環境の変化に素早く対応するためには開発だけでなく、企業の活動そのものが「アジャイル化」する必要がある。本稿では、その改革を実現させるために有効な「アジャイルセンターオブエクセレンス」について解説する。
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素早いビジネス環境の変化に柔軟に対応するためには、管理職も開発スタッフも考え方と行動を“アジャイル的に”大きく変える必要がある。こうした「アジャイルトランスフォーメーション」の取り組みに役に立つのが、「アジャイルセンターオブエクセレンス」(アジャイルCoE)だ。
アジャイルCoEは「アジャイルトランスフォーメーションを成功させることに責任を持つ人々を集めたグループ」と定義できる。アジャイルトランスフォーメーションに関わる全員が各組織の変化とプロセスの変化を理解し、受け入れられるようにするという明確な役割がある。アジャイルトランスフォーメーションに取り組む従業員に有益なガイダンス、サポート、教育を提供し、そして何よりもその取り組みに対してリーダーシップを発揮する。
大切なのは、トレーニングとサポートの連絡先をアジャイルCoEに集約することだ。これによって、アジャイルトランスフォーメーションに関するメッセージの一貫性と正確性を確保でき、異論や変更があったときに従うべきプロセスを従業員が適切に理解できる。従業員や管理職からすれば、アジャイルトレーニング、ツールの検索、プロセスの変更が必要になったときはアジャイルCoEに連絡するだけなので負担が少ない。
また、従業員のグループ同士のコラボレーションを構築し、アジャイルになるための新たな機会を見極め、課題を明らかにして、アジャイルトランスフォーメーションのプロセスに苦戦している経営陣、管理職、従業員のために意思決定を行うのもアジャイルCoEの重要な仕事だ。
アジャイルCoE内には主な3つの役割がある。
CoEリードは、リーダーとして明確なビジョンを持って行動し、意思決定を行うことで、アジャイルトランスフォーメーションを推進する。プロセスのリセット、プロセスの要件作成、導入するアジャイルプラクティスの評価などに責任を持ち、アジャイルの導入についての戦略的計画も提供する。通常は、経営陣または指導職にある人物がCoEリードを務め、社内の全部門との調整を行う。
リーダーシップコーチは主にガイダンスを提供する。開発チームや管理職が採用したアジャイルプロセスをレビューし、アジャイルトランスフォーメーションに向けてチームが実施していることを管理職などのリーダーがしっかりと把握できるよう支援する。また、アジャイルの問題に関する従業員の対立を収め、解決し、上司の承認が必要な革新的アイデアについて従業員を指導する役割もある。
アジャイルコーチは、トレーニングとサポートを提供する。アジャイル手法の導入において生じる疑問や困難な事象の解消を支援し、メンバーからの積極的な提案を助け、アジャイルの成熟度評価やプロセスの監査を実行する役割がある。
他にもアジャイルCoEはさまざまな支援をする。アジャイルを使用するための見本となるアプローチを提示する、アジャイルの会議や議論に参加して知識を伝達する、「なぜ、どのように、いつ、どこを、誰が」といったアジャイルトランスフォーメーションに関する基本的な疑問に答えるなど。特に従業員や管理職にサポートが提供される点がアジャイルCoEの大きなメリットだ。アジャイルの目的や定義が従業員と管理職の間で異なれば、アジャイルトランスフォーメーションは簡単に迷走する恐れがある。
アジャイルCoEには次の5つの特徴がある。
全てのチームが同じツールと作業プロセスを使用する。
有効なツールの使用は、アジャイルの導入を成功に導くのに役立つため、アジャイルCoEは従業員と管理職の知識を使って、他のメンバーがアジャイルプロセスに従うように奨励する。
アジャイルトランスフォーメーションの進捗状況を追跡し、プロセスや手順の修正が必要な場合は決定的な措置を講じる。
見本を示し、積極的なサポートを提供し、プロセスの変化に異議が唱えられたり、無視されたりしたときに決定を下す。
アジャイルへの変化を積極的に実践し、サポートすることで、アジャイルなプロセスのメリットを従業員や管理職に指導する。
アジャイルCoEは従業員、管理職、指導職がアジャイルの導入の価値を最大限に高めるのに役立つ。このため、アジャイルトランスフォーメーションが成功する可能性も上がるだろう。
もちろんアジャイルCoEがなくても、アジャイルトランスフォーメーションは実現可能だ。ただ、アジャイルに関する情報が集まる“場所”がなければ、必要な情報をそのときそのときで探さなければならなくなる。そしてその役割は管理職かスクラムマスター、あるいは従業員に任せることになるだろう。
アジャイルCoEなしでアジャイルトランスフォーメーションに取り組むと、アジャイルに関する意見の相違や不調和が生じやすく、時間がたつにつれ、各チームがそれぞれ好みのアジャイルを導入してしまい、やがてアジャイル前の作業習慣に徐々に戻ることが多いという。
パフォーマンスの高い開発チームを選抜し、そのチームにまずアジャイルの導入を任せるという選択肢もある。その場合は、そのチームに社外のトレーニングとガイダンスを提供し、認定スクラムマスターを用意する。自社のアジャイルトランスフォーメーションの問題点の解決とベストプラクティスを考案してもらい、「プロセスの変化で何が機能し、どこで問題が発生するか」を見つけて、解決する方法を実行してもらう。結果が良好だったら、残りの開発チームがその変更を取り入れるという形だ。
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