CIO(最高情報責任者)とITリーダーは次はどこへ向かうかGartner Insights Pickup(237)

ITリーダーは、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)で永遠に変わった世界の中で、ITを活用して価値を生み出す無限の可能性を持っている。

» 2021年12月17日 05時00分 公開
[Kasey Panetta,Gartner]

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 「問題は、『次はどこへ向かうか』だ」。Gartnerのアナリストでディスティングイッシュト バイスプレジデント兼フェローのダリル・プラマー(Daryl Plummer)氏は、2021年10月に米国で開催された「Gartner IT Symposium/Xpo 2021」で行った基調講演の中で、そう問い掛けた。「答えは、『いずれの場所でも、あらゆる場所で、その先へ』だ」

 新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)が、医療にもたらした変化を考えてみよう。病院の待合室に患者があふれ、新しいソリューションが必要になった。そこで対応策として、遠隔医療という選択肢の導入や、スケジュール管理の改善が行われた。これらは、対面診療を受ける患者の待ち時間の短縮につながった。

 その先に求められるのは、より根本的な変革――例えば、待合室スペースを縮小し、診療スペースを拡張することなどだ。そして、「未来はどうなるのか」「どうすればそれに最適化できるのか」を探っているのは、病院だけではない。

どこでも仕事ができる

 2020年3月、企業は突然、リモートワークへの移行を余儀なくされた。それから1年以上を経て行われた調査では、フルタイムでオフィスに戻りたいと考える従業員は14%にすぎず、19%はフルタイムのリモートワークを望んでいた。オフィスワークとリモートワークを組み合わせ、柔軟な働き方ができるハイブリッドワークを望む従業員が断然多かった。

 「次はどこへ向かうか」という観点から見ると、重要なのは、ハイブリッド、リモート、オンサイトのどれを取るかを議論することではない。この調査結果に示されるような状況をきっかけに、全く新しい働き方をどのように実現するかを考えることだ。

 実際、多くの企業は、2020年3月以来の事態を踏まえ、仕事環境の重要な要素は何か、もはや意味をなさない要素は何かを再検討し、見直している。その結果、一部の企業は業務内容と仕事のパターンに基づいて、どこでどのように働くかを具体的に示すガイダンスを従業員に提供している。資産運用会社のSchrodersは、従業員が働く場所と方法を柔軟に選べる、働き方の原則を導入し支援してきた。このアプローチはポリシーで制限されていないため、次にどんなディスラプションが起こっても、同社は容易に適応できる。

 ハイブリッドワークへの移行が進んでいるだけでなく、IT開発も、ビジネステクノロジスト(IT部門以外で、社内外のビジネス用途のためのテクノロジーやアナリティクス機能を創出している従業員)によって、組織内のあらゆる部署へと分散しつつある。IT予算は、組織中枢のIT部門からビジネス部門へと再配分されるようになっている。

 「われわれの分析は、ビジネステクノロジストへの支援を成功させた企業は、デジタルビジネスの成果を加速させる可能性が2.6倍高いことを示している」と、Gartnerのアナリストでシニアディレクターのムブラ・ショーエン(Mbula Schoen)氏は語る。

 IT部門とビジネス部門のパートナーシップを確立するとともに、ローコードアプリケーションやセルフサービスオプションを提供するサービスを開発することは、テクノロジーの活用を組織全体に展開するのに役立つ。

あらゆる場所でをつながりを育む

 病院の例のような変革を実現するには、多くの個人や組織、チームが協力し、同じ方向に進む必要があるが、新しい方法でやらなければならない。組織や業種、地域の枠を超えたパートナーシップを構築することで、全く新しい機会が生まれる。また、全く新しいビジネス価値が実現する可能性もある。

 「われわれは、技術による変革を追求するかつてない大きな機会に恵まれている」。Gartnerのアナリストでディスティングイッシュト バイスプレジデント兼フェローのハン・ルホン(Hung Lehong)氏はそう指摘する。

 「われわれは、さらに進み、世界的な問題を解決できる段階にある。ただし、単独で解決することはできないだろう。それらの問題はあまりにも大きいからだ」(ルホン氏)

 「次はどこへ向かうか」を考える上で不可欠な、パートナーとのつながり方は3つある。

1.ジェネレーティブパートナーシップ

 ベンダーと企業の関係は、1対1の関係だが、次のレベルに進化する場合がある。両者は単なる売買関係を超えて、共同で作った資産を基に、共同でイノベーションや構築、所有、利益創出をすることがある。真のパートナーとして協業することで売り上げを生み出し、課題を乗り越える新たな道筋を見いだせる。ジェネレーティブベースのIT支出は、今後5年間で年率31%の成長が見込まれる。

2.1対多のパートナーシップ

 単一の企業が多くのパートナーと協力し、統一的なフロントエンドを提供したり、1つの問題を共同で解決したりすることを指す。例えば、政府機関が他の多くの機関や民間企業のパートナーを結集し、さまざまな機関や企業のWebサイトへの個別の訪問を、調和の取れた1つのデジタル体験に変えるといったことが可能だ。

3.多対多のパートナーシップ

 これは組織が、参加者全員が助け合えるエコシステムを構築したい場合に有効だ。例えば、多くの開発者が多くのエコシステム参加者のために、革新的なソリューションを共同開発できるようなプラットフォームが考えられる。

その先へと進む

 現在、広く使われている周知のサービスも、かつては非常識なアイデアだと思われていた。例えば、「銀行制度が十分整備されていない国の人に、電子メールやSMSで支払いをする」というアイデアが、「PayPal」になった。また、「開発者が月額料金を支払って、オープンソースソフトウェアから新しいオープンソースソフトウェアを作成する」というアイデアが、「GitHub」になった。こうした主流のサービスは、機能するようになるまで実現不可能だと思われていた。

 だが、新しいテクノロジーを活用すれば、シンセティック(合成)データを使用することで非常識なアイデアをシミュレートできる。新しい価値の源泉を発見できる可能性がある。これにより、リスクを減らし、機会を広げられる。

 「膨大なデータセットとシンセティックデータを組み合わせ、複雑なディープラーニングを迅速に行うことで、非常識なアイデアも実践的に探求できる」と、プラマー氏は説明する。

 「一見非常識なアイデアは、大抵の人が最初は笑ってしまい、真面目に受け止めないような代物だ。だが、こうしたアイデアが予期せぬ形で世界的な問題を解決する場合もある」(プラマー氏)

 この種のイノベーションを実現するには、レガシーなビジネスプラクティスを放棄する必要がある。例えば、FedExは、ラストマイルの配送をオンデマンドで自律的に行うロボットをテストしている。Levi'sも、持続可能なビジネスプラクティスを志向し、中古品のマイクロサイトを立ち上げている。

 また、こうしたイノベーションの実現には、テクノロジーの活用によって偏見を最小限に抑え、現実の害悪に体系的に正面から立ち向かい、害悪を軽減する方法を特定してバイアスを排除する必要もある。

 「次はどこへ向かうか」は、世界中のリーダーにとって大きな問題だ。だが、パンデミックをはじめとする最近のディスラプションを経て、組織はテクノロジーをバックボーンとして、「いずれの場所でも」「あらゆる場所で」「その先へ」、さらに大きな価値を生み出す時期を迎えている。

出典:Where CIOs and IT Leaders Will Go Next(Gartner)

筆者 Kasey Panetta

Brand Content Manager at Gartner


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