では、「キャリア自律に必要なマインドセット」とは、どういったものなのでしょうか。ボクは「目の前に倒れている人がいた場合の振る舞い」に似ていると思っています。
道端で見知らぬ人が倒れていたとします。その人を助けようと思ったとき「私に期待していることは何ですか?」とは言わないでしょう。恐らく「大丈夫ですか?」「痛いところはありませんか?」など、相手の状況を確認するような声を掛けると思います。そして「どなたか、救急車を呼んでください」などと、周囲の人に支援を依頼することでしょう。
誰かが「助けてくれ」というから助けるのではありません。「期待しているのはこれだ」と言われるからその行動を取るのでもありません。目の前の状況に対して、何が起こっているのかを観察し、必要ならば話を聞いて事実を確認する。そして、目の前の状況をより良くするために必要なことを自ら考え、行動する。これが、分かりやすい「自発的、自律的な行動」です。
「何を当たり前のことを言っているんだ」と思われるかもしれません。ですが、ちょっと気を許すと「私に期待していることは何ですか?」などと質問してしまいます。まずはこの、依存的な状況を認識する必要があります。
ところで、なぜ「私に期待していることは何ですか?」といった、依存的な問いを立ててしまうのか? ひょっとしたら、それは「問いの立て方が間違っている」のかもしれません。
実は、「問い」というのは、ボクたちが使う言葉の中でも、とても面白い性質を持っています。なぜなら、あらゆる思考は問いから始まるからです。また、問いの質によって、思考も変わってきます。
例えば、何か目の前に問題があるとき、「なぜ、私はいつもダメなんだろう?」という問いを立てると、「私がダメな理由」を考え始めます。一方、同じ状況でも「どうすれば、この問題は解決できるだろう?」という問いを立てると、問題の解決策を考え始めることになります。
このように、問いは思考の入り口であり、行動の入り口なのです。
「あなたが私に期待していることは何ですか?」という問いは、期待値を相手にゆだねることになります。一方、以下のような問いは、自発的、自律的に問題を解決していくための問いです。
ここに挙げたのは、現状の課題を客観的に見つめ、理想を明確にし、理想を実現するための価値を意味付けし、小さな行動を起こすために必要な問いのリストです。問いの主語は自分にする。そして、目の前の課題の把握と、理想的な未来に向ける。こうした思考習慣やマインドセットが、自律的なキャリア形成に必要なのではないかと思います。
自律とは「自分で考え、自分で行動し、その結果に責任を持つ」ということ。それは大きな挑戦のように思えるかもしれませんが、その入り口は、思考習慣やマインドセットです。日常の中で「どうすればもっと良くなるのか」を考え、それを実行してみること。
この小さな習慣が、キャリア自律の入り口なのではないかと思います。
しごとのみらい理事長 竹内義晴
「仕事」の中で起こる問題を、コミュニケーションとコミュニティーの力で解決するコミュニケーショントレーナー。企業研修や、コミュニケーション心理学のトレーニングを行う他、ビジネスパーソンのコーチング、カウンセリングに従事している。
著書「Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント(翔泳社)」「感情スイッチを切りかえれば、すべての仕事がうまくいく。(すばる舎)」「うまく伝わらない人のためのコミュニケーション改善マニュアル(秀和システム)」「職場がツライを変える会話のチカラ(こう書房)」「イラッとしたときのあたまとこころの整理術(ベストブック)」「『じぶん設計図』で人生を思いのままにデザインする。(秀和システム)」など。
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