「IT運用はもはや限界に来ている」 どこまで“AIに障害対応を委ねる”決断ができるかAI時代のIT運用、Dynatraceが示す4段階モデル

人材不足やシステムの複雑化が進む中、従来の人手中心のIT運用は限界に近づきつつある。日本企業の多くが依然として初期段階にある。Dynatraceが整理した「自律運用への4段階」を基に考える。

» 2026年06月19日 05時00分 公開
[遠藤文康@IT]

 生成AIやAIエージェントの活用が広がる中、人手を中心とした手法が広く行われているIT運用の領域にも、自動化の波は押し寄せている。障害の原因分析や復旧手順の提示だけでなく、修正コードの生成やテスト、本番環境への反映までをAIが担うことも技術的には可能になってきている。

 もっとも、その実現度合いや実践状況には大きな差があるのが現実だ。既にSRE(サイト信頼性エンジニアリング)エージェントなどを活用した先進的な運用事例が現れ始めている一方、多くの企業では依然として従来型の人手中心の運用に依存している。

現場の努力が支えてきたIT運用

 「現在のIT運用は、現場の努力によって何とか維持されている状態。IT運用の限界は確実に近づいている」。オブザーバビリティー(可観測性)ツールベンダーDynatrace日本法人の代表執行役社長、徳永慎司氏は2026年6月10日の事業戦略説明会でこう指摘した。その背景には3つの課題がある。まず老朽化したレガシーシステムの維持・刷新も依然として求められている一方、クラウド活用や一部ではマイクロサービス化なども進展し、システム構成が複雑化していることだ。

 運用の人材確保が難しくなるという状況もある。ノウハウの属人化や担当者の高齢化、さらには運用のアウトソーシングによるブラックボックス化などが起きている。そうした中で個別の課題に対応する形で運用の部分最適化が進み、監視や運用がサイロ化することも課題だ。問題の検知が遅れたり、障害発生時の原因特定や切り分けに時間を要したりする事態を招く。

 今後も、レガシーシステムの刷新やAI活用などの取り組みが求められることを考えると、人手を前提とした運用を続けることは難しくなっていく。一方で、原因分析や問題の切り分けといった作業は運用監視ツールが備えるAI機能でも対応可能になりつつある。「人間は判断や意思決定に集中するという役割分担によって、システム運用の在り方を見直していく必要がある」と徳永氏は語る。

IT運用の4フェーズ――多くの日本企業は依然として「初期段階」

 もっとも、原因分析や問題の切り分けといった一部の作業をAIに任せることは、IT運用の進化において最初のステップに過ぎない。IT運用の今後の在り方について、Dynatraceでは次の4つの段階(図1)で整理している。多くの日本企業はこの初期段階にとどまっている。

画像 Dynatraceが考えるIT運用の将来像。日本企業はまだ第1フェーズにあるとする(提供:Dynatrace)

 「完全自律運用」が最終的なゴールとして位置付けられている。基本的にはAIが自律的に各タスクを実行し、人間は原則として関与しない形態を指す。一方で多くの企業は、問題の検知や原因分析を含めて全てを人手に頼る第1フェーズにいると徳永氏は指摘する。そうした従来型の運用から一歩脱却した次の段階は、問題の原因特定や解決策の提言をAIが担う「AI駆動型自動化」。人間はその結果を基に判断し、実際の作業を実行するもので、先進的な企業が進み始めているのはこの段階だという。

 その先にあるのが「監督付き自律型運用」だ。この段階では、問題の検知から根本原因の特定、修復策の提言までをAIが実施する。人間はAIの分析結果や提言内容をレビューし、妥当性を確認した上で実行を指示する。運用担当者は作業者ではなく、監督者としての役割を担うことになる。

 技術的な観点では完全自律運用の実現も視野に入っているが、実際にそこへ到達するには業務プロセスや組織体制、エコシステムの変革も必要になるため、「多くの企業にとって当面の現実的な目標は監督付き自律運用になる」(徳永氏)

AIがコードを直し、本番へ反映 TELUSが実践する「フェーズ3の運用」

 監督付き自律運用とは実際にどのようなものなのか。その先進事例として同社が紹介したのが、カナダの通信事業者TELUSの例だ。TELUSではAIエージェントを活用し、障害発生時に自然言語でコードを修正し、本番環境にデプロイするという運用を可能にしている。

 エンジニアはチャットを通じてAIエージェントに指示を出し、裏側ではGitHub Copilotと連携しながらソースコード上の問題箇所を特定。さらに修正コードの生成やテストケースの作成、テスト実行を経て、本番環境への反映までを自律的に進めるというもの。人間はその承認と監督を担う。従来のように運用担当者が原因調査や修正作業を全面的に担うのではなく、AIが実務を担当し、人間が最終判断を下す形へと役割が変化している点が特徴だ。

画像 フェーズ3の運用自律化を実践するTELUS(提供:Dynatrace)

 Dynatraceの黒岩宣隆氏(執行役員 システム技術本部長)は、今後の自律型運用において、人間とAIのインタフェースはチャットベースの対話が中心になるとの見方を示す。その運用を支える基盤として、「システムから集めた膨大なデータを基に、コンテキストに基づいた正確な回答、さまざまな視点から見たインサイトを提供することがDynatraceの役割として重要になってくる」という。

 こうした監督付き自律運用の実現においては、運用のタスクに特化したAIエージェントが自律化の中核となる。同社では「Dynatrace Intelligence」と呼ぶAIエージェント群を含めた仕組みが用意されている。AIエージェントが自律的に状況を認識し、分析し、計画を立て、必要なアクションを実行するためのプラットフォームとなっている。運用担当者はチャットを通じてシステムの状況や発生した問題について質問し、結果を基に判断し、必要な対応を実施したり、AIエージェントに実行を指示したりできる。根本原因の特定や、状況の分析、予測などのエージェントがある。

 黒岩氏は、自律型運用を実現する上では、データの質が重要になると説明。「ログやメトリクス、トレースといった基本的なオブザーバビリティーのデータに加え、サービス間のつながりを示すトポロジー、依存関係のデータなど、事実を基にしたデータを自動付与し、さらに統合されたデータレイクにデータを集約してAIが解析することで、より正確性のある決定論的な根本原因分析ができるようになっている」(同氏)

第2フェーズへ DeNAが進める運用高度化

 TELUSの例については先述の通りだが、日本でもAIを活用した運用高度化への取り組みは始まっている。その事例としてDynatraceが紹介したのがDeNAだ。同社では1000台を超えるサーバを運用しており、レガシーなゲーム関連システムと、モダンなアーキテクチャで構築された医療向けサービスの双方を抱えている。こうした環境では、障害発生時の対応が属人化しやすく、システム全体を横断した状況把握も容易ではなかったという。

 そこで同社はDynatraceを活用し、監視データの一元化と可視化を進めた。その結果、これまで調査や分析に長時間を要していた障害対応について、短時間で原因を特定できるケースが増えた他、担当者の経験や知識に依存しない運用体制の構築にもつながっているという。同社の運用は、原因分析や問題の切り分けをAIが支援し、人間が判断を行う「AI駆動型自動化」に近い段階にある。

 日本企業の多くが依然として第1フェーズにある現状において、DynatraceとしてはまずDeNAのようにAIを活用した運用高度化を進め、第2フェーズへ移行することを推進する。さらにその先には、TELUSが実践する監督付き自律運用がある。


 生成AIやAIエージェントの進化によって、原因分析や問題の切り分けといった従来は人手に依存していた業務をAIが担うことは、技術的には現実的なものになりつつある。TELUSのように監督付き自律運用へ踏み出している企業も現れており、AIを活用した運用高度化は既に始まっている。

 一方で企業のIT環境は、今後もさらに複雑化していくことが予想される。レガシーシステムのモダナイゼーションに加え、生成AIやAIエージェントを活用した新たなシステムの導入も進む。こうした中で、従来と同じように人手を前提とした運用を維持し続けることはますます難しくなり、障害が発生した場合の問題特定が困難になればそれだけビジネスに与える影響も大きくなる。

 既に多くのオブザーバビリティツールや運用管理ツールには、AIによる分析や異常検知、根本原因分析の機能が組み込まれ始めている。今後問われるのは、人間が担ってきた業務のどこまでをAIに委ねるのかという判断だ。これまで見過ごされてきた障害検知の遅れや、属人的な運用によるリスクと向き合うと同時に、人的リソースの不足などの課題がある中でAIによる運用高度化を含めてどのような手法を取り入れていけばいいのか――。その判断がより多くの企業において求められる段階に来ていると言える。

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