AIの台頭により、企業のマルチクラウド戦略は見直しを迫られている。従来のベンダーロックイン回避や冗長性確保を目的とした防御的な活用から、戦略的な技術要件へと変化した。独自AI機能の違いやGPU不足などを踏まえ、ワークロードを最適なクラウドへの意図的な配置が重要だ。本稿では、AI主導のマルチクラウドを促進する4つの構造的要因と、I&Oリーダーが対処すべき運用課題を具体的に紹介する。
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AI(人工知能)は、企業のマルチクラウドとの向き合い方に根本的な変化をもたらしている。
マルチクラウドの利用はこれまで、主に防御的な戦略だった。多くの場合、ベンダーロックインや冗長性に関する懸念から進められていた。だが今では、能動的に取り組むべき技術要件になりつつある。
従来のマルチクラウドアプローチの多くは確固たるものではなかった。ワークロードに基づく明確な根拠がなく、データエグレス(クラウド外へのデータ転送)コストや統合の複雑さといったクラウド間環境の運用実態を過小評価していた。
このモデルはもはや用をなさない。AIインフラの特殊性がクラウドに関する意思決定の在り方を変えつつあり、組織は恣意(しい)的なプロバイダー分散から、「意図的なマルチクラウド」というモデルに移行することを迫られている。
この変化を促進する主な要因は3つある。プロバイダー間における独自AI機能の相違、デジタル主権要件とデータレジデンシー(所在地)要件の厳格化、GPUや専用ハードウェアの不足を特徴とする不安定なサプライチェーンだ。
こうして変化する状況の中でAIを活用するには、ワークロードを単一の汎用(はんよう)スタックに閉じ込めるのではなく、利用可能なコンピューティングリソースと固有のモデルアーキテクチャに応じて配置する戦略が必要になる。技術要件と経済的要件を踏まえて配置を決定する、意図的なマルチクラウドへの移行がこの戦略を実現する。
この移行をするには、インフラとオペレーション(I&O)のリーダーは調達主導の戦略から脱却し、分散型エコシステムの能動的なオーケストレーションを進める必要がある。
そこでDay-2(運用段階)ガバナンスが極めて重要になる。分散クラウド環境全体にわたってAIを管理するには、コスト、パフォーマンス、セキュリティへの継続的な注力が欠かせない。
統一されたガバナンスフレームワークがなければ、組織は複雑さの増大や、制御不能な支出、「シャドーAI」の出現といったリスクにさらされる。ビジネス部門がIT部門を通さずに、専門リソースにアクセスするからだ。
この文脈において、I&Oチームはより戦略的な役割を担い、マルチクラウドをAIイノベーションの制約ではなく、その推進力として機能させる必要がある。
幾つかの構造的な変化に伴い、マルチクラウドは、AIに必須の技術要件となりつつある。これらの動向により、ワークロードを展開する場所と方法が変わってきており、企業には、より意図的で機能主導のマルチクラウドアプローチが求められている。
「オールインワン」型クラウドプロバイダーの時代は、終わりを迎えつつある。クラウドサービスプロバイダー(CSP)がAIスタックのさまざまなレイヤーで専門化を進めているからだ。これにより、「AIグラビティ」(重力)が生じ、主要なデータはあるクラウドに存在するが、必要な特定の大規模言語モデル(LLM)やトレーニングクラスタが、別のクラウドでしか利用できないという状況が起こっている。その場合、データセット全体を移動させることなく、各ベンダーの専門性を活用するには、高パフォーマンスの相互接続が必要になる。
規制の進化に伴い、特定の法域内でデータを保存、処理することを義務付けるソブリン(主権)クラウド要件の導入が進んでいる。グローバル企業にとってマルチクラウドは、地域によってさまざまに異なるコンプライアンス、データレジデンシー、国家安全保障上の義務を果たすために不可欠となっている。
AI需要の増大により、クラウドインフラは、供給制約のあるリソースとなった。GPUや専用ハードウェアの入手が限られているため、単一のプロバイダーが全てのワークロードの要求を確実に満たすことはできない。必要に応じてコンピューティングリソースへのアクセスや「クラウドバースト」(ワークロードをクラウドに拡張する)能力を確保する上で、マルチクラウドは不可欠となっている。
かつてマルチクラウドは信頼性に乏しかった。技術的に成熟していなかったからだ。だが、クラウド間ネットワーキング、統合コントロールプレーン、マルチデータセンターによるリソースプーリングといった新たな促進要因により、分散アーキテクチャがようやく実現可能になっている。これらの統合によって参入の障壁が下がり、異なる環境間でワークロードと管理ポリシーのよりシームレスなフローが可能になっている。
効果的なAI主導型マルチクラウド戦略を運用に落とし込むために、I&Oリーダーは基盤となる能力を整備するだけでなく、規律ある継続的な管理アプローチを採用する必要がある。
マルチクラウドのAI環境では、コスト管理と最適化が格段に複雑になる。さまざまな料金モデル、不透明な利用指標、データ転送に伴う課金が、価値を急速に侵食することがあるからだ。I&Oチームは、データエグレスコストのきめ細かいモデリングを確立し、AIサービスとプライマリーストレージ間のデータ転送費用を予測し、抑える必要がある。
使用率の低いキャパシティーを特定し、支出を最適化し、ワークロードを経済的、技術的に最適な環境に一貫して配置するには、FinOps(ガバナンスを通じたコストの継続的な最適化)自動化ツールと、請求状況の一元的な可視化が不可欠だ。
セキュリティは、クラウド環境全体で一貫して機能する、アイデンティティー(ID)中心の統一フレームワークに基づく取り組みへと進化する必要がある。AIワークロードが複数のプロバイダーにまたがると、断片的なセキュリティ対策はリスクエクスポージャ(リスクにさらされる度合い)を増大させる。
フェデレーションモデルによってアイデンティティーおよびアクセス管理(IAM)を標準化し、プロバイダー非依存の暗号化を徹底し、クラウド間セキュリティポスチャ(態勢)管理ツールを導入することは、コンプライアンスを維持し、機密データを保護する上で極めて重要だ。
同時に、サードパーティーやシャドーAIの活動を能動的に特定し、ガバナンスを適用することは、管理されていないリスクのサイロ化を防ぐために不可欠だ。
コストとセキュリティにとどまらず、運用効率は、AI資産とAIシステムの規律ある管理と、包括的なオブザーバビリティ(可観測性)に左右される。
全てのAIリソースについて「信頼できる単一の情報源」を確立するとともに、AIモデルのライフサイクル管理ポリシーの実装により、廃止された実験が孤立した稼働リソースを残さないようにし、統合管理アプローチによってエージェントの乱立を最小限に抑えることが極めて重要だ。
同時に、プロバイダー全体にわたるテレメトリーを、統一されたオブザーバビリティレイヤーに統合し、一貫したパフォーマンス信号、分散トレース、一元的なアラートを確保することで、複雑なクラウド間AIデプロイ全体にわたって、リアルタイムの可視化とより迅速な問題解決が可能になる。
出典:Why AI Is Forcing Enterprises to Rethink Multicloud Strategy(Gartner)
※この記事は、2026年6月に執筆されたものです。
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