大規模開発に人間が必要な理由――AIと人間の大きな違いAIを使いこなす先に待つのは、恩恵か、淘汰か

生成AIの普及で「エンジニア不要論」がささやかれるいま、エンジニアの真の価値はどこに宿るのか。現場の視点からエンジニアの存在意義を問い直す。

» 2026年01月28日 05時00分 公開
[吉村哲樹@IT]

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 2025年10月11日、12日の2日間にわたり、学生向けのテックカンファレンス「技育祭(GEEK SAI)2025 【秋】」が開催された。

 今回の技育祭では、近年の生成AI(人工知能)の急速な台頭を背景に、AIをテーマにしたセッションが数多く催された。本稿ではそれらの中から、今日のシステム開発現場における生成AIの位置付けや、その具体的な活用例について、システム開発の最前線で活躍する現役エンジニアから紹介されたセッション2つの概要を紹介する。

AIの台頭によって優秀なエンジニアのニーズはむしろ高まる

 「AI時代、仕事は奪われない。むしろエンジニアの価値が爆上がりする理由」というセッションでは、Works Human Intelligence(以下、WHI)のシステム開発現場における生成AIの位置付けや、どのような方針の下に活用が進められているかが紹介された。

 近年、エンジニアに代わってプログラミングをこなす生成AIツールが大きな注目を集めており、実際にその導入を積極的に進める企業も増えてきた。WHIでも現在、「GitHub Copilot」や「Devin」などのツールを導入しており、既に大きな成果を上げているという。

 こうした動向を受けて、一部では「エンジニア不要論」もささやかれ始めているが、WHIの社内で開発力向上プロジェクトを率いる同社 DX推進室 部門長 新村北斗氏は、AIの普及によって優秀なエンジニアのニーズはむしろ高まるだろうと話す。

 「AIの台頭によって、確かに、コーディング作業そのものに割かれるリソースは、今後不要になっていくでしょう。しかし優秀なエンジニアの本来の価値はコーディング力だけではなく、課題を発見、解決したり、新たな価値を創出したりする能力にあります。これらを実行する上でAIは人間のライバルなどではなく、むしろ力強い相棒になってくれます。従ってAIの種類や特性を深く理解して、効果的に使いこなせるエンジニアの価値は、今後むしろ高まっていくでしょう」(新村氏)

 なお同社は現在、AIを活用してシステム開発プロセスを再構築する「AI共創開発プロジェクト」を進めている。その主要メンバーとして、システム開発における生成AIの利用価値について研究や実証を重ねているAdvanced Technology Specialistの寺尾拓氏は、AI時代に価値を発揮できるエンジニアの要件を以下のように話す。

3種類のAI

 「システム開発におけるAIには、人の能力を拡張してくれる『Copilot』、人の代わりに自律的に業務を行ってくれる『Agent』、そして製品にAI機能を組み込んでその価値を向上させる『AI機能』の3種類があります。プログラミングの自動化ツールなどはCoplilotに該当し、個人レベルでも十分に活用できますが、より広範な業務を担うAgentの価値を最大限に発揮するためには、やはり既存の業務の見直しや再設計が必要になります。従ってAI時代のエンジニアには、AIに関する専門的な知見とともに、業務に関する深い理解も求められます」(寺尾氏)

大規模、複雑なシステム開発では依然としてエンジニアが必要不可欠

 なお寺尾氏は過去3年間にわたって、WHIのシステム開発におけるAI活用の可能性についてさまざまな角度から評価や検証を進め、実際に開発現場への適用を進めてきたという。その経験を踏まえ、同氏は現時点でのAIについて「決して万能ではないし、人間を直接代替するものでもない」と評価する。

AIの弱点

 「確かにAIはかなり賢くなってきていますが、その半面、人間と違って『記憶が残らない』という点が大きな制約になっているとも感じます。人間なら過去の失敗から学んで、『注意すべきポイント』を押さえながら開発できますが、AIは過去の経験から学ぶことができないので、同じ失敗を何度も繰り返してしまいます」(寺尾氏)

 確かに、現時点では追加学習させるかメモリに保存しない限り、過去の経験・経緯を忘れてしまう点はAIと人間の大きな違いだろう。また「大規模なものを作れない」という点も、AIが持つ致命的な制約の一つだという。AIが一度に読み込める情報量には限りがあるため、10万行程度の小規模なシステムの開発に必要な情報は効率的に読み込めるものの、100万行、1000万行規模のエンタープライズクラスのシステムとなると一度で情報を読み込むことができないため、プログラムの保守性が途端に低下してしまう。

 そのため、小規模でシンプルなアプリケーションの開発であれば、人間がこれまで行ってきた開発のかなりの部分をAIが代替できる一方で、BtoB(Business to Business)の大規模エンタープライズシステムの開発となると、やはりこれまで通り優秀なエンジニアの力が欠かせないと新村氏は指摘する。

複雑なものづくりの特徴

 「大企業向けのエンタープライズシステムの開発プロジェクトは、予算額やステークホルダーの数が膨大に上がります。また取り扱う課題領域も極めて広範に渡るため、小規模なアプリケーションと比べ、システム開発の複雑性が圧倒的に増します。こうした複雑性に適切に対応していくためには、やはり技術とビジネスの両面に通じた優秀なエンジニアの存在が不可欠です」(新村氏)

技育CAMP公式メンターは普段どのように生成AIを活用しているのか?

 「技育CAMP公式メンターが語る〜生成系AIどう活用している?〜」というセッションでは、技育CAMPの公式メンターを務める現役エンジニア3人が、普段の業務の中でどのように生成AIを利用しているのか、紹介した。

技育CAMP公式メンターのお三方

 技育CAMPとは、将来プロのエンジニアを目指す学生に向けて、スキルアップの場を提供するもの。今回登壇のお三方は、技育CAMP公式メンターとして技術勉強会の開催やハッカソンにて開発のサポートを行っている。

 技育CAMPで公式メンターを務める小森一輝氏は、所属企業でクラウドソリューションアーキテクトとして活動するとともに、自身の会社も経営している。そんな同氏が最近重宝しているのが、「n8n」と呼ばれるノーコード開発ツールだという。

 「n8nはコーディングを一切することなく、画面上で部品を配置するだけで生成AIアプリケーションを簡単に開発できるオープンソースのノーコード開発ツールです。現在このツールを使って、会社経営にまつわる煩雑な業務を効率化できるAIアプリケーションを開発しています」(小森氏)

小森氏がコードを1行も書かずに開発したアプリケーション

 そうしたアプリケーションの一例に、「経費精算アプリケーション」があるという。領収書をスマートフォンのカメラで撮影して画像を「Slack」にアップロードしたら、その内容が生成AIによって自動的に読み取られ、さらには適切な勘定科目に自動仕訳して登録される。既にn8nを使った開発に精通している小森氏は、この経費精算アプリケーションのようなシンプルな機能のものであれば、わずか1時間程度で開発できるという。

 同じく技育CAMPの公式メンターを務める大石悠真氏は、日々の開発業務の中で生成AIツールを活用してきたという。特に最近では、自律型AIエージェントツール「Devin」を活用する場面が増えているという。

 「Slack上でDevinに開発作業を依頼したら、後はツールが自律的に動いてくれます。自分の代わりに働いてくれるエンジニアが1人増えたような感じで、例えば昼休み中に自分が休んでいる間に作業してもらうような形で活用しています。実は新卒時の入社式の間も、Devinに作業を依頼して、プルリクエストを作ってもらっていました」(大石氏)

 小森氏も同じく、DevinやGitHub Copilotといったツールを使ってコーディング作業を自動化している他、日々の仕事の中で発生する煩雑なタスクを生成AIを使って効率化しているという。

 「個人的には文章を書くのがとても苦手なので、レポート作成のような業務をおっくうに感じてしまいます。ですが最近は、生成AIに資料を探してもらったり、それを基にレポートのアイデアを書いてもらったりすることで、作業がぐっと楽になりました」(小森氏)

AIを使ってAIの最新トレンドにキャッチアップしていく

 生成AIの技術進化のスピードは非常に速く、小森氏や大石氏のように普段から生成AIを使いこなしている現役エンジニアですら、最新の技術トレンドについていくのは容易ではないという。しかし生成AIをうまく使えば、「AIを使ってAIの最新トレンドにキャッチアップすること」も可能になるという。

 「かつては最新の技術情報をキャッチアップするために、いろいろなブログのRSSを登録して定期的に巡回していました。でも今なら『ChatGPT』や『Gemini』といった生成AIサービスにWeb検索機能が備わっているので、例えば『今月の生成AI関連の主要ニュースをピックアップして』とプロンプトを与えれば、生成AIが関連ニュースを素早くまとめて提示してくれます」(大石氏)

 こうして自身のスキルアップのために必要な情報を効率的にインプットする以外にも、ハッカソンのような場でアウトプットする際にも、生成AIは大いに役立つという。

 「ハッカソンに参加する際にも、あらかじめChatGPTにハッカソンで与えられる課題を伝えて、アドバイスをくれるように頼めば、とても懇切丁寧に教えてくれます。学生の皆さんがハッカソンに参加する際には、ぜひ活用することをお勧めしたいですね」(向平氏)

 こう語るのは、向平琴未氏。小森氏、大石氏と同じく技育CAMP公式メンターを務める同氏によれば、生成AIを活用することで、ハッカソンなど自身のスキルを試す場に参加するハードルがぐっと下がるという。なお本セッションでは、学生3人のチームでハッカソンに参加するという設定の下、ChatGPTと壁打ちしながら必要なスキルや知識を効率的に習得できる様子をデモで示した。

 小森氏も、このように生成AIをうまく活用しながら、実際のプロダクト開発を想定したプロジェクトを疑似体験できることは、将来プロのエンジニアを目指す学生にとって極めて有用だと述べる。

 「趣味のプログラミングとは異なり、実際のプロダクト開発ではコードレビューやテストなどのプロセスが欠かせません。こうしたプロセスは、これまでは実際の開発プロジェクトの現場でしか体験できなかったのですが、このように生成AIをうまく使えば疑似体験しながらスキルを習得できるので、エンジニアを志す方にはぜひ試してみてもらいたいですね」(小森氏)

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