スタンフォード大学の研究所が、AIの進歩や影響に関する最新の年次調査レポート「2022 AI Index Report」を公開した。
この記事は会員限定です。会員登録(無料)すると全てご覧いただけます。
Stanford Institute for Human-Centered Artificial Intelligence(HAI:スタンフォード大学人間中心AI研究所)は2022年3月16日(米国時間)、AIの進歩や影響に関する年次調査レポート「2022 AI Index Report」を公開した。
2017年から行われている同レポートの作成、公開は、HAIの独立した取り組みであり、学術界と産業界の専門家から成るAI Index Steering Committee(AIインデックス運営委員会)が主導している。
同委員会の共同議長を務めるジャック・クラーク氏は、2021年におけるAI動向の基調を次のように要約している。
「2021年は、AIが新興技術から成熟した技術になった年だ。われわれはもはや、科学研究の理論的な部分を扱うのではなく、実世界にプラスとマイナス両方の影響を与えるものを扱うようになった。2022年のAI Index Reportは、AIが経済に統合され、その効果が研究、導入展開、さらには資金調達に至るまで、グローバルに広がり始めていることを明らかにしている」
AI Index Reportは、研究開発、技術的パフォーマンス、倫理、AI政策、ガバナンス、経済、教育など、幅広い観点からAIの急速な進歩を測定、評価するものだ。AIに関する議論の根拠となるデータを提供し、意思決定者が人間本位の立場から、責任と倫理を持ってAIを発展させる有意義な行動を取れるようにすることを目的としている。
2022 AI Index Reportのハイライトは次の通り。
2021年の世界の民間AI投資額は約935億ドルとなり、前年の2倍以上に増えた。これは2014年以来の高い伸びだった。その一方で、新たに資金調達を行ったAI企業の数は、2019年の1051社から、2020年は762社、2021年は746社と減少を続けている。5億ドル以上の資金調達ラウンドは、2020年は4件だったが、2021年は15件に増えた。
地政学的緊張が高まっているものの、論文発表数を見ると、2010〜2021年のAIに関する国際共同研究は、米国と中国によるものが最も多く、2021年は2010年比で5倍に達した。2番目に多かった英国と中国の共同研究と比べると、2.7倍となっている。
大規模な言語モデルは技術ベンチマークで最高記録を更新している。だが、新しいデータは、大規模モデルではトレーニングデータのバイアスを反映する傾向も高いことを示している。2021年に開発された2800億パラメーターを持つモデルは、2018年時点で最先端と考えられていた1億1700万パラメーターのモデルと比べて、誘発毒性が29%高い。システムは時間とともに著しく性能が向上しているが、それに伴ってバイアスの潜在的な深刻度も高まっている。
AIにおける公平性や透明性に関する研究は2014年以降、爆発的に増加し、倫理関連学会での関連論文の発表も5倍に増えた。アルゴリズムの公平性とバイアスは、主に学術的な探求対象だったが、幅広い影響がある主流の研究トピックとしてしっかりと組み込まれるようになった。近年では、倫理に焦点を当てた学会で産業界の研究者が行う論文発表は、年平均71%のペースで増えている。
2018年以降、画像分類システムのトレーニングコストは63.6%減少し、トレーニング時間は94.4%改善された。トレーニングコストの低下とトレーニングの高速化という傾向は、レコメンデーション、物体検知、言語処理など、他のMLPerfタスクカテゴリーでも現れており、AI技術のビジネス利用拡大の追い風となっている。
技術ベンチマークで最先端の結果を達成するには、追加のトレーニングデータを使用することがますます必要になっている。2022 AI Index Reportで取り上げた10のベンチマークのうち9つでは、最先端の結果を出したAIシステムは、追加のデータでトレーニングされている。この傾向は、膨大なデータセットにアクセスできる民間セクターのシステムに有利に働く。
25カ国のAIに関する立法記録を分析したところ、「人工知能」を含む法案の成立件数は、2016年にはわずか1件だったが、2021年には18件に増えた。2021年にAI関連法案を最も多く可決したのはスペイン、英国、米国だった(いずれも3件)。
AIインデックス運営委員会の独自調査から、ロボットアーム価格の中央値が2017年の1本4万2000ドルから、2021年には2万2600ドルへと46.2%低下したことが分かった。ロボティクス研究がより手ごろなコストで行えるようになった。
HAIは、2022 AI Index Reportのハイライトとして以上の8つを挙げるとともに、同レポートから、AIの現状を端的に示すチャートを選んで紹介している。これらのうち、ハイライトの項目との重複を除いた7つを以下に示す。
2021年における全求人情報のうちAI求人情報の割合について見ると、機械学習スキルを持つ人材の求人が最も多く(全求人情報の0.6%)、次いで人工知能スキル(同0.33%)、ニューラルネットワークスキル(同0.16%)、自然言語処理スキル(0.13%)となった。機械学習スキルや人工知能スキルを持つ人材の求人は、ここ数年で大幅に増加している。機械学習人材の求人情報は2018年と比較して3倍近く、人工知能人材の求人情報は同約1.5倍の水準に達している。
過去10年を見ると、AI博士号の取得者が増加傾向にあることが分かる。米国では大部分が産業界に就職し、ごく一部が政府系の仕事に就く。
2010〜2020年に新たにAI博士号を取得した米国在住者の内訳は、非ヒスパニック系の白人が平均65.2%、アジア系が同18.8%を占める。一方、黒人またはアフリカ系米国人(非ヒスパニック)は同約1.5%、ヒスパニックは同約2.9%にとどまる。過去10年間で、黒人やアフリカ系米国人、ヒスパニック系のコンピューティングに関する新規博士号取得者の割合は、大幅に減少している。
パターン認識や機械学習を専門とする研究者が増えている。この2つの分野における論文発表は、2015年と比べて2倍以上に達している。コンピュータビジョン、データマイニング、自然言語処理など、ディープラーニングの影響を強く受けている他の分野では、より小幅な増加となっている。
2021年のAI特許出願件数は2015年の30倍に増加し、この間の年平均成長率は76.9%だ。地域別では、2021年の特許出願件数の62.1%を東アジアおよび太平洋地域が占め、北米(17.07%)、欧州および中央アジア(4.16%)がこれに続いた。
ACM FAccTは、アルゴリズムの公平性、説明責任、透明性(FAccT)に関する研究が発表される学際的な学会だ。この学会では、さまざまな組織におけるFAccTの問題に対する高い関心が寄せられており、特に産業界の研究者が、この分野の研究を活発化させている。
米国ではここ数年、連邦議員によるAIに関する規制案が急増している。2015年に提出された連邦法案はわずか1件だったが、2021年には130件に上った。ただし、これまでのところ、可決された法案はごく一部にすぎない。このギャップは2021年が最も顕著で、提出された連邦レベルのAI関連法案のうち、法律として成立したのはわずか2%だった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.