企業は、地政学リスクの増大や政府介入による「突然のAI・クラウドサービス停止」に備え、デジタル主権の確保と事業継続性の維持が急務となっている。データ、オペレーション、テクノロジーの3つの観点からデジタル主権を再定義し、リスクの分散を図ることが不可欠だ。
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経済の脱グローバル化は、地政学的な不安定性を引き起こし、AIやITサービスの突然の停止につながる恐れがある。だが、AI主権だけでは、企業がビジネスレジリエンス(回復力)を確保するには不十分だ。
企業は、マルチモデルルーティング(複数モデルの中から適切なモデルを選択する)、AI依存状況の厳密なマッピング、ベンダー中立のセキュリティコントロールを優先し、選択肢のある脱グローバル化戦略を推進することで、突然のサービス停止リスクを軽減し、事業継続を確保する必要がある。
地政学的な緊張が高まり、規制監督が強まる中、デジタル主権はコンプライアンス要件の一つであるだけでなく、企業のレジリエンスを支える中心的な柱となっている。
CIO(最高情報責任者)やITリーダーにとって、この問題はもはや仮定の話ではない。外国の管理下にあるデジタルインフラに依存すると、ほとんど予兆なくオペレーションが停止される現実的なリスクがあるからだ。制裁や域外適用法、政府の指示によりサービスが突然打ち切られ、一夜にして事業継続が不可能になる恐れがある。
米国政府は先ごろAIベンダーのAnthropicに対し、米国民以外のユーザーによる「Fable 5」と「Mythos 5」へのアクセスを遮断するよう指示した。稼働中のAI基盤モデルへのアクセス遮断を目的に、政府が介入したのはこれが初めてだ。
現在の情勢下では、テクノロジーサービスの提供に対してこうした地政学的要因による介入が広がることは避けられない。そのためにCIOやAIリーダーは、ソブリン(主権)AI戦略を超えて、事業継続とレジリエンスを考えなければならなくなっている。
この変化は、経営層レベルでもますます顕在化している。テクノロジー主権をビジネス上の重要な懸念事項として挙げるCEOが増えており、これはテクノロジー主権が純粋な技術的課題ではなく、取締役会レベルの優先課題となったことを示している。
本質的に、デジタル主権はコントロールに関するものだが、それは単純な意味でのコントロールではない。「データがどこにあるか」だけが問題なのではなく、以下のようなデータやオペレーション、テクノロジー資産という相互に関連する3つの領域にわたる管理を包含している。
重要なのは、デジタル主権は「オールオアナッシング」ではないということだ。企業は、デジタル主権の確保の仕方によって、スペクトラム(子範囲な連続体)のどこかに位置することになる。リスクエクスポージャ(リスクにさらされる度合い)とビジネス上の優先順位に基づいて「どのレベルのコントロールができていれば十分か」を判断する必要がある。
長年、企業はスケーラビリティや柔軟性、効率性を約束するグローバルなクラウドプラットフォームの恩恵を受けてきた。だが、ルールに基づく安定したグローバルIT環境という前提はますます揺らいでいる。
域外適用規制により、政府は国境を越えてデータにアクセスできる。また、プロバイダーにサービス停止を命じる制裁が科される場合もある。こうした状況では、デジタル資産を直接コントロールしていない企業は、重要なシステムから突然切り離されかねない。
さらに、クラウドサービスに内在する責任共有モデルは、しばしば企業の自律性を制限する。アプリケーションやデータ、さらには知的財産までもが、プロバイダーが管理するインフラや法的管轄区域と密接に結び付き、必要に応じてそれらを分離したり、移転したりすることが困難になる場合もある。
かつては効率的な運用を実現すると考えられていたクラウドモデルだが、今ではリスクが集中する恐れがあると認識されるようになっている。
AIの急速な導入により、デジタル主権は一段と複雑化している。従来のITシステムとは異なり、AIはデータとテクノロジーの境界を曖昧にする。企業のデータが外部のモデルのトレーニングに使われると、結果として出来上がったシステムは、その知識を事実上、恒久的に組み込むことになる。
そこから新たな種類のリスクが生まれる。知的財産はもはやデータベースやアプリケーションに収められるだけでなく、第三者が管理する可能性があるモデル内に符号化されるからだ。
いったん組み込まれると、この情報は容易に削除したり、忘れさせたりできない。その結果、企業の独自の知見が、外国の管理下にある環境へ不可逆的に移転されてしまう恐れがある。
AIがビジネスプロセスに不可欠になるにつれ、長期的な競争優位を守るには、こうしたリスクの管理が欠かせなくなる。
企業は、完全な主権を有するプラットフォームを、主要な法的管轄区域ごとに持つことも可能だ。だが、ソブリンプラットフォームだけでは、規制の順守や地政学的な介入の回避ができないかもしれない。
企業は脱グローバル化戦略において、事業を展開する主要な法的管轄区域ごとに「AIを含むテクノロジーサービスをどの程度コントロールできる必要があるか」を定義する必要がある。
第一に、企業は主権への依存を意図的なものにし、可能な限りモデルに依存しないモジュール型のアーキテクチャを設計する必要がある。ビジネスの文脈と目標に応じて、オープンソースプラットフォームの採用も考慮するとよい。
第二に、フロンティア(最先端)モデルが強力になるほど、規制当局の注目と政府の関与が高まる可能性が高い。企業と国家はこれに対応し、ソブリンAIの枠を超えて、脱グローバル化に対処する包括的な戦略を持つ必要がある。
この包括的な脱グローバル化戦略には、ベンダーに依存しないセキュリティコントロールを実装し、コントロールの抽象化、ベンダーの多様化、データ主権の導入を通じて、レジリエンス、ポータビリティ、コンプライアンスを確保することが含まれる。
デジタル主権に対応するには、体系的かつ実践的なアプローチが必要になる。その第一歩は、主権に関する優先順位を定義し、さまざまな法的管轄区域全体にわたって、どのデータ、システム、プロセスを保護することが最も重要かを見極めることだ。その際はIT部門や経営陣、法務チームが緊密に連携する必要がある。
次に、企業はリスクの高い依存を洗い出し、自社のエクスポージャを評価する必要がある。全てのシステムが同じレベルの主権を必要とするわけではない。だが、重要なワークロードについては注意深くマッピングし、外国によるコントロールや影響がどこに及ぶ可能性があるかを把握する必要がある。
外部プロバイダーへの依存を低減することも重要だ。これはグローバルなクラウドサービスを完全に放棄することではなく、リスクを分散させることを意味する。
その方策としては、オープンソース技術の採用、現地または地域のプロバイダーの活用、必要に応じてアプリケーションやデータを独立して移行または運用できるようにすることなどが挙げられる。
最後に、AIガバナンスを主権戦略に組み込む必要がある。データの利用やモデルのトレーニング、ベンダーのアクセスに関する明確なポリシーは、新たなデジタル資産に対する管理を維持する上で不可欠だ。
デジタル主権とは、孤立することでも、グローバルなエコシステムから撤退することでもない。不確実性の中でも事業を行えるだけの十分なコントロールを企業が継続できるようにすることが目的だ。
地政学的環境と技術環境が進化し続ける中、混乱の発生は例外的な事態ではなく、避けられないと考えるべきだ。データ、オペレーション、テクノロジーの管理を積極的に強化する企業ほど、こうした課題をうまく乗り越えられる。
CIOにとっての使命は明確だ。選択肢を確保したデジタル主権を、IT戦略とビジネス戦略の両方に組み込む必要がある。そうすることで、企業はリスクを軽減できるだけでなく、ますます予測不可能な世界で持続的なレジリエンスと競争力の基盤を築ける。
出典:Deglobalization Is Reality, and AI Sovereignty Isn’t Enough for Business Resilience(Gartner)
※この記事は、2026年7月に執筆されたものです。
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