AI生成コードは大規模基幹業務システムでも「使える」のか? MS&ADシステムズが日立と検証AI支援開発の未来はどうなる

開発を効率化し、エンジニア不足を解消する技術として注目される生成AI。金融や保険といったミッションクリティカル領域への導入検証で得られた効果や今後の展望について聞いた。

» 2026年04月24日 05時00分 公開

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 三井住友海上、あいおいニッセイ同和損保をはじめとする保険会社などで構成されるMS&ADインシュアランス グループ。そのシステム中核会社として、先進デジタル技術を活用した商品・サービスの開発を担うMS&ADシステムズは、2025年に入り、日立製作所の生成AI活用開発フレームワーク「Hitachi GenAI System Development Framework」を導入した。

 MS&ADシステムズの主要業務、自動車保険の既存システム開発における効果検証の結果や、今後の計画などについてプロジェクトの主要メンバーに聞いた。

保険システムの大規模な開発に求められるスピード感とキャパシティー

――今回のプロジェクトの背景をお聞かせください。企業として、どういった課題があったのでしょうか。

MS&ADシステムズ 自動車システム本部 平岡丈治氏 2025年5〜9月に、弊社の主要業務である自動車保険の既存システムの機能追加開発を対象に、従来型開発手法との比較による効果検証を実施しました。

 自動車保険については通常毎年改定があり、そのサイクルに合わせて開発する必要がありますが、MS(三井住友海上)系システムとAD(あいおいニッセイ同和損保)系システムの統合など大規模な開発も多く、スピード感が求められます。

 開発コストやキャパシティーがネックとなって、顧客である損保事業会社のビジネス要請に応え切れていない状況もありました。こうした課題を乗り越え、事業会社の成長・競争力強化・サービス革新を加速するために、日立製作所が開発した生成AI活用開発フレームワークを導入し、開発プロセスの効率化やさらなる品質向上を目指しました。

ウオーターフォール開発の全工程に生成AI適用を目指す

――MS&ADシステムズは生成AI活用開発フレームワークを開発プロセスのどこに適用したのでしょうか?

日立製作所 金融AX推進センター長 白井剛氏 生成AI活用開発フレームワークは、大規模でミッションクリティカルなシステム開発における生成AI適用を想定しています。今回は、ウオーターフォールでの開発プロジェクトの全工程に複数の生成AIをアシスタントとして適用する“レベル1”仕様の中で、コードアシストにフォーカスして効果を検証しました。

AI技術進化に追随してAIを前提とした開発プロセスに変革(提供:日立製作所)

――そもそもフレームワークはどのような背景で開発されたのでしょうか?

白井氏 日立製作所では、生成AIが世に出た当初から、特に大規模な開発プロジェクトを想定し、全開発プロセスに生成AIを適用する方向で進めてきました。その過程で、現場のエンジニアにプロンプト作成の負荷がかかったり、担当者のプロンプト作成スキルによって品質のバラツキが生じたりといった課題が明らかになってきました。

 こうした課題に対応しつつ、大規模プロジェクトにおけるソフトウェア品質を安定化するために、必要なガイドラインやツールを網羅したフレームワークを開発し、社外への提供に至ったのです。

――フレームワークについて概要や特徴を教えてください。

白井氏 要件定義や基本設計、詳細設計、コーディング、テスト、プロジェクト管理、品質管理のアシスト機能や、大規模開発に欠かせないバッチ処理、チャットボットなどの機能があります。

 ブラウザUI(ユーザーインタフェース)やIDE(統合開発環境)のプラグインで提供され、ユーザーは目的のメニューを選ぶことで、言語やフレームワークの選択、プロンプト入力、生成AIによる回答などの画面が表示され、入力ガイドや例を見ながら操作できます。

 これらの裏で動いていて安定した品質を保証するのが「メガプロンプト」です。日立製作所の開発では、作った画面については必ず入力チェックを実施しますが、生成AIに任せるとチェック漏れが発生する可能性があります。フレームワークではメガプロンプトを整備することで、漏れなく入力チェックができます。

 「Azure OpenAI Service」「Amazon Bedrock」、オープンソースソフトウェアなどのLLM(大規模言語モデル)に対応しつつ、LLMの出力に対してアドオンで品質向上の機能をフレームワークに組み込むことで、どのLLMでも安定して品質の高いコードを出力するプロンプトを生成できるようにしています。要件定義書や設計書さえ用意すれば、プロンプト生成からソースコード出力まで自動化します。

――今回、生成AI活用開発フレームワークの導入を決めた理由は何だったのでしょうか?

MS&ADシステムズ DX推進本部 梶田亮氏 大規模な金融系システムの開発で求められる品質を誰でも容易にアウトプットできること。MS&ADシステムズの開発の中でもガバナンスレベルの高い領域への導入であり、それに対応し得るフレームワークだったことです。

 こうしたフレームワーク自体の強みに加え、白井さまを中心に、外部有識者として社内勉強会に何度か登壇してもらう中で、大規模なミッションクリティカルシステムの開発で守るべきガバナンスルールやガイドラインなど、生成AI活用に関する豊富な知見にも優位性を感じました。

いつもより時間をかけて慎重に確認し、品質についての“懸念”を払拭

――2025年5〜9月に実施された、生成AI活用開発フレームワークの検証結果を教えてください。

日立製作所 自動車保険システム担当SE 後藤晋一氏 今回、フレームワークを自動車保険システム開発に導入したことで、現場のエンジニアがプロンプトを入力する必要がなくなり、事前に整理されたプロンプトで迷うことなく生成AIによる高品質なコードを出力できました。

MS&ADシステムズ 自動車システム本部 辻萌花氏 品質面についても問題ない水準で、単体テスト工程について言えば約25%の工数削減効果を確認しています。保険会社からの要望に対して、より柔軟かつ迅速に対応できるようになると考えています。

――効果検証終了後の新たな取り組みがあれば、教えてください。

日立製作所 後藤氏 2025年12月からMS&ADのシステム統合対応において、製造単体部分でフレームワークの本格運用を開始し、検証を進めています。

日立製作所 自動車システム担当SE 米田昭文氏 フレームワークでは、基本となるプロンプトが既に設定されているので、エンジニアのスキルによって左右される品質のバラツキを回避できますが、テストケース作成などでは「設計書をどこまで生成AIに読み込ませるか」によって精度が変わるという課題があります。

 全ての設計書を読み込ませることはできないので、テストする範囲だけに絞り読み込ませることになりますが、正しいテストケースは生成されても、テスト手順までは生成してくれません。例えば、特約に応じた保険種類の判別はフレームワークで実現できず、手動で対応する必要があります。

MS&ADシステムズ 平岡氏 フレームワークを活用して開発された納品物については、誤って解釈していないかどうか、テストケースが過不足なく立てられているかどうかなど従来のチェック項目について、いつもより時間をかけて慎重に確認しましたが、特に問題なく満足しています。取りあえず品質についての“懸念”が払拭(ふっしょく)されたので、今後はチェックに要する時間を短縮できると思います。

――生成AI活用について、今後の展望を教えてください。

日立製作所 白井氏 現状、ウオーターフォールの各工程にAIアシスタントが対応する“レベル1”として提供していますが、“レベル2”として、最近話題のAI駆動型開発についても研究を進めています。“レベル2”では、要件定義書と設計方針定義書さえ用意すれば、後はAIエージェントが自律的に開発を進め、テストまで実施してくれるようになり、開発効率の大幅な向上が期待できます。

MS&ADシステムズ 梶田氏 自動車保険領域のシステム開発でフレームワークの利用を開始しましたが、既に他領域から「フレームワークを利用したい」という声が挙がっています。2026年1月からこうした領域を対象にフレームワーク導入を段階的に拡大しています。

 今回は、製造やテストのコードアシストにフォーカスして導入しましたが、要件定義や基本設計、プロジェクト管理、品質管理などでの利用も検討を進めています。当然、将来的な“レベル2”にも期待していますが、エンタープライズ企業や金融系で求められるレベルをどのように実現するか、検討しながら進めていく考えです。

生成AIは、ツール提供側でも不安がある。一緒に効果を検証して実践的に

――こうした生成AIの導入を今後検討する企業に向けたアドバイスはありますか?

MS&ADシステムズ 梶田氏 MS&ADシステムズでも、内製開発を推進しているメンバーやレガシーシステムのモダナイゼーションをミッションとするメンバーなど、社内からの相談が確実に増えています。

 AIエージェントやアルゴリズムの進化は目まぐるしく、日立製作所のような相談できるパートナーの存在が欠かせないと思います。

日立製作所 後藤氏 正直なところ日立製作所も当初は、品質の不安はもちろん、手戻り発生や工数圧迫などの懸念がありましたが、MS&ADシステムズさまと一緒に効果検証を進める中で、生成AIは現場の手間を確実に減らしてくれる実践的なツールだと考えるようになりました。

 間違いなく今後はミッションクリティカルな大規模開発において、生成AI活用が前提になってくるでしょうから、焦らず効果を確認しながら現場主導で地道に取り組んでいくことが重要だと思います。

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