確認した後、ボタンを押せばモデルが構築される。この際、内部で数百のモデルを作成し、最もパフォーマンスの高いモデルが選択されるという。次に予測のボタンを押せば、予測結果が表示され る。

 Sagemaker Canvasは、米国と欧州の一部リージョンで、一般提供が開始されている。

6.リプラットフォームとリファクタリングに対応する「AWS Mainframe Modernization」

 「AWS Mainframe Modernization」は、メインフレームアプリケーションのクラウド移行を支援するサービス。「リプラットフォーム」(一部修正してクラウドに乗せる)と「リファクタリング」(外部から見た挙動を変えずに内部構造を整理する)に対応している。リファクタリングは大幅に自動化される。

 これは既存の移行支援ツール/プログラムにメインフレームを含めたもの。AWSからメインフレームの移行に特化した認定を受けたインテグレーターの支援を受けて、計画から構築、移行までを進められる。移行プロジェクトの進捗(しんちょく)はダッシュボードで管理できる。

 サービス紹介ページには、Micro Focusの「Micro Focus Enterprise Analyzer」(メインフレームアプリケーション分析ツール)、「Micro Focus Enterprise Developer」(メインフレームアプリケーション再構築ツール)を利用しているとの記述がある。

 現在は米国東部(ノースバージニア) にのみ対応している。

7.ストレージコストを最大60%節約できる「Amazon DynamoDB Standard Infrequent Access table class」

 Amazon DynamoDBでは、ストレージのコストを最大60%節約できるという新機能が発表された。これは「Amazon DynamoDB Standard-Infrequent Access(DynamoDB Standard-IA)」と名付けられたテーブルクラス。 東京リージョンでも使える。

 頻繁なアクセスがないテーブルを対象とししたもので、「DynamoDB Standard」テーブルと同じパフォーマンス、耐久性、スケーリングを提供しながら、コストは最大60%低いという。

 DynamoDB Standard-IAはSNSの古いポストなど、 頻繁にアクセスされないが、アクセスされる時には即座に、確実に取り出せなければならないようなデータを、大量かつ長期間保管しなければならない場合に特に適しているという。

 このテーブルクラスのストレージコストはStandardテーブルよりも最大60%低い。だが、読み書きは料金が高く設定されている。読み書きの頻度が高いと、割高になる可能性がある。

8.データベース環境のカスタマイズが必要な人のための「Amazon RDS Custom for SQL Server」

 データベース環境のカスタマイズが必要な人のためのマネージドデータベースサービスが「Amazon RDS Custom」。AWSはまず、Oracle Databaseに対応した「Amazon RDS Custom for Oracle」を提供したが、今度はSQL Server版の一般提供を開始した。東京リージョンでも使える。

 Amazon RDS Customでは、OSやデータベースサーバにアクセスして、ドライバのインストールやデータベースの設定変更、ネイティブ機能の有効化などをしながら、設定や運用スケーリングが自動化されるマネージドデータベースのメリットを享受できる。

 例えば、特権アクセスが必要なサードパーティーアプリケーションのために、データベースの設定を変更するなどに対応するという。

 自動バックアップが利用でき、データは必要に応じてリカバリーできる。

9.専門知識を持ったアノテーターとAIが支援する「Amazon SageMaker Ground Truth Plus」

 「Amazon SageMaker Ground Truth Plus」は、人とAIがラベル付けを助ける「Amazon SageMaker Ground Truth」の高機能版といった位置付けの新サービス。 各業界、各分野の専門知識を持った人をアノテーションのスタッフとして割り当てるため、高精度なラベル付けが可能だという。

 ユーザーはAWSの担当者と電話で要件などを話し合った後、データをAmazon S3にアップロードして場所を教える。すると、専門のアノテーターチームによるラベル付けが始まる。さらにそのラベル付けを見て機械学習システムが学習し、アノテーションの効率と品質を上げる。

 利用者は専用ダッシュボードからアノテーションの進捗(しんちょく)状況を日々追跡できる。アノテーションの品質を検査したり、フィードバックを提供したりできる。

 新サービスは、米国東部(ノースバージニア)のみで一般提供が開始された。

10.開発者にデータベースの問題を報告し、解決策を提示する「Amazon DevOps Guru for RDS」

 2020年のre:Inventで発表された「Amazon DevOps Guru」の新機能。DevOps Guruは機械学習を使ってアプリケーションの問題を自動的に検知・分析し、警告するサービス。

 今回発表のDevOps Guru for RDSでは、MySQL互換とPostgreSQL互換の「Amazon Aurora」を対象とし、開発者がデータベースや機械学習の専門家の助けなしに問題を解決できるよう支援する。

 DevOps Guru for RDSでは、ホストリソースの過剰利用やデータベースのボトルネックなど、データベースの性能や運用の問題を検知・分析する。そして、影響範囲や根本原因を推定して通知すると共に、解決策を提示する。

 DevOps Guru for RDSは、東京リージョンなどDevOps Guruが提供されている全てのリージョンで一般提供を開始した。DevOps Guru for RDSの料金はDevOps Guruの利用料に含まれる。

11.機械学習が無料で学べ、実験できる「Amazon SageMaker Studio Lab」

 「Amazon SageMaker Studio Lab」は、AWSの機械学習/AI基盤「Amazon SageMaker」の無料版で、コストをかけずに機械学習の実習・実験ができる。ユーザーはクラウドリソースの構成や管理を考えなくてよい。

 AWSアカウントは不要、Webブラウザからメールアドレスで登録すれば、すぐに使える。クレジットカードを登録する必要もない。

 ツールをインストールすることなく、WebブラウザでJupyter Notebookを使い、学習を進められる。Gitと連携し、提供されている教材を取り込んだり、バージョン管理を行ったりできる。

 学習用には1セッション当たり最大12時間のCPUあるいは4時間のGPU、そして15GBのストレージが利用できる。

 SageMaker Studio Labで作成したプロトタイプはSageMakerに引き継いで、本格的に構築できる。

 「D2L(Dive into Deep Learning)」「Machine Learning University」「Hugging Face」といった教材、コミュニティと連携している。また、東京工業大学情報理工学院では、このサービスを講義の教材として使っているという。

 同サービスはプレビュー段階で、限定数の登録を受け付けている。

12.車両データの収集で、問題を迅速に検知する「AWS IoT FleetWise」

 特定産業に踏み込んだIoTサービスの一つに、車両業界を対象とした「AWS IoT FleetWise」がある。自動車などの車両の属性情報をはじめ、センサーや信号の情報を車両内でラベル付けし、フィルタリングしてAWSクラウドに転送。車両データをほぼリアルタイムでモニターできる。車両関連の問題を迅速に検出できるという。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

スポンサーからのお知らせPR

注目のテーマ

Microsoft & Windows最前線2025
AI for エンジニアリング
ローコード/ノーコード セントラル by @IT - ITエンジニアがビジネスの中心で活躍する組織へ
Cloud Native Central by @IT - スケーラブルな能力を組織に
システム開発ノウハウ 【発注ナビ】PR
あなたにおすすめの記事PR

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。