AIは開発の性質を変え、エンジニアリングの焦点をコードからビジネス課題の解決へとシフトさせる。
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AI(人工知能)がコーディングを代替し、ITエンジニアは不要になるのではないかという議論が高まる中、エンジニアは自身の役割とキャリアをどのように再定義すべきだろうか。
「Clarisカンファレンス2025」のために来日したClaris International(以降、Claris)CEOのRyan McCann(ライアン・マッキャン)氏、プロダクト マネージャーのRonnie Rios(ロニー・リオス)氏、そしてソフトウェアエンジニアのDerek Lee(デレク・リー)氏の三方に、ローコード開発とAI開発の違い、AI時代にエンジニアが持つべきスキルセットなどを伺った。
生成AIによる自動コーディング技術の進化は著しく、簡単なアプリケーションであればフルコードの知識なしに生成が可能だ。この状況下で、ローコード開発ツール「FileMaker」はどのようにAIとの差別化を図るのだろうか。
マッキャン氏は、従来のアプリ構築が「デターミニスティック(確定的)な積み重ね」であったのに対し、AIの発展により、固定的な手順を経ずに「パッと」ソリューションを出せるようになったというパラダイムの変化を指摘する。
アプリの構成要素は「データベース」「インタフェース」「ツール」「レポーティング」に集約され、AIは「情報の収集、保管、生成、表面化」といった処理にたけている。
しかし多くの組織がAIを導入しようとする際、依然としてセキュリティ、技術の理解力、可用性といった障害に直面している。特に、AIの応答が「どこまで正確で、文脈に即しているか」「実証可能なデータに基づいているか」といった「信頼性」については、まだ不確実な点が多く、AIに全てを委ねるには、これらの要素をクリアする必要があると述べる。
マッキャン氏は前回取材でも、「バイブコーディングには信頼性が欠けており、ビジネスで使えるセキュアでプライバシー保護されたエンタープライズ規模のアプリはまだAIにはまかせられない」と力説した。
AI活用によるメリットは大きいものの、全てを任せるにはまだ「信頼性」の面で懸念がある、というのが現時点での見解だ。
Clarisカンファレンス2025で新機能を発表するリオス氏。AIの活用には「実用的、実践的であること」と「安全性の保証=プライバシーとセキュリティの確保」の両立が不可欠であり、そのための施策の一つとして、「FileMaker2025」では顧客にAI実行環境の選択肢を提供しているここで少しイジワルな質問をしてみた。
2025年秋現在、個人が使うレベルのアプリはAIでも作れるようになった。エンタープライズ規模のアプリ構築においてはAIによる開発には信頼性の点で懸念があるとのことだが、AIの進化が進んだら、将来的にはローコード開発ツールが不要になる可能性があるのではないか、と。
マッキャン氏は真剣な表情で「答えはノー」と即答した。
マッキャン氏は、ローコード開発ツールが今後も必要とされる最大の理由として、AIが代替できない「ミッションクリティカルな問題解決」のニーズを挙げる。
企業経営や事業のビジネス課題を解決し、組織全体に横展開できるソリューションは、単なるAIによるノーコードソリューションや自動コーディングでは不十分である。ローコード開発ツールは、セキュリティ、信頼性、精度を高いレベルで保証するため、AIが全てに取って代わる世界は描いていないという。
リオス氏もこの見解を支持し、自身の経験から「オートメーション化が進んでも、手動でやる方が早い領域は存在する」と例証する。
「私は自宅やオフィスのオートメーション化をどんどん進めています。オフィスに入ればライトが勝手に付いて、退出すると勝手に消える。だけど、すぐ電気をつけたい/消したいというときは、手動でやる方が早いんですよ」(リオス氏)
このことから、AIと人間の手動操作(ローコード開発)の「両方が必要とされる世界」が存在し、完全に取って代わられることはないという見解を示している。
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