「荒れない」とみんながハッピーになるでしょう。お天気なだけに。
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SNS、疲れますよね。いや、好きなんです。見ちゃうんですが、心が弱っているときはぐったりしてしまう。
「X」を開くと、誰かが文句を言っている。「Instagram」はキラついているし、「TikTok」は踊り過ぎ。
かつての「Twitter」のように、見知らぬ誰かと「暑いねえ」とか「お昼ごはん何にしよう」など、薄味のつぶやきをやりとりしたいのに、Xにそんなことを書いても、炎上の業火に巻かれて秒で灰になってしまいます。
ここは修羅の国……闇しかない……と絶望していたのですが、この夏、殺伐としたSNS界に、2つの新星が輝き始めました。地図SNSの「Wplace」(ダブリュープレイス)と「Yahoo!天気」の「みんなの投稿」機能です。
それぞれどんなサービスで、なぜ盛り上がったか考察します。
Wplaceは2025年7月に現れた、海外発のドット絵サービス。アクセスすると、地図上に所狭しと描かれたドット絵に圧倒されます。
例えば、大阪 夢洲(ゆめしま)の万博会場にはミャクミャクが、エヴァンゲリオンの「第3東京市」のモデルとして知られる神奈川 箱根にはエヴァ関連のイラストがたくさんあります。
英国のロンドンにはビートルズの「アビイ・ロード」のジャケット、フランスのパリには凱旋(がいせん)門など、ご当地ゆかりのドット絵を見ることができ、「どこが何の“聖地”か分かる」と評判です。
途方もない夢を実現する人も。
例えば、日本最南端の無人島 沖ノ鳥島はなぜか大規模開発され、道路と建物が入り組む「日本一の都会」になっています。さらに、本州から沖ノ鳥島まで約1500キロをつなぐ高速道路が走っています。
一般的なSNSと違って、ユーザー同士が直接つながる機能はないものの、他のユーザーとドット文字でやりとりしたり、外部のSNSで協力して大きな絵を描いたり、自分の絵の隣に関連する絵が描かれたりします。ユーザー同士の交流をベースにしながら、新しい絵が日々生まれているのです。
一方、Yahoo!天気の「みんなの投稿」機能は、地図を基本にしつつも、まったく別のサービスです。
みんなの投稿は、Yahoo!天気アプリ内の「雨雲レーダー」画面上で、ユーザーが現在地の天気や体感を投稿できる機能。スマホGPSの位置情報を基に、現在地の天気と、60文字までのコメントを入力できるサービスです。コメントは、地図上に天気とともに表示され、近くの人がどのように過ごしているのか分かります。
「暑い」「布団干した」「アイス買った」など、お天気に関連したのんきな報告がメイン。「腰が痛い」など、天気にまったく無関係な投稿もあるし、そんな報告には近所の人から、「大丈夫?」との心配も投稿されます。
ただ、Wplaceはユーザー増加に伴って荒れてきました。公序良俗に反する絵を描いたり、他人の絵を落書きで荒らしたり、ドットで不適切な文字を書いたり、など、荒らし行為が増えてきたのです。
新規ユーザーは60ドットまで、1ドット回復に30秒かかる、という厳しい制限があるものの、利用を続けるほど(または課金すると)ドット数は増やせます。仲間同士で協力した領地争いも激化中。見ていると面白いけれど、昨日見たすてきな絵が、今日は荒い絵に塗りつぶされている様子などを目の当たりにすると、ちょっとつらくなってきます。
一方で「Yahoo!天気」はほとんど荒れません。60文字までという制限がある上、位置情報と連携するため居場所がバレるし、1カ所を炎上させたくても、スマホを持って物理的に駆け付けることが難しい。また、運営会社が投稿を監視し、不適切な投稿を削除しているようです。
Yahoo!天気には、日本のユーザーしかいないのもポイントです。世界的な情報操作や“インプレゾンビ”とのバトルもなく、ただ「暑いなあ。ご近所さんも暑いと思ってるんだな」と知って終わりです。
どちらのサービスも、地図をベースにしていることに加え、制約の大きさが共通しています。
Wplaceはドットという制約、Yahoo!天気は60文字とGPS。特に後者は、日本の人しか見ない日本語サービス、天気情報とともに投稿は流れていく――という制約の中で、穏やかでどうでもいい書き込みが続いているようです。
Xの歴史を振り返ると、文字数が増えるなど自由度が上がるほど、地獄みが増してきました。インターネットは「自由だからこそ面白い」と言われてきたけれど、今は厳しい制約の中で「暑い」としか言えない世界の方が、平和で幸せなのかもしれません。
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