HDDの寿命を予測する、6年後に何%が生き残るのか?4TB〜14TB、計10モデルのHDDを分析

クラウドストレージやクラウドバックアップサービスを提供するBackblazeは、自社データセンターで使用するHDDの寿命について分析した結果を報告した。カプランマイヤー法による寿命曲線を導入し、例えば6年後に購入したHDDのうち何%が正常動作するのかを予測した。

» 2022年08月01日 16時45分 公開
[@IT]

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 クラウドストレージやクラウドバックアップサービスを提供するBackblazeは2022年7月20日(米国時間)、自社データセンターで使用中のHDDの寿命について、分析結果を報告した。

 今回は、4TB HDD(2モデル)と8TB HDD(2モデル)、12TB HDD(3モデル)、14TB HDD(3モデル)を選んだ。

Western Digital(WDC)のHGSTブランドの製品「HMS5C4040BLE640」(容量4TB)

 Backblazeは自社データセンターで使用するHDDについて年4回、SSDについて年2回、使用統計レポートを発表しており、今回のHDDの寿命分析では、2013年から現在までの統計データを使用した。分析に使用するモデルについては、稼働台数と正常稼働日数のデータが十分あり、「カプランマイヤー法」による寿命曲線を作成できる10モデルを選んだ。

 カプランマイヤー法を使うと、HDDの寿命を簡単に可視化できる(横軸に時間、縦軸に生存率を示す)。カプランマイヤー法は生物科学分野において、治療を受けてから一定期間生存した被験者の割合を測定し、平均余命を予測するために最もよく使用されている。だが、他の分野に応用されることも珍しくない。

4TBモデルの比較

 4TB HDDでは、2022年3月31日時点で稼働台数が最も多かった2モデルを選んだ。Western Digital(WDC)のHGSTブランド(2012年にWDCの傘下に入った)の製品「HMS5C4040BLE640」と、Seagate Technology(Seagate)の「ST4000DM000」だ。どちらも1万台以上を同社で利用中だ。

 2つのモデルの統計情報とカプランマイヤー法による寿命曲線を次に示す。統計データは2022年3月31日時点のものだ(8TBモデル、12TBモデル、14TBモデルも同時点の統計データを記した)。

メーカー モデル 稼働台数 生涯故障数 生涯正常稼働日数 生涯AFR(年間平均故障率)
HGST HMS5C4040BLE640 1万2728 343 3002万5871 0.40%
Seagate ST4000DM000 1万8495 4581 6810万4,520 2.45%
2つの4TBモデルのカプランマイヤー法による寿命曲線 青がHGSTのモデル、緑がSeagateのモデル 縦軸:生存率、横軸期間(最大72カ月)(提供:Backblaze)

 このグラフの横軸に72とある時点を見ると、縦軸の値から6年間(72カ月)間稼働する確率が分かる。

  • HGSTモデルが6年間稼働する確率 97%
  • Seagateモデルが6年間稼働する確率 81%

 確率だけを見て「Seagateモデルを購入したのは間違いだった」と結論付けることはできない。なぜなら企業がまとまった数のHDDを購入する場合、価格、入手のしやすさ、納入日数、メンテナンスなども判断材料になるからだ。

 BackblazeのデータセンターではHGSTのHDDよりも、SeagateのHDDの方が交換台数は4200台多かった。つまり、年間700台のHDD(1日当たり約2台)、SeagateのHDDを交換する必要があった。同社は複数のデータセンターを運用しており、この作業にかかる時間は1日に30〜40分費やしていたという。運用担当者の作業量は増えたものの、ほぼ増員は必要なかったという。

8TBモデルの比較

 比較対象として選んだSeagateの2つの8TBモデル「ST8000DM002」と「ST8000NM0055」は、それぞれ消費者向けモデルと企業向けモデルとされている。各モデルの統計データとカプランマイヤー法による寿命曲線は次の通り。

タイプ モデル 稼働台数 生涯故障数 生涯正常稼働日数 生涯AFR(年間平均故障率)
消費者向け ST8000DM002 9678 628 1981万15919 1.13%
企業向け ST8000NM0055 1万4323 915 2499万9738 1.35%
8TBモデル2製品のカプランマイヤー法による寿命曲線(提供:Backblaze)

 このグラフから分かることは3つある。

  • 導入当初はどちらのモデルもほぼ同じ寿命だったが、2年目くらいから差がつき始め、その後の3年間で差が大きくなっている。
  • 消費者向けモデル(ST8000DM002)が5年間稼働する確率 約95%
  • 企業向けモデル(ST8000NM0055)が5年間稼働する確率 93.6%

 この結果は、各モデルの保証内容と矛盾しているように思われる。消費者向けモデルの保証期間は通常2年だが、企業向けモデルの保証期間は通常5年だ。ところが、上の例では、消費者向けモデルの方が5年間の生存率が高く、この傾向は、一般的な消費者向けモデルの保証期間の終わりである2年目から始まっている。生涯AFR(年間平均故障率)も消費者向けモデルの方が低い。

 こうした奇妙な結果になったものの、どちらのモデルも良好な数字を残している。

 なお、故障率や寿命にかかわらず、企業向けモデルを購入する理由は幾つもある。例えば、HDDをチューニングしたり、ファームウェアを調整したり、消費者向けモデルより3年間長く、保証による交換を受けたりできるからだ。これらのことは、企業向けモデルの高い価格に見合っているかもしれない。

 Backblazeによれば、HDDの保証についてさらに考慮すべきことがある。メーカーやトップクラスの再販業者からHDDを大量に購入することの大きな利点で、HDDに設定されている保証期間を守ってくれることだ。

 例えばオンライン小売業者からHDDを購入した場合、保証条件が分かりにくい場合が、3種類あるという。

  • (1)小売業者がメーカーや販売店、再販業者などからHDDを購入または販売委託を受けている場合

 その小売業者が購入または販売委託を受けた時点がメーカー保証の開始日となっており、例えばユーザーがその時点から6カ月後にHDDを購入すると、保証期間が「X」年ではなく、「X」年から6カ月を差し引いた期間になってしまう。

  • (2)小売業者がメーカー保証を独自の期間保障に置き換える

 このような行為は通常、再生品のHDDに対して行われるものの、オンライン小売業者が新品のHDDに対してこのようにした例があることをBackblazeは認識している。あるケースでは、5年間の保証期間が1年間に短縮されていた。

  • (3)小売業者はあくまで店舗であり、実際の販売者が異なる

 この場合、保証期間とHDDに対するサービス提供者がどうなっているのか、ユーザーには非常に分かりにくい。もちろん、アドオンの保証を購入することもできるが、本来は付属しているはずの保証になぜ余分な支出が必要になるのだろうか。

 HDDのモデルが最新型でない場合、この種の問題が起こりやすくなる。例えば、あるHDDモデルが出荷待ちでほこりをかぶっている間に、新しいモデルが競争力のある価格で市場に登場する場合がある。HDDの製造から最終的な販売までの経路にいる複数のプレイヤーは、販売経路上で古いHDDを「さばく」方法を探している。例えば、HDDのコストを削減するために保証期間を短縮または撤廃することだ。保証はサプライチェーンの犠牲となり、最後の買い手であるユーザーがかぶることになる。

12TBモデルの比較

 寿命曲線のベースとなるデータが2年分以上ある12TBモデルを、3つ選んだ。HGSTブランドの「HUH721212ALN604」と、Seagateの「ST12000NM001G」と「ST12000NM0008」だ。各モデルの統計とカプランマイヤー法による寿命曲線を次に示す。

メーカー モデル 稼働台数 生涯故障数 生涯正常稼働日数 生涯AFR(年間平均故障率)
HGST HUH721212ALN604 1万813 148 1181万3149 0.48%
Seagate ST12000NM001G 1万2269 104 616万6144 0.63%
Seagate ST12000NM0008 2万139 449 1480万2577 1.12%
12TBモデル3製品のカプランマイヤー法による寿命曲線(提供:Backblaze)

 3つのモデルはいずれも、少なくとも98%が2年間稼働すると予想できる。ユーザーの多くは、それでよしとするのではないだろうか。2年間に100台のうち1〜2台が故障するのは避けたいが、HDDに関しては100%の保証は望めないことは皆の知るところだ。

 ここで、「3モデルの価格はそれぞれどの程度か」「価格は購入決定に影響するか」をBackblazeが考察している。

 前述したように、BackblazeはHDDを大量に購入しているため、Backblazeの購入価格は消費者市場での価格を反映したものではないと考えられる。そこでここでは、この3モデルについて、Amazon.comに現時点で掲載されている価格を示す。これらは新品で、保証期間は5年間と仮定している。

HUH721212ALN604 413ドル
ST12000NM001G 249ドル
ST12000NM0008 319ドル

 Seagateの「ST12000NM001G」とHGSTの「HUH721212ALN604」は、2年後の寿命はほぼ同じだが、価格が大きく異なる。皆さんはどちらを購入するだろうか。2年間使うことを想定する場合は、ST12000NM001Gを選択することで、164ドルと消費税を節約できるだろう。「自分ならそうはしない」というユーザーもいるだろう。ST12000NM001Gは2年後以降のデータがないことを考えれば、その方が正しいかもしれない。時間がたてば正解が分かるだろう。

14TBモデルの比較

 比較対象に選んだ3モデルにはデータの期間が14〜41カ月と幅がある。東芝の「MG07ACA14TA」とSeagateの「ST14000NM001G」、WDCの「WUH721414ALE6L4」だ。各モデルの統計データとカプランマイヤー法による寿命曲線を次に示す。

メーカー モデル 稼働台数 生涯故障数 生涯正常稼働日数 生涯AFR(年間平均故障率)
東芝 MG07ACA14TA 3万8210 454 1983万4886 0.83%
Seagate ST14000NM001G 1万734 123 447万4417 1.00%
WDC WUH721414ALE6L4 8268 35 394万1427 0.33%
14TBモデル3製品のカプランマイヤーによる寿命曲線(提供:Backblaze)

 3モデルとも、1年間稼働する確率は99%以上だ。東芝のモデルは22カ月目から異常値になっているようだ。この時点では、次の図のように、故障率が安定しているはずなのに、実際には線が下向きに曲がっており、故障率が上昇したことが分かる。

東芝の14TBモデルの予想寿命曲線(水色)と実際の寿命曲線(赤色)(提供:Backblaze)

 予想寿命曲線の線は、最初の22カ月からランダム故障率を延長して導き出されたものだ。つまり、東芝のモデルは97%が3年間稼働したが、予想値は98%だった。これは簡単にいえば、故障率が3年間で、100台につき1台分、増加したということだ。

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