グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。今回も前回に引き続き、Clarisでプロダクトマーケティングとエバンジェリズム担当ディレクターとして活躍するAndrew LeCates(アンドリュー・ルケイツ)さんにお話を伺う。引退を考える年齢になった現在においても、アンドリューさんは学びを止めない。その力の源は何なのか。
国境を越えて活躍するエンジニアにお話を伺う「Go Global!」シリーズ。今回もClarisでプロダクトマーケティングとエバンジェリズム担当ディレクターとして活躍するAndrew LeCates(アンドリュー・ルケイツ)さんにお話を伺った。超ベテランのエンジニアでもあるアンドリューさんがデベロッパーに伝えたいアドバイスとは。
聞き手は、AppleやDisneyなどの外資系企業でマーケティングを担当し、グローバルでのビジネス展開に深い知見を持つ阿部川“Go”久広。
阿部川 “Go”久広(以降、阿部川) 現在のClarisでのお仕事はどんな内容でしょうか。
Andrew LeCates(アンドリュー・ルケイツ 以下、アンドリューさん) 今も開発にかなり携わっていますし、将来的なプラットフォームに向けたトレーニングも実施しています。多くのイベントでスピーカーとしてお話しする機会も増えてきました。世界中の顧客のところに行ってお話を聞くのも大切な仕事ですから。
本社はシリコンバレーですので、年に数回はジョージア州のアトランタとサンフランシスコ州のサンタ・クララを往復します。日本にもよく行きます。今までに6、7回は訪れていると思います。最近も東京に行きましたよ。東京は世界中で私が大好きな都市の一つで、久しぶりに多くの友人たちや、ビジネスの関係者たちと会えて大変うれしかったです。
阿部川 それはよかったですね。少し話は変わりますが「Claris FileMaker」は、当初の「データベース」から、何度かその位置付けを変えてきたのではないかと思います。その変遷がどのようなものだったか教えていただけますか。
アンドリューさん 1990年ごろのFileMakerはGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)で操作できるシンプルなデータベースでした。その後、リレーショナルデータベースや、クライアントサーバへと進化し、Webやモバイル開発に対応したプラットフォームへと変化しました。現在でも多くのビジネスにおいて必要な「問題解決のための開発環境」を提供できるように変化を続けています。
阿部川 アンドリューさんは、これまでその変化の一部始終をご自身が大学生の時代からずっとご覧になってきたわけですね。恐らくそれに合わせて、アンドリューさんに求められる役割やスキルも変化してきたと思います。
アンドリューさん そうですね、最初は単にプログラムや開発の仕方を覚えることに注力していて、「自分の携わったソフトウェアでどのような価値を提供できるか」ということが焦点だったと思います。プラットフォーム全体のエバンジェリストという立場になった後は、自分ではなく他の開発者(デベロッパー)に視点が移りました。つまり「デベロッパーは、どのようにすれば価値あるソフトウェアを提供できるようになるか」ということを理解させることが重要になりました。
Clarisのマーケティング部門に異動したときには「顧客がどのように問題を解決したか」「顧客がわれわれのテクノロジーを使ってどのようにイノベーティブな方法で解決策を作り出したか」などのストーリーを伝えることが主眼になってきました。マーケティングの活動が加わったことはとても楽しく、意義のある役割だと思っています。
製品を最終的に仕上げる、という仕事以外は、ほぼ全ての仕事を経験してきていると思います。もしかしたら、この次の仕事はそれ(製品の仕上げ)になるのかもしれません(笑)。
阿部川 可能性はありますね(笑)。
立場が変わると見える景色、いわば価値観も変わるものですが、アンドリューさんの場合は「価値を提供するにはどうすればいいか」という点で一貫していますね。自分の手の届く範囲から徐々に広がり、今ではある意味、世界中のユーザーをターゲットにしているわけですから、(もちろん大変だとは思いますが)きっといい景色が見えているのだろうな、と想像します。
阿部川 Appleもそうですが、Clarisはビジネスとテクノロジーとアートが融合した企業かと思います。特にFileMakerのような製品では「ルック・アンド・フィール」(画面の見栄えや使いやすさ)が大切だと思いますし、アンドリューさん自身、デザインの分野にも魅了されたのではないでしょうか。
アンドリューさん 私の経歴をよく調べていますね(笑)。はい、デザインの分野は大好きですし、大学時代は、デスクトップパブリッシングの分野に傾倒していましたし、子どものころ、コンピュータを好きになる前にはカメラに興味を持ちました。写真が好きですし、アートやサイエンスも好きです。
Appleに入社したのも、デザインについて興味があったことが関係していると思いますし、Clarisでも同じ情熱を製品に対して傾けています。MBA的な論理的な思考と、MFA(Master of Fine Arts)的なアートやデザインに関する思考が必要になってきていると感じます。
例えば、デベロッパーのコミュニティーには「自分はミュージシャンだ」という人がたくさんいます。「ソフトウェアを開発する能力」と、音楽を演奏するなど「アーティスティックな能力」には、強い相関性があるのではないでしょうか。カンファレンスなどのイベント後、気の合う連中が夜集まってギグ(バンド演奏)する、といった光景はよく見られます。
阿部川 開発はアートである、面白いですね。
エンジニアとアート。そういえば、こちらの方もアーティストを目指していたエンジニアでした。
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