AI、規制、インフレ――2024年のデジタル動向を左右するマクロ情勢とは? IDCアナリストが解説技術、経済、社会、政治情勢に注目

IDCのアナリストがブログ記事で、2024年のデジタル動向を左右するとみられるさまざまなマクロ情勢を取り上げ、解説を加えた。

» 2024年02月01日 08時00分 公開
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 IDCの先進技術/マクロ経済担当シニアリサーチアナリスト、ラポ・フィオレッティ氏は、2024年1月26日(米国時間)に公開したブログ記事で、2024年のデジタル動向を左右するとみられるさまざまなマクロ情勢を取り上げ、解説を加えた。

 以下では、その概要を紹介する。

AIの実装の進展

 2023年が「どこでもAI」の幕開けを告げたとすれば、2024年はその流れが本格化するのだろうか。AI(人工知能)の実装の進展を妨げる要因は多々あり、その中には重要なインフラやスキルの不足、導入コストの上昇、インフラとデータ戦略の急速な変化などが含まれる。だが、企業は実装を進めようと意欲的だ。

IT業界のAIシフト

 テクノロジープロバイダーは研究開発、人材配置、設備投資をAI/自動化にシフトしている。これはIT企業にとって魅力的な挑戦だ。ソリューションを保有することで価格決定力が得られ、それを基に、業界の方向性を巡るクラウド、SaaS、大手コンサルティング会社、主要インフラプレイヤー間の主導権争いが展開される。

 2023年の投資が2024年にどのように実を結ぶのかは興味深い。新たなユースケース、アプリケーション、イノベーションの観点からも注目される。また、テクノロジープロバイダーがどのように導入初期の課題に対応し、潜在的なビジネス価値をエンドユーザーに示すのかも注目点だ。

選挙の年

 2024年はEU(欧州連合)の選挙、英国と米国の総選挙など、世界で60以上の総選挙が行われ、将来の世界均衡の行方が見えてきそうだ。主要地域で政治勢力の交代があれば、現在進行中の国家計画の再調整や停止につながり、グリーンイニシアチブ、国際関係、投資、規制など、各国のデジタル課題における新たな優先事項が出てくるかもしれない。

インフレ動向

 米国では、インフレ率の2%目標への正常化までには、もうしばらく時間がかかりそうだ。2023年後半にはインフレ沈静化の兆しも見られたが、年末にかけて物価は再び上昇した。そのため、利上げはピークに達したと思われるものの、2024年上半期か下半期に利下げが実施されるのかはまだ不透明だ。

 インフレを背景としたサプライチェーンの継続的な混乱は、石油、エネルギーセクターにとってますます脅威となり、多くの地域ではIT製品やサービスのサプライチェーン問題も、コストやイノベーションへのアクセスに影響を与え続けるだろう。

デジタル規制

 2024年には、IT規制(特に、AIに関する規制)の大幅な進展が予想される。EUの「AI規制法案」を通じて欧州が主導権を握る見通しだ。この法律はグローバル企業に影響を与えるだろうが、その影響が十分に明らかになるのはまだ先のことかもしれない。この1年は、今後のスケジュール、当初の影響、加盟国の施行アプローチを見極める上で、極めて重要な年となるだろう。

 他の各国もAI規制競争に参加している。米国ではAIに関する大統領令が出されており、議会でさまざまな法案が審議されている。データプライバシー規制が進んでいる州もある。中国では生成AIに関するルール案が発表されており、ブラジルにもEUに触発されたルールがある。

サステナビリティ(持続可能性)の実現

 化石燃料に関する「COP28」の歴史的な合意を受けて、2024年は持続可能性改革にとって極めて重要な年となる。気候変動に直接起因する自然災害が、この1年間に世界各地でますます頻発していることもその背景にある。

 欧州では厳しい規制が施行され、持続可能性の取り組みが強化されそうだ。米国では、「インフレ抑制法(IRA)」によるインセンティブベースのアプローチが、2024年にようやく大きな影響を与えると予想される。中国は、グローバル市場での競争優位獲得に向けてグリーン産業を戦略的に重視しており、アジア太平洋諸国の中には、オーストラリアや韓国のように気候変動やESG(経済、社会、ガバナンス)に関する厳しい規制を設けている国もある。

 これらの国では、デジタルトランスフォーメーション(DX)と技術が重要な役割を担い、ITソリューションを活用してグリーンイニシアチブを実行するだけでなく、IT産業自体をより持続可能で環境に優しいものにする動きが進みそうだ。

 気候変動技術や持続可能性イノベーションに対するベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達は、2023年には減速したが、COP28で新たに設立されたファンドが、この分野でのさらなる加速に先鞭(せんべん)をつけるだろう。また2024年は、国や企業がAI投資の意思決定において、持続可能性目標達成へのプラスとマイナスの影響も考慮し始めるだろう。

エコシステムの進化

 中国の供給と経済の回復は、世界経済の力学の形成において重要な役割を果たす。中国のサプライチェーンの継続的な成長と回復力は、世界経済に広範な影響を及ぼす。中国は依然としてさまざまな産業で主要プレイヤーだからだ。中国は経済的課題からの回復を図り、エコシステムを変化に適応させており、その影響は世界の貿易とIT市場の力学を再構築しそうだ。

 一方、デジタル主権と保護主義の台頭は、既に世界の貿易と技術市場を再定義しつつある。各国は自国の技術サプライチェーンの確保に注力しており、その結果として重要な原材料の調達競争が激化し、技術的な自立が推進されている。国家安全保障と経済的利益に関する懸念に後押しされたこの傾向は、グローバルな技術サプライチェーンを分断し、新興産業のパワーバランスを再構築する可能性がある。

地政学的緊張の継続

 ロシアのウクライナ侵攻や中東情勢など、世界の戦略的地域で進行中の紛争は、投資、サプライチェーンの混乱、原油価格の変動といった面で市場に影響を与え続けている。重要なデータセンターが影響を受け、人材の解雇や配置転換が行われ、重要部品の調達フローが混乱している。

 サプライチェーンは、特に、進行中の紛争の影響を受けている主要な世界的輸送チャネルの混乱に関連して、注目に値する。現状では、世界で起きている極めて重大な紛争のほとんどが、短期的には解決しそうにない。その継続は、不穏な結果を増幅しそうだ。

 こうした現在進行中のマクロ情勢についてモニタリングを継続し、予期せぬショックに直面した際に、すぐに戦略計画を評価、調整できるようにしておくことが不可欠だ。

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