IT用語の基礎の基礎を、初学者や非エンジニアにも分かりやすく解説する本連載、第36回は「オーケストレーション」です。ITエンジニアの学習、エンジニアと協業する業務部門の仲間や経営層への解説にご活用ください。
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オーケストレーションは、複数の作業や処理を「全体の流れ」として管理し、まとめて実行できるようにする仕組みです。単純に順番に実行するのではなく、状況に応じた処理の切り替えや、エラー時の流れも含めて全体をコントロールする点に特徴があります。
似た言葉に「自動化」がありますが、両者は目的と範囲が異なります。
自動化が「単体の作業を自動化」するのに対し、オーケストレーションは複数の工程を横断的に連携させ、全体として調整しながら動かします。現代の企業システムは、クラウドやSaaS(Software as a Service)など、さまざまな技術が組み合わさることで複雑になっています。
サーバの設定や日々のデータ処理、監視や障害対応などの作業が増え、人手だけで対応するのが難しくなりつつあります。手作業では、スピード、品質、再現性の面で事業の要求に応え切れなくなりつつあり、このような背景から、「複数のタスクをつなぎ合わせ、ミスなく、高速に、再現性高く動かせる」オーケストレーションの需要が高まっています。
オーケストレーションは複数の技術の組み合わせで成り立っています。主要な要素は以下です。
作業の順序や分岐、例外処理を定義する司令塔のような役割です。
「Aの処理が終わったらBへ進む」「失敗したら別ルートへ切り替える」といった判断を担い、作業全体をコントロールします。
アラートが出たときやファイルがアップロードされたときなど、何か“起きたこと”をきっかけに処理を開始します。「条件がそろったら自動で動く」ための仕掛けです。
「毎日1時」や「毎週月曜日」など、あらかじめ決めたタイミングで処理を実行する機能です。日次バッチなど定期作業でよく使われます。
クラウドサービスやアプリケーションが自動で情報をやりとりできるようにする仕組みです。オーケストレーションでは、APIを呼び出して複数のサービスを横断的に操作します。
タスクが成功したか失敗したかを記録し、問題が起きた場合に再試行や通知を行います。自動で動く仕組みを安心して使うためには必須の要素です。
オーケストレーションは、以下のような現場の運用課題を解消します。
運用作業が担当者の経験や独自のやり方に依存していると、手順や結果にばらつきが生まれ、ミスも起こりやすくなります。オーケストレーションは、作業のつながりを含めて流れ全体を定義できるため、誰が実行しても同じ手順で進められます。これにより、人に依存しない安定した運用を実現します。
オーケストレーションは、APIなどを利用して複数サービスをまとめて扱えるため、バラバラな仕組みを「1つの流れ」として統合できます。これにより、システム全体の運用がシンプルになり、管理コストも削減できます。
アラート検知→状態確認→自動復旧→通知といった流れをまとめて制御し、障害対応にかかる時間を大きく短縮できます。特にクラウド、コンテナ環境では、オーケストレーションが問題発生時の再配置やリトライなどを自動で行うため、サービス停止を最小限に抑えられます。
データ分析やそれに伴うAI(人工知能)活用では、データの収集・加工・保存、モデル学習、評価、デプロイといった複数の工程をまたぐ作業が発生します。これらが担当者に依存すると、再現性確保やメンテナンスが難しくなります。
オーケストレーションを使うことで、ETL(※)に加えて、モデル学習、推論環境へのデプロイまでを1つの流れとして管理でき、処理のばらつきや属人化を防ぐことができます。
また、複数のAIモデルやクラウドサービスを組み合わせた高度な分析処理も、ワークフローとして統合することで分析パイプライン全体の品質と安定性が向上します。
オーケストレーションを導入する際は、以下のポイントに注意が必要です。
オーケストレーションは、手順が明確でブレの少ない業務ほど効果を発揮します。
そのため、導入前に「誰が担当しても同じやり方になっている業務」と「担当によってやり方が異なる業務」を仕分ける必要があります。属人化している作業や、口頭ベースでしか共有されていない手順は、まずは文書化、標準化して自動化することから始めます。
いきなり大規模な業務全体をワークフローに乗せようとすると、設計も検証も複雑になりがちです。まずは「毎日必ず行う」「パターンが少ない」「止まっても致命傷になりにくい」といった小さなフローから着手すると、効果を確認しやすく、現場の理解も得やすくなります。
自動化されたフローは、正常に流れている間はよいのですが、想定外のデータやエラーに当たって頻繁に停止するようでは利便性を享受できません。
そのため、「どの種類のエラーは自動リトライするのか」「どの段階で人に通知するのか」「途中までの処理結果をどう扱うか」といったルールを明確に定めておくことが重要です。例外処理の設計が優れているほど、運用開始後のトラブルは減ります。
業務を細部まで自動化すると一見スマートに見えますが、業務内容が変わるたびにフローの修正が必要になり、結果的に保守コストが増大することがあります。
全てを自動化するのではなく、「機械が得意な反復処理」と「人が得意な判断、例外対応」の境界を決めておくことが大切です。現場で無理なくメンテナンスできるレベルにとどめることが、中長期的なオーケストレーション活用につながります。
企業のIT環境は、クラウドやさまざまなサービスを組み合わせて今後さらに拡大していくことが予想されます。一方でIT人材の不足は続いており、限られた人員で複雑な環境を管理する必要があります。
こうした状況の中で、オーケストレーションは運用を回すための基盤として重要性が高まります。今後はAIとの連携が進み、システムの状態を自動で分析し、問題の予兆を見つけて先回りして対応するなど、より自律的な運用が実現すると考えられます。
これにより、日々の定型作業に追われることなく、改善や企画といったより価値の高い業務に時間を使えるようになるでしょう。オーケストレーションは、これからのIT運用を支える仕組みとして広がっていくと期待されます。
BFT インフラエンジニア
主に金融系、公共系情報システムの設計、構築、運用、チームマネジメントを経験。
現在はこれまでのエンジニア経験を生かし、ITインフラ教育サービス「BFT道場」を運営。
「現場で使える技術」をテーマに、インフラエンジニアの育成に力を注いでいる。
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