基本設計書は納品前ですが、システム作っちゃいました「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(95)(1/3 ページ)

基本設計がFIXしない状態のまま完成したシステム。基本契約と個別契約、どこまでが支払い対象と認められるのか――?

» 2022年03月07日 05時00分 公開
「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説

連載目次

基本契約と個別契約

 今回は「契約論」に関わる紛争の例を紹介したい。

 ある程度の規模のシステム開発、特にウオーターフォール型の開発では、その全体を1つの契約で行わない場合が多い。まず、プロジェクトの全体を通して大きな1つの契約を結ぶ。そこには実現すべき機能や費用などの詳細は記述されず、ただ全体としてのシステム開発を行うこと、そして機能や費用、具体的なスケジュールなどは別途契約して決めていくという程度のことが書かれている。これはよく「基本契約」と呼ばれる。

 この基本契約の約束に従って作業工程を分割し、その小さな単位ごとに結ばれる契約を「個別契約」という。設計、製造、テスト――といった具合に小さな単位で契約し、検収もその単位で行うというわけだ。

 大きなシステム開発の場合は、契約時点では先のことが分からず、作るべきものも費用も曖昧なことが多いので、工程ごとにそれらを決めて検収する方法はある意味合理的といえる。設計途中に顧客の要望が変わったり、思わぬところで技術的な困難に遭遇して作業の内容の成果物が変わったりすることがあるからだ。

二種類の契約が問題となった事件

 しかし、この基本と個別という契約の二重構造は、度々発注者と受注者の間の争いの元となる。事件の概要から見ていこう。

東京地方裁判所 平成26年6月26日判決から

ある海運業者が自社の基幹システム開発をITベンダーに発注した。両者の間には、システム開発を行うことと、具体的な成果物、費用、期間などは個別契約で定める旨を訳した業務委託契約(基本契約)と、各工程の進捗(しんちょく)に応じて、「要件定義」「基本設計」「詳細設計以降」の作業に関する個別契約がおのおの締結された。

しかし、海運業者はITベンダーが作成した基本設計書について、その内容に不備や間違いが多かったことから納入を認めなかった。ただ、システムの早期完成を望むITベンダーは、基本設計書が受け取られない段階でも、作業を先行させ、詳細設計、開発、テストと進み、システムは一応、稼働可能な状態とはなったが、やはり多くの不具合が残存し、結果として納期も遅延していたため、海運業者は基本契約を解除した。海運業者はITベンダーに対して既払い金の返済相当額を損害賠償として求めたが、ITベンダーは、不具合はあっても、自分たちは約束した成果物を完成させたとしてこれを拒み訴訟となった。

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