「GitOps」を提唱したWeaveworksの閉鎖が物語る、オープンコアモデルの難しさ「Flux CD」ユーザーはどう受け止めているのか

クラウドネイティブなアプリケーションやインフラをデプロイする方法として普及する「GitOps」を提唱したWeaveworksの閉鎖が発表された。オープンソースにおいて、ベンダーの存続が極めて難しいことを物語っている。

» 2024年03月07日 17時00分 公開
[Beth PariseauTechTarget]

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 クラウドネイティブなアプリケーションやインフラをデプロイする方法である「GitOps」を提唱したWeaveworksの創業者兼CEOのアレクシス・リチャードソン氏は2024年2月5日(米国時間、以下同)、「2023年度は収益と顧客数を伸ばしたものの、2024年2月上旬に事業を閉鎖する」とLinkedInで明らかにした。

 Weaveworksが販売していたのはオープンソースの「Flux CD」を基盤とする継続的デリバリー(CD)の商用製品だ。Flux CDは、2021年にCNCF(Cloud Native Computing Foundation)に寄贈されており、「Graduated」という成熟度に分類されていた。

 リチャードソン氏は、LinkedInへの投稿で次のように述べている。

 「売上高の伸びには波があり、資金繰りは不安定だった。当社の長期的成長にはパートナーか、投資家が必要だった。最後のチャンスだった大手企業による非常に有望なM&Aプロセスも不調に終わった。そのため、事業を閉鎖することにした」(リチャードソン氏)

 Weaveworksは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)時に過剰に投資された後、2022年以降はベンチャーキャピタルの投資額が大幅に減少している。リチャードソン氏によると、同社は2014年に500万ドル、2016年に2000万ドル、2020年に3600万ドルと3回の投資ラウンドで総額6100万ドルを集めたという。米国の金融サービス企業S&P Globalによると、テクノロジー企業のM&Aの額も全体的に縮小傾向にあるという。

 Gartnerでアナリストとして働くポール・デロリー氏は「当初、GitOpsは基本的には『Weaveworksの仕組み』と定義されていた。GitOpsを生み出した同社は間違いなく称賛に値する。だが、優れたアイデアが必ずしも実用的なビジネスモデルになるとは限らない」と述べている。

 米国の業界アナリスト企業Platify Insightsの創設者でチーフアナリストを務めるドニー・バークホルツ氏は「ベンチャーキャピタルから投資を受けることで、スタートアップ企業は収益よりも投資を優先し、可能な限り早いペースで成長するよう促される。少なくとも最近まではそうだった。その結果として、意図的に収益を上げるよりも速く資金を使ってしまうスタートアップ企業は多い。資金が底をつく前に資金調達ラウンドで資金を調達したり、買収を受けなければ、すぐさま終焉(しゅうえん)を迎える可能性がある」と述べている。

オープンコアモデルの難しさ

 Weaveworksの閉鎖は、2024年にエンタープライズテクノロジーベンダーが直面するであろう別の逆風も表している。つまり、無料で利用可能なオープンソースソフトウェア(OSS)を基盤として持続可能な商用ビジネスを構築するオープンコアモデルの難しさだ。

 この難しさは、2023年後半にHashiCorpが自社製品のライセンスを「Mozilla Public License」(MPL)から「Business Source License」に変更すると発表し、注目を集めたことでピークに達した。オープンソースの旗頭ともいえるRed Hatも、2023年、同社のOS「Red Hat Enterprise Linux」(RHEL)を同社の顧客のみが利用できるようにし、同OSの再公開を禁止している。

 「OSSを基盤としたビジネスを成功させるには、製品が市場に合っていることを2回示さなければならない。利用者が使いたくなるような魅力的な無料サービスを提供し、利用者がお金を払ってでも手に入れたいと思わせるほどの価値がある有料サービスも用意する必要がある」(バークホルツ氏)

 主に「Kubernetes」ベースの環境に重点を置くGitOpsは、特に成功するのが難しい市場だった可能性があるとデロリー氏は指摘する。

 「そもそも、GitOpsの商業的価値がそれほど大きいとは思えない。ベンダーはこの製品をエンジニアリングチームに売り込もうとするだろうが、エンジニアリングチームは本質的にツールを自身の手で構築しようと考える。つまり、普通に考えれば、エンジニアリングチームはオープンソースコンポーネントを利用して自身でツールを組み立てようとするだろう」(デロリー氏)

 さらに、Weaveworksは「Argo Project」との厳しい競争にも直面していた。Argo ProjectはCNCFの「Graduated」レベルのオープンソースプロジェクトで、継続的デリバリーのビルドインサポートに加えてGUIを提供する。2023年のCNCFの年次報告書によると、どちらのプロジェクトも2023年に急成長しているが、Argoのコード作成者は927人なのに対し、Flux CDのコード作成者は188人だった。

 「皮肉なことだが、2022年にWeaveworksがFlux CDの無料GUIをリリースしたことが同社の閉鎖を早めたかもしれない。それ以前は、GUIを利用するにはWeaveworksを購入する必要があった」(デロリー氏)

Flux CDユーザーはどう受け止めているのか

 Flux CDがCNCFのGraduatedレベルになった直後、Flux CDのメンテナンスを中軸となって行っていたメンバーの大半はWeaveworksで働いていたが、状況は変わっている。同プロジェクトのGitHubページによると、メンテナンスの中軸を担うメンバーで同社に勤務しているのは1人だけだという。

 Kubernetes環境でFlux CDを使用する企業の一社がドイツテレコムだ。同社はFlux CDを活用して5Gインフラを構築している。

 ドイツテレコムでクラウドネイティブ5GコアDevOpsの責任者を務めるアイケル・セウェラ氏は「もちろん、無料のオープンソースを基盤として持続可能なビジネスを構築するのは常に極めて難しい。だが、『eBPF』(extended Berkeley Packet Filter)のような成功例も幾つかある。Weaveworksの閉鎖が、オープンソースの持続可能性に対する懸念に長期的な影響を及ぼすとは思わない。持続可能な優れた企業を作ることよりも、優れたソリューションやプラットフォームを作る方が重要だろう」と述べている。

 Flux CDの別のユーザーもプロジェクトに対するセウェラ氏の考え方に同調する。

 「これまで話し合ってきた多くの人々は、私を含め、プロジェクトを存続させるためにもっと貢献できるように努めたいと思っている」と語るのは、ノルウェーのベルゲンを拠点とするプラットフォームエンジニアリングサービスプロバイダーAmesto FortytwoでプリンシパルクラウドエンジニアとしてFlux CDを使用していたロベルト・ストランド氏だ。

 ストランド氏は現在、ノルウェーのオスロにあるITサービスおよびコンサルティング企業Sopra Steriaでクラウドネイティブ担当のマネジャーを務めており、クライアントとの作業に引き続きFlux CDを使用する予定だという。

 「Weaveworksの問題はオープンコアビジネスへの懸念よりも、投資のタイミングにあるように思える。ただ、オープンソースの理念とビジネス成長の間には隔たりがある。そうした隔たりを感じているのは主に私たちのような理想主義者だ。オープンソースに注力しながら十分な利益を上げる方法は間違いなくあるだろう。だが、企業の規模という点では、伝統的な先進企業が頭に浮かぶ。そうした企業はOSSに可能性があるとは考えていないのが一般的だ」(ストランド氏)

 Weaveworksがたどった運命とオープンソースプロジェクトの運命の違いは、そもそも大企業がベンダーの製品よりもオープンソースプロジェクトを好む理由を示す一例を表しているとバークホルツ氏は話す。

 「Fluxを導入するユーザーは2つの面で保護される。1つはオープンソースであること、もう1つは複数のベンダーが強力なガバナンスを提供することだ。ベンダーが保有する専用ソフトウェアや単一のベンダーがガバナンスを提供するオープンソースよりも安心感がある」(バークホルツ氏)

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