第296回 AIに続く半導体業界のホットスポットは自動車?頭脳放談

米国ネバタ州ラスベガスで開催された「CES 2025」では、自動運転など自動車に関する展示が多く見られたようだ。AI(人工知能)の普及により、注目を集めるNVIDIAも自動運転関連のプロセッサについて発表している。AIに続く、大きなマーケットは自動運転やSDV(Software Defined Vehicle)になりそうだ。CESの発表からこの辺りの動向を解説しよう。

» 2025年01月20日 05時00分 公開
人工知能の次に半導体業界注目エリアは自動車? 人工知能の次に半導体業界注目エリアは自動車?
米国ネバタ州ラスベガスで開催された「CES 2025」では、自動運転など自動車に関する展示が多く見られたようだ。AI(人工知能)の普及により、注目を集めるNVIDIAも自動運転関連のプロセッサについて発表している。AIに続く、大きなマーケットは自動運転やSDV(Software Defined Vehicle)になりそうだ。画面は、NVIDIAのプレスリリース「NVIDIAが、次世代の高度に自動化および自律化された自動車を展開するパートナーとして拡大するリストに、トヨタ自動車、Aurora、Continentalを追加」。

 米国ネバタ州ラスベガスで毎年年初に開かれるテクノロジー見本市「CES」は、古くは「消費者エレクトロニクスショー(Consumer Electronics Show)」と呼ばれ家電見本市であった。しかし、近年は自動運転車などについての発表が幅を利かせている。2025年もCESに合わせて車載関係のプレスリリースが出ているので見ていきたい。

NVIDIAは自動運転に向けたプロセッサでも覇権を狙う?

 まずはNVIDIAの発表である(NVIDIAのプレスリリース「NVIDIAが、次世代の高度に自動化および自律化された自動車を展開するパートナーとして拡大するリストに、トヨタ自動車、Aurora、Continentalを追加」)。NVIDIAがトヨタ自動車、自動運転の開発会社Aurora、自動車部品サプライヤーContinentalの3社と組んで次世代の自律運転車両群を展開する的なモノモノしいタイトルを冠されているものだ。

 AI(人工知能)でイケているNVIDIAと、日本の屋台骨を背負っている大企業であるトヨタ自動車の名前が含まれているので、早速トヨタ自動車の株価にピクリとした反応があったみたいだ。何でも材料にして株価は動く。ピクリくらいで、大仰な反応ではなかったみたいだが。

 最初にくぎを刺しておくと、既に10年近く前からトヨタ自動車は、NVIDIAのSoCを「採用」している。「Xavier(AGX Xavier)」という名のシリーズの時代だ。どこまで何に使っているのかは知らない。旧世代を採用済みなのでNVIDIAの後継製品である「Orin」「Thor」(後述)などという名のシリーズを継続して採用するのは自然な流れなのだ。

 ただし、トヨタ自動車という会社を観察していたら、海外の半導体メーカー(自分じゃ製造をコントロールできない)に主力製品の死命を制するような基幹部品を全面的に依存するような会社ではないことは容易に想像が付く。AI応用で先頭を走るNVIDIAの技術を頭から排除することもないし、そこに一本置いておく、ってな感じでなのではないかと想像する。

 さて、NVIDIAがパートナーとして挙げている3社のうちの残り2社について確認しておこう。

 Continentalは車載関係者であれば知らない人のいない大手自動車部品メーカーである。本拠地はドイツにある。もう1社のAuroraは、Aurora Innovationが正式名称なのだと思う。米国カリフォルニア州の自動運転開発ベンチャーである。シリコンバレーの会社なので、GoogleやUberの出身者が多いみたいだ。そして以前からトヨタ自動車やデンソーとは提携している。

 NVIDIAとしては、このようなメジャーな名前のパートナーとともにNVIDIAの自動運転プラットフォームを売り込みたいという意図のプレスリリースなのだと思う。

車載向けSoCは現行のOrinに続いて「Thor」が2025年に登場予定

 そこで売り込みたい製品群には、「NVIDIA DRIVE」という名が冠されている。SoC(System on a Chip)の「NVIDIA DRIVE Orin」をベースに構築されるNVIDIA DRIVE AGXプラットフォームの上で、「DriveOS」というOSを走らせ、「DriveWorks」というミドルウェアを稼働させるといったあんばいだ。

 同じような名前が多数出てきているので、NVIDIAに詳しくないと戸惑うばかりだ。ここでハッキリさせておくと、今回関心のある車に搭載する側の装置は「AGX」と呼ばれている。他に「DGX」「OVX」とかいう名前も出てくることがあるが、これらは自動車がネットワークを介してデータセンターに接続(コネクテッドカーということだ)するときのエンタープライズ(データセンター)側の話である。

 ここで車載のSoCに話を限ってしまえば、AGXシリーズに使われるSoCには次の4世代がある。古い方から「Parker」「Xavier」「Orin」「Thor」である。現行の「主力」はOrinであるようだが、NVIDIAとしては2025年にThorを出すようなのでそちらを押したいのでないかと思う。

 しかし、Thorが出るからOrinはおしまい的なことを言ってしまうと、話が進んでいるOrinの現行ビジネスの足を引っ張ってしまう。良いマーケティングは、OrinにはOrinの、ThorにはThorの役割を強調する。

 Orinには、「各種のセンサー、カメラ、レーダー/ライダーなどを備えたレファレンス設計がありますよ」などといいつつ、「次世代の車載セントラルコンピュータにはThorですよ」といったスタンスで説明している。

 「セントラル」というのがキーワードの1つ目である。もう1つ覚えておいてほしいのが2025年登場するはずのThorの性能である。2000TFLOPSと言っている(TFLOPSと書いてあったが最近のAIは短い精度の計算がほとんどなのでTOPS(Tera OPerations per Second)と大差ないと思う)。

 なお、記事の最初に示した画面を見ると分かるが、プレスリリースの冒頭に掲げられている自律、自動運転トラック写真の下には「Aurora」「NVIDIA」「Continental」の3社のロゴのみがあり、プレスリリースのタイトルに含まれているトヨタ自動車はない。

 プレスリリースをよく読むと自動運転トラックについての長期にわたるパートナーシップはその3社間の話で、トヨタ自動車は含まれていないことが分かる。幾つかの話題を1本のプレスリリースにしたような感じだ。早とちりしないようにしないようにしないとならない。

 また、トヨタ自動車の豊田章男会長もCESのプレスカンファレンスに登壇したが、「Woven City」(富士の裾野に建設している実証実験の都市)のフェーズ1竣工に関するプレゼンだったようだ(トヨタ自動車のプレスリリース「ウーブン・シティ、今秋にも実証開始 豊田会長が描く"モビリティのテストコース"」)。

ホンダはルネサスと組んでSDVを実現する?

 もう1つのCESがらみの車載関係プレスリリースは、本田技研工業(ホンダ)ルネサス エレクトロニクスがSDV(Software Defined Vehicle:制御するソフトウェアを更新することで、機能や価値が向上できる自動車)向けのSoCの開発契約を締結したという話である(本田技研工業のプレスリリース「Hondaとルネサス、SDV用 高性能SoCの開発契約を締結」)。

 もともとルネサスが持っている自動車用SoC「R-Car」をベースとした設計なのだと思う。その新SoCをホンダが新たに開発するEV(電気自動車)に搭載する予定だ。

 プレスリリースでは「コアECU」と言っているが、さきほどのNVIDIAの発表の車載「セントラル」コンピュータに相当する製品であろう。その目標性能は、2000TOPSだ。こう説明すれば、NVIDIAのThorと似たところを狙っているのではないかということが理解できる。TSMCの3nmプロセスで製造するということである。

 なお、SDVというと「Software Defined Vehicle」と理解するのが通例だと思うが、NVIDIAのAGXの資料の中には、「Self-Driving Vehicles」という表現もあってちょっと紛らわしい。本質には関係ない話だが。

 ご存じの通り、ルネサスは日本の車載を支えることを使命としている半導体メーカーである。自社の半導体ビジネスの都合で供給を細めたり、ハジゴを外したりすることはまずないだろう。当然、トヨタ自動車にしたって、そういう部品メーカーが好ましいはずだ。

 妄想をたくましくすると、NVIDIA製のSoCをトヨタ自動車も出資しているRapidusのファブで製造するといった流れができたら、トヨタ自動車も依存を深めるような気がするのだがどうか(Rapidusとトヨタ自動車については、頭脳放談「第270回 日の丸半導体再び? 最先端半導体製造会社『Rapidus』への懸念」参照のこと)。気が早過ぎるか? まだRapidusのプロセスがどんなものかも分かっていないしね。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス マルチコアプロセッサを中心とした開発を行っている。


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