国産データセンターの今と、これからの「グリーン化」を考えるInside-Out

IIJは、データセンターのサービス提供者であると同時に利用者でもある。その両方の立場からデータセンターのあるべき姿を見ていく。また、海外の最新事情などから昨今の「データセンターのグリーン化」の現状をレポートする。

» 2022年10月28日 05時00分 公開
[IIJ]

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進化するデータセンター 進化するデータセンター
普段、あまり意識することがない、情報化社会の縁の下の力持ち「データセンター」のあるべき姿を見ていく。また、海外の最新事情などから昨今の「データセンターのグリーン化」の現状をレポートする。

IIJ

本記事は、株式会社インターネットイニシアティブの許可をいただき、「IIJ.news Vol.170」の「進化するデータセンター IIJデータセンターのこれまで・これからデータセンターのグリーン化〜海外の最新事情を中心に」(2022年6月号)を転載したものです。そのため、用字用語の統一ルールなどが、@ITのものと異なります。ご了承ください。


執筆者プロフィール

室崎 貴司 氏

室崎 貴司
IIJ 基盤エンジニアリング本部基盤サービス部サービス開発課長
データセンター・エンジニアリング関連サービスの企画と開発を担当。もともとアプリ開発でスクラムマスターを経験しアジャイルに造詣が深く、世界のDX推進をインフラ設備から支えたいと考えている。



文園 純一郎 氏

文園 純一郎
IIJ グローバル事業本部 グローバル事業開発部 副部長
IIJで8年以上、海外でのクラウドやDCエンジニアリングの事業開発を推進。超アジア人な外見に似合わずフランス生まれ、フランス育ちという生い立ちを活かすべく、近い将来、ヨーロッパ、アフリカ地域で新規事業立ち上げに挑戦したいと考えている。


IIJデータセンターのこれまで・これから

 IIJは、データセンターのサービス提供者であると同時に利用者でもある。それは、データセンターがどうあるべきかを、IIJが利用者の立場でも熟知しているということである。ここでは、これら双方の目線とユニークなコンセプト・技術で実現したIIJデータセンターの変遷とラインナップを紹介する。

ISPのネットワークと接続性が高いデータセンターサービスを展開

 今から30年前に日本企業で最初の商用インターネットサービスプロバイダとして事業を始めたIIJは、日本全国にインターネットバックボーンを張り巡らせるための拠点を、データセンター事業者から借りて構築していきました。

 広帯域のインターネット接続を必要とする企業の要望に応えるため、IIJネットワークに直結する利便性の高いデータセンター(以下、DC)でハウジングおよびホスティングサービスを開始し、国内主要都市に展開しています。

[松江データセンターパーク]日本初の大規模な商用モジュール型DC

 2000年代後半になるとクラウドサービスが台頭し始め、IIJでもクラウドサービス「IIJ GIO」の提供を開始しました。そして、拡張性があるサービス基盤としての自社DC建設の機運が高まり、2011年に松江データセンターパーク(島根県松江市)を開設しました。松江データセンターパークでは、それまでに培ったノウハウを結集して自社開発したコンテナ型ITモジュール「IZmo(イズモ)」により、コストを削減し、スケーラビリティ、劇的な省エネを実現しています。

[白井データセンターキャンパス]増大するクラウド需要に対応する大規模DC

 2010年代半ばからデジタルデータが爆発的に増え始め、クラウド基盤向けのDC需要を満たす大規模DCの建設が世界的に活発になっています。

 IIJでも2019年、白井データセンターキャンパスを千葉県白井市(千葉ニュータウン/印西地区)に開設しました。白井データセンターキャンパスは、松江データセンターパークの装置・建物一体型の考え方や、効率的な運用の追求といったコンセプトはそのままに、より大きなニーズに応え得る広大な"キャンパス"をイメージして建設しました。ここでは新技術のショウケースにもなる実験的な取り組みにチャレンジし続けており、JPNAPが提供するインターネットエクスチェンジ(IX)と構内で直結していることも大きな魅力です。

 白井データセンターキャンパスでは、2023年の運用開始に向けて2期棟の建設が始まっており、自動運用の発展、運用効率の向上、メガソーラー発電設備の併設による脱炭素社会への取り組みを推進していきます。

ハイパースケールからエッジまでIIJのDCラインナップ

 自社のサービス基盤にも利用されている白井データセンターキャンパスは、企業向けのコロケーションサービスのみならず、クラウド事業者、コンテンツ事業者向けの基盤としても最適な郊外型「ハイパースケールデータセンター」です。また、国内主要都市における利便性の高い都市型DCのコロケーションサービスも合わせて展開しています。

 クラウド需要が増大する一方、今後数年内に5Gやビヨンド5Gのモバイル技術、IoTなどの普及にともなって、エッジにおける分散処理の需要が急速に高まると予測しています。そこで、これからのDCは、クラウドの基盤となる大規模DCと機動性が高く小規模な「エッジデータセンター」の組み合わせによる"分散・最適化"がカギになると考えています。

 IIJは2021年11月、エッジデータセンターソリューションである「DX edge」をリリースしました。「DX edge」では、コンテナ型DCやマイクロDCにより、企業のデジタル基盤となるオンサイトDCやデジタル田園都市構想を実現する地域レベルのローカルDCに最適な設備を提供しています。

ハイパースケールデータセンターとエッジデータセンターの複合的利用 ハイパースケールデータセンターとエッジデータセンターの複合的利用

IIJデータセンターの変遷 IIJデータセンターの変遷

IIJデータセンターのラインナップ IIJデータセンターのラインナップ

データセンターのグリーン化〜海外の最新事情を中心に

 各分野で進められている「脱炭素化・省エネ化」の波はデータセンターにも押し寄せている。ここからは、海外の最新事情なども交えながら、「データセンターのグリーン化」について紹介する。

データセンターは巨大なコンピュータ

 世の中はデジタル化でますます便利になっていますが、その中核となるデータセンター(以下、DC)の1つひとつは、「電力を大量に消費する巨大なコンピュータ」に喩(たと)えることができます。DCは規模が大きいものになると、数十MWから数百MWもの電力を受電し稼働しています。一般的な家庭であれば5kW程度の受電容量で十分と言われますので、DCがどれだけ大量の電気を食う巨大なコンピュータなのかがおわかりいただけると思います。

 近年、SDGs(持続可能な開発目標)といった国際社会のイニシアティブを通して、電力を消費するあらゆる場面において、脱炭素電力活用・省エネ化の積極的な促進が叫ばれるようになりました。DCも例外ではありません。

 2021年6月、経済産業省が打ち出した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」*1では、2040年までにDCのカーボンニュートラル化を目指すとしています。IIJでも自社で運営している、そして将来建設予定のDCのカーボンニュートラル化に関するタスクフォースを立ち上げ、今後の対応について検討を始めました。

「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」より 「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」より

 デジタル化が進めば進むほどDCの重要性は高まります。IIJとしても将来の需要を見込んでDCのキャパシティを計画的に増やしていかなければなりませんが、日本ではそもそも電力コストが高く、大規模な電力が必要な場合、電力網への接続に何年も要するといった課題があります。加えて、グリーン化も考慮しなければならないため、最近の千葉県印西市周辺のDC建設ラッシュとは裏腹に、国内における新たなDC建設のハードルは今後ますます高くなるのではないかと考えています。

海外のグリーンDC

 海外に目を向けると、アジア地域におけるDCの先進市場であるシンガポールでは、2020年の総電力消費量(3・4TWh)の7パーセントをDCが占め、この割合は2030年には12パーセントに達すると予測されています。そこで、新たにDC建設を申請する際、計画にサステナビリティとイノベーションの要素が含まれていることが、2022年から必須要件となりました*2

 例えば、サステナビリティという観点では、PUE1・3以下を義務付けています。PUE(Power Usage Effectiveness)は、いかに電力を効率良く使っているかを示す指標ですが、一般的なビル型DCがPUE2・0と言われていますので、シンガポールのような亜熱帯地域でPUE1・3以下を達成するのは簡単なことではありません。

 また、イノベーションという観点では、同国大手DC事業者であるケッペルDCが2018年に発表した海上に浮かぶフローティングDC計画*3は、DCの用地不足を補い、エネルギー消費効率を上げ、冷却に必要な処理水を削減できるアイデアと言えるでしょう。

ケッペルDC ケッペルDC

広大な土地を活かしたアイスランドの平屋建DC 広大な土地を活かしたアイスランドの平屋建DC
アイスランドでは、水力(約70パーセント)、地熱(約30パーセント)、風力(1パーセント未満)で全電力を生み出している。DC が集中する南西地域は、夏でも平均気温が20℃程度で外気循環による冷却のみで十分なため、冷却装置を置かない DC が一般的。

ノルウェーの水力発電所 ノルウェーの水力発電所
ノルウェーでは19世紀後半、川や滝を利用した水力発電設備が建設された。今日、ノルウェーはヨーロッパ最大の水力発電の規模を誇り、世界でも6番目。
(ノルウェー大使館:Innovation Norway / Invest in Norway)

 最近、日本の状況を知ってか知らずか、海外の事業者、特に電力会社から「IIJさん、ぜひ我が国でグリーンDCを建てませんか?」というお誘いが増えています。これまでにも複数の国の方から話をうかがう機会がありましたが、例えばアイスランドでDCを建てれば、水力や地熱で発電した電力を利用できますし、ノルウェーであれば水力や風力で発電された電力を利用できます。これらの国々ではグリーンDCはすでに現実のものとなっているのです。

 同じことを日本で実現するのは簡単ではありませんが、先進市場で起こっている「DCはグリーンでなければならない」という流れは、近い将来、日本にも押し寄せてくるのは間違いないので、今から官民一体となって、日本の地理的環境や天然資源などの条件にマッチした現実解を見つけ、実現に向けて取り組んでいく必要があります。

 ここでご紹介したDCの話は、お客さまにとっても決して他人事ではありません。二酸化炭素削減のために電気自動車を買ったとしても、それを充電するための電気がグリーンな方法で発電されていなければ結果的に意味がないのと同様に、DCはほぼ全てのITサービスの基盤となるわけですから、「御社が利用しているITサービスはグリーンですか?」と取引先から尋ねられる時代が近い将来訪れるかもしれません。DCを運営する側・利用する側の双方が協力し合って、初めて持続可能なデジタル社会が実現できるのです。

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