RustとC++はどう違う?選ばれる理由や今後の展望を解説

TechTargetは「RustとC++の違い」に関する記事を公開した。C++もRustも、さまざまなプロジェクトに適しており、それぞれにメリットがある。本記事では、さまざまな観点でRustとC++の違いを比較する。

» 2024年11月22日 08時00分 公開
[Kerry Doyle, Twain TaylorTechTarget]

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 TechTargetは2024年10月8日(米国時間)、「『Rust』と『C++』の違い」に関する記事を公開した。

RustとC++の違いとユースケースについて(提供:TechTarget)

 C++はRustが誕生する以前から成熟した言語だった。Rustの誕生によって、C++から乗り換えるべきなのだろうか。必ずしもそうとは限らない。

 新しいプロジェクトの言語を選択するに当たって、プログラマーは選択肢に事欠かない。C++もRustも、さまざまなプロジェクト(ブラウザベースのソフトウェアからビデオゲームまで)に適しており、それぞれにメリットがある。

C++、Rustそれぞれの歴史と概要

 C++は、効率と信頼性が高いプログラミング言語だ。その信頼性、パフォーマンス、スケーラビリティの高さから、開発者はC++を選ぶ。広範なライブラリサポートを有するC++標準テンプレートライブラリ(Standard Template Library、以下STL)によって多くの関数が提供される。システムプログラミング、ビデオゲーム開発、OSやWebブラウザ上で実行される最新アプリケーションでは、C++が使用されている。

 Rustは、CとC++の最新バージョンと見なされるマルチパラダイムのコンパイル型プログラミング言語で、静的かつ厳密に型指定される関数型言語だ。RustはC++に似た構文を使用し、安全性を第一に考え、プログラマーが安定した拡張可能な非同期コードを作成できるようにする。一般的なプログラミング、Web開発、データサイエンス、ビデオゲームを始めとし、拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、ブロックチェーンなどのプロジェクトにもRustが使用されている。

 C++は1985年に商用化されたのに対し、Rustの最初の安定版がリリースされたのはその30年後の2015年だ。Rustはより多くの安全性機能を備えているものの、C++のコードベース全てをRustに移行しなければいけないことはない。C++とRustのどちらかのプログラミング言語を選択する場合は、両言語の特性、相違点、類似点を確認する必要がある。

プログラマーがRustを使う理由

 Rustの機能セットでは、スレッドの安全性、メモリレイアウトの制御、同時実行性が重視されている。Rustの機能セットに組み込まれているセキュリティは、最新のソフトウェアやシステムにとってプラスに働く。

 システム言語内での同時実行は、脆弱(ぜいじゃく)でエラーが起こりやすい。このような弱点は、情報の損失や整合性の欠如につながる可能性がある。

 さまざまなソフトウェアコンポーネントの同時実行は、スレッドによって可能になる。ただし、スレッドによる同時実行は、ソフトウェア上で問題を引き起こすことがある。Rustはスレッドによる安全な同時実行を保証しており、マイクロサービスアプリケーションを想定通りに動作させるのに役立つ。Rustは所有権の原則に基づいており、特定の値を一度に所有できるのは1つの変数だけに限定される。

 Rustでは、コンパイル単位はクレートと呼ばれ、クレートがRustコンパイラのコードの原子単位となる。Rustでは、安全性を欠くメモリ使用を試みるプログラムはコンパイルされない。Rustコンパイラは、構文と言語メタファーによって、スレッド関連やメモリ関連の問題(nullポインタ、ダングリングポインタ、データ競合など)が運用環境で発生するのを防ぐ。

 Rustコンパイラは、静的分析ツールとしてボロー(借用)チェッカーを備えている。ボローチェッカーは、安全性を欠くコードによってメモリエラーが引き起こされる前にコンパイルを停止する。プログラマーは、こうした問題を開発プロセスの早い段階で解決しておかなければならない。ボローチェッカーは、プログラムの存続期間中に値の所有権がどのように変化するかを分析する。コードのある場所で保持されている値は、コードベース内の他の場所で借用される可能性がある。ボローチェッカーは、値の所有権で一連のルールを使用し、同時実行コードでのデータ競合を防止する。

 Rustコンパイラは、実行時に問題が生じるのを避けるため、オブジェクト間での所有権の分散とメモリ割り当ても管理する。メモリの安全性によって、バッファーオーバーフローが防止され、メモリのアクセスと使用に関連する一連のバグからも保護される。つまり、ブラウザベースのアプリケーション内でRustコードの量を増やせば、侵害や脆弱性の攻撃対象領域が減ることになる。

 Rustは強力な抽象化もできる。Rustのインストーラー「rustup」によって、開発環境とクロスコンパイルが設定される。Rustバイナリを生成するために必要な全ての要素が同じパッケージに存在する。

Rustを使い始める方法

 Rustを初めて使用する開発者は、「Cargo」パッケージマネジャーの使い方を学ぶことで、Rustの核となる原理を習得できる。Cargoは、共通ライブラリや共通フレームワークへの多数のAPIバインディングを備えている。Rustの一般的なWebフレームワークには、「Actix Web」や「Rocket」がある。

 Cargoライブラリでは、クレートの有効性がランク付けされないため、開発者は実際に使ってみるか、Rustコミュニティーに意見を求める必要がある。Rustコミュニティーは、オープンで協力的な雰囲気だ。Rust Foundationによって、Rustエコシステムへの有意義な貢献がサポートされ、Rustの普及が促され、Rustの採用が促進されている。Mozilla Researchのサイドプロジェクトとして始まったRustをMozillaから引き継いだのがRust Foundationだ。

プログラマーがC++を使う理由

 クロスプラットフォームプログラミング用のC言語の拡張版として誕生したC++は、効果の高い機能、安全性、使いやすさを提供する。C++のリリースサイクルは3年で、新機能が定期的に導入される。バージョンC++23は2023年にリリースされ、2024年11月現在はC++26の開発が進められている。

 C++は他の言語よりも構文が複雑で、抽象化もかなり進んでいるが、現代の開発にはメリットがある。抽象化のレベルが高いため、開発者はハードウェアとOSの実装詳細をカプセル化できる。IoTデバイス、スマートウォッチ、医療機器など、ハードウェアの近くでコードを実行する必要がある組み込みシステムに適している。

 抽象クラスは純粋仮想関数を表現する。プログラマーはクラスのグループ化に集中することで、プログラムのコードベースを整理して理解しやすくすることができる。抽象化によって、プログラムの重複も減り、再利用性も高まる。開発者は設計の中で抽象化することで、プログラムのプライバシーを向上させ、ユーザーに関連データのみが表示されるようにすることも可能だ。

 C++は、記述されたコードを直接機械語に変換するコンパイル言語だ。この構造により、速度が向上し、効率と柔軟性が高まる。C++はハードウェア機能を利用して低レベルの制御を行うことでスケーラビリティを加速する。こうした特徴は、ビデオゲーム、GUI、科学シミュレーション、金融アプリケーションに適している。大量のデータを処理できるため、膨大なデータセットの処理を必要とする3D AR/VRのイマーシブな(没入型の)コンテンツを生み出すのに効果的だ。

 C++のメモリ管理では、実行時にメモリが割り当てられ、不要になったときにメモリの割り当てが解除される。C++で割り当てが解除されたメモリにアクセスすると、バッファーオーバーランやスタックオーバーフローの脆弱性につながる可能性がある。安全性とセキュリティに関するこうした欠陥により、デバッグに多くの時間やリソースが必要となることがC++の欠点となる。これらの問題は特に、自動車分野や医療分野、航空宇宙や航空の分野など、組み込み言語を使用する分野で懸念される。C++では、セキュリティのガイドラインによってメモリの安全性が確保される。

 STLのコードは、コミュニティーのメンバーによって検証、精査されている。こうしたコミュニティーの活動によって、プログラマーはコードを簡素化し、よりクリーンで高速なコードを記述し、メンテナンスの問題を回避できる。ライブラリには汎用(はんよう)アルゴリズムも含まれ、アルゴリズムの命令の構文とセマンティクスの仕様が定められている。これらのアルゴリズムのパフォーマンス要件は、承認済みの標準とベンチマークに対応している。

C++を使い始める方法

 C++でのコーディングには、テキストエディタとコンパイラが必要になる。初心者は、ユーザー向けツールやその他の機能をバンドルするIDE(統合開発環境:Microsoftの「Visual Studio」やフリーソフトウェアの「Code::Blocks」など)を選ぶことが多い。フリーソフトウェアの「Vim」や Sublime HQ Ptyの「Sublime Text」などのテキストエディタと、「GNU Compiler Collection」や「clang」などのスタンドアロンコンパイラを組み合わせると、よりカスタマイズ性の高い設定になる。

 開発者は、C++の習熟度を高めていく過程で、STLに精通し、公式Webサイト(包括的なドキュメントやチュートリアルを提供)を参照する必要がある。C++のコミュニティーは活発に活動していて協力的だ。初心者をサポートするフォーラム(「Stack Overflow」や「C++ subreddit」など)も用意されている。開発者は、ローカルユーザーグループに参加したり、「CppCon」などのカンファレンスに参加して、人脈を築き、エコシステムでの最新の開発状況を把握することもできる。

RustとC++の主な違い

 RustとC++はどちらもシステムプログラミングに使用される強力な低レベル言語だが、設計、機能、ユースケースの点で大きく異なる。

メモリ管理

 Rustは、コンパイル時に強制される借用ルールを備えた独自の所有権システムを採用している。これにより、ガベージコレクターを使わずに、メモリの安全性を確保し、ダングリングポインターやデータ競合などの問題を防ぎ、未定義の動作を取り除くことができる。

 C++はメモリ管理にRustとは異なるアプローチを取り、メモリの割り当てと割り当て解除を開発者が直接制御できる。C++23では、メモリの問題を軽減するためにスマートポインターとRAII(Resource Acquisition Is Initialization)が導入されてはいるが、セキュリティの脆弱性につながる可能性のある未定義の動作は、依然許可されるため注意が必要だ。

標準ライブラリの考え方

 Rustで使用される標準ライブラリは最小限に抑えるよう設計されており、コア機能に重点が置かれている。追加機能は、Cargoパッケージマネジャーによって提供される外部クレートを通じて利用できる。

 C++のSTLはより包括的で、幅広いコンテナ、アルゴリズム、事前構築済みのユーティリティーが提供される。STLによってバイナリが大きくなる可能性があるが、組み込み機能が数多く提供されるため、OSのような複雑なアプリケーションに特に役立つ。

メタプログラミングのアプローチ

 C++は、テンプレートメタプログラミングを使用して、強力なコンパイル時の計算を可能にする。ただし、これにより構文が複雑になり、コンパイル時間が長くなる可能性がある。

 Rustは、メタプログラミングの機能としてトレイトベースのジェネリックとマクロを備えている。C++のテンプレートより劣る点も幾つかあるが、Rustはジェネリックプログラミングに対する統一性が高く、読み取りやすいアプローチとなることが多い。

エラー処理

 Rustはエラー処理にResult型を使用し、明示的なエラーチェックとエラーの通知を容易にする。

 これに対し、C++では昔ながらの例外が使われ、例外を適切に処理しないと、パフォーマンスのオーバーヘッドや潜在的なリソースリークが生じる可能性がある。最新のC++では、「std::optional」と「std::expected」も導入され、より明示的なアプローチが可能になっている。

コンパイルモデル

 Rustのコンパイルモデルはモジュール方式で、クレートを基本単位として使用する。そのため、増分ビルドの高速化と依存関係の管理の改善が可能になる。

 C++の従来のコンパイルは、プリプロセッサと翻訳単位の個別コンパイルに依存する。このアプローチには柔軟性があるとしても、特に複雑な階層を持つ大規模プロジェクトではビルド時間が長くなる可能性がある。C++20で導入されたモジュール方式は、こうした問題の一部に対処することを目的としているが、採用はまだ途上段階だ。

RustとC++の今後の展望

 RustとC++の今後の展望は、共存と段階的な移行がダイナミックに絡み合う構図になるだろう。C++はシステムプログラミング、ゲーム開発、OSでは依然強力な存在だが、メモリの安全性と同時実行に重点を置くRustが大きな注目を集めている。

 ホワイトハウスの最近の報告書では、特に重要なインフラやセキュリティが重視されるアプリケーションでは、C++やCよりもRustなどの安全性が高いプログラミング言語を優先するよう開発者に奨励している。だが、C++が使われなくなることはない。C++は、その広大なエコシステム、重要なシステムでの広範なコードベース、継続的な開発により、今後何年にもわたってその重要性が確保される。

 RustとC++は共に低レベル言語として恐らく共存を続けるだろう。メモリの安全性が最も重要度の高い分野ではRustが徐々に優位に立つ可能性があるが、パフォーマンスの重要度の高いレガシーシステムではC++が優位であり続けるだろう。

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