ローカル5Gの制度化、キャリア5Gのサービス開始から6年が経過した。「超高速、超低遅延、多端末接続」という華々しいキャッチフレーズで登場した5Gの6年はうたい文句通りの実用化がなされない低調な年月だった。しかし、やっと活躍の兆しが見えてきた。また、アサヒグループホールディングスのランサムウェア被害で「脱 VPN」の機運が高まっているが、それは簡単ではない。
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2025年12月20日、第116回情報化研究会をオンラインで開催し、2026年に注目すべき企業ネットワークのトピックをディスカッションした。
その中で筆者の印象に残ったのは、「ローカル5Gがやっと実用段階に入った」「アサヒグループホールディングスのランサムウェア(身代金要求型マルウェア)被害を受けて『脱 VPN』(Virtual Private Network:仮想プライベートネットワーク)をしたいが、さほど簡単ではない」という2つの話題だった。
本稿は、これらも含めた「2026年に企業ネットワークを進化させるための着眼点」を述べていく。
図1は、2026年の企業ネットワークのトレンドだ。
企業ネットワークを進化させる目的として「経済性/利便性の向上」と「セキュリティの強化」を挙げた。セキュリティの強化は当然として、今の時代に「経済性の向上」が目的になり得るのか、と疑問を持つ人も多いだろう。それはモバイルシフトで実現できる。詳しくは後述する。
企業ネットワークを進化させる要因を象徴する事例は、本連載で取り上げた「静岡銀行新OA基盤」と「NECによる自社PBXからZoom Phoneへの更改」、昨秋大きく報道された「アサヒグループホールディングスのランサムウェア被害」の3つだ。それぞれ、後で言及する。
通信サービスに大きな動きはない。動きがあるのは低軌道周回衛星による衛星通信サービスだ。
2024年1月に能登半島の災害復旧で活躍した「Starlink」は、KDDIが、スマートフォンと衛星が直接通信する「au Starlink Direct」を2025年4月にSMS(ショートメッセージサービス)で、同年8月にデータ通信で開始した。
Starlinkに続くサービスとして、ソフトバンクが2024年末に「Eutelsat OneWeb」のサービスを始めた。Amazon.comが2024年にサービス開始を目指していた「Amazon Project Kuiper」(アマゾン プロジェクト カイパー)は大幅にサービス開始時期が遅れており、2026年にサービスが始まるかどうかも不透明だ。名称は2025年11月に「Amazon Leo」と変更された。
衛星通信サービスは、災害時のBCP(事業継続計画)対策、携帯電波の届かない場所での回線として有用だが、企業ネットワークのメイン回線になり得るものではない。
NTTが超高速、超低遅延を売りにする「IOWN」(Innovative Optical and Wireless Network:アイオン)は、APN(All-Photonics Network)の実証実験をさかんに行っているが、料金があまりに高額なため、一般企業が採算の取れる用途を見つけるのは当分無理だろう。
キャリア5Gはサービス開始からほぼ6年たった。しかし「苦節」の6年ではない。
スマートフォンで広く使われているだけでなく、本連載で紹介したように工場でのモバイルロボットの運用や建設機械の遠隔操作、東京マラソンのTV中継など、企業での実用が早くから始まっている。ただし、自動運転のような高度なユースケースの実現にはまだ時間がかかりそうだ。
これからのキャリア5Gの活用方法としては特定のユースケースよりも、企業ネットワークをモバイル回線中心に構成する「モバイルシフト」が有望だ。
本連載で以前から書いているように、オフィス内に有線LAN、Wi-Fiを持たず、オフィスの内外を問わずSIM内蔵PCを5G/4Gでイントラネットに接続すれば、高価な固定回線やルーター、スイッチ、Wi-Fiアクセスポイントなどのネットワーク設備が不要になる。企業ネットワークのイニシャルコストも、ランニングコストも大幅な削減が期待できる。
SIMの月額費用が高価では経済効果がなくなるが、HPがKDDIと提携して提供している「eSIM Connect」は、5年間のSIM利用権がPCの価格に含まれており、月額に換算すると1000円を下回る費用でパケットを無制限に利用できる。このような法人向けのプランを使うとモバイルシフトの経済効果を高められる。
このモバイルシフトについても、上述の研究会で議論した。問題点として指摘されたのは、複合機やプリンタをどう接続するかだ。ペーパーレス化が進んでいるとはいえ、これらを完全になくすことはできない。複合機にLANポートのあるモバイルルーターを付けて接続する方法もあるが、十分な帯域と安定性が保てるかどうか不安が残る。
オフィスにある固定電話機は、従業員の多くが社用携帯を持つようになって、大幅に削減された。しかし、なくすことはできない。
複合機や固定電話機の接続には、モバイルのバックアップも兼ねて必要最小限のLANを使うのが現実的だ。下図は、モバイルシフトしたネットワークの構成例だ。
図2 モバイル主体の企業ネットワークモバイルシフトが進んでいる事例として、静岡銀行の新OA基盤がある。その目的は営業力の強化にある。
直行直帰による営業時間の捻出、コミュニケーションの活性化、データ活用などを実現するため、SIM内蔵PCとSASE(セキュアアクセスサービスエッジ)で、場所を選ばず対顧客アプリケーションやコミュニケーションサービスを安全に利用できるネットワークを構築した。
静岡銀行グループ7000人に対して、SIM内蔵PCが約3100台導入されている。従業員の44%がSIM内蔵PCを使っており、モバイルシフト率が44%ということだ。
だが、静岡銀行はモバイルシフトを進めようとしてSIM内蔵PCを大量に導入した訳わけではない。営業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現した結果、モバイルシフトが進んだのだ。
企業は、DXとは無関係に、ネットワークの「経済性と利便性の向上」を目的にモバイルシフトを進められる。モバイルシフト率70%、80%を目指して企業ネットワークの革新を進めるべきだ。
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