契約終了まで残された期間はわずか10カ月。米国の大手保険会社State Farmは、VMware製品を使った基盤で稼働する1500ものワークロードを移行する必要に迫られた。限られた人員で大規模な移行をどう実現したのか。
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契約終了までに残された期間は、わずか10カ月。その間に約1500のワークロード(アプリケーションやサービスなどの実行単位)を別の基盤へ移行しなければならない――。こうした状況に直面したのが、米国の保険大手State Farm Mutual Automobile Insurance Company(以下、State Farm)のエンジニアリングチームだ。
それまで利用していたのは、サーバ仮想化基盤「VMware vSphere」と、コンテナベースのアプリケーション実行基盤「VMware Tanzu Platform」(旧「Pivotal Cloud Foundry」)だった。State Farmによると、この環境はベンダー固有の技術への依存度が高く、将来を見据えればベンダーロックインからの脱却も課題になっていた。
とはいえ、1500ものワークロードをわずか10カ月で移行するのは容易ではない。移行先の基盤を扱うためのスキルを持つ人材も限られる状況で、稼働中のサービスを止めず、セキュリティやコンプライアンスの要件も満たす必要がある。State Farmはこの大規模な移行をどう進めたのか。
State Farmが移行を進める上で問題の一つになったのが、クラウド基盤を扱うために必要な知識だった。セキュリティグループやIAM(IDおよびアクセス管理)、その下層にあるクラウドインフラまで扱える知識を持っていたのは、ソフトウェアエンジニアのうち10〜20%程度に限られていた。残りの大多数の開発者にとっては認知負荷(情報を処理して理解するためにかかる負担)が大きく、本来取り組むべきアプリケーション開発に十分に集中できない状況だった。
保険・金融サービス事業者として、コンプライアンス(法令順守)やネットワーク、ガバナンス(管理体制)の要件も満たさなければならない。複数部門と調整しながらインフラを個別に用意する従来の方法では、10カ月という期限内に1500のワークロードを移行することは難しかった。
そこでState Farmが移行先に選んだのが、「Amazon Web Services」(以下、AWS)上でRed Hatのコンテナ基盤「Red Hat OpenShift」をマネージドサービスとして利用できる「Red Hat OpenShift Service on AWS」(ROSA)だ。
1500ものワークロードを短期間で移行するため、State Farmはクラウドインフラの提供方法を見直した。クラウドを構成する個々のサービスを開発者が組み合わせて利用するのではなく、必要な設定をあらかじめ組み込んだプラットフォームを一つの「製品」として開発者に提供する考え方に切り替えた。
その中核となるのがROSAだ。開発者が基盤となるサーバやコンテナオーケストレーションツール「Kubernetes」クラスタを一から設定しなくてもAWS上にアプリケーションを展開できるようにした。さらに、チームごとにインフラを個別に構成するのではなく、クラスタの構成をブループリント(構成テンプレート)として標準化。クラスタを構築する際には、全社のコンプライアンス要件や標準的なネットワーク構成、基本的なセキュリティ設定が自動的に適用される仕組みとした。
ただし、インフラを標準化するだけでは、10カ月という期限内に移行を終えるには十分ではなかった。State Farmはそれまでの中央集権型の運用も見直し、事業部門ごとに専用のクラスタを展開。各事業領域で移行を支援するチームにクラスタ管理者権限を渡した。
これによって、各事業部門は自らの移行スケジュールに合わせて作業を進め、必要なRed Hat OpenShiftの「Operator」(Kubernetes上のアプリケーションの運用・管理を自動化する仕組み)も自ら導入できるようになった。中央のエンジニアリング部門に作業が集中し、移行のボトルネックになることを避ける狙いだ。
クラスタ構成の標準化は、災害時の復旧にも効果を発揮した。State Farmが実施した災害復旧訓練では、GitOps(Gitのリポジトリを正としてシステムの構成を管理する手法)を使ったトラフィック制御によって、32の重要なクラスタを4時間以内にフェイルオーバーできた。
State Farmは移行と並行して、ROSAの構成自体も見直した。従来の構成から、Kubernetesクラスタの管理を担うコントロールプレーンをRed Hat側でホストする「Hosted Control Planes」を利用した構成へ移行。各AWSアカウントで専用のインフラ管理ノードを用意する必要をなくした。
この変更によって、従来の構成と比べてインフラコストを30%削減した。クラスタの構築時間も68%短縮し、75分から24分になった。既存の32クラスタについてもHosted Control Planesを使った構成で作り直し、稼働中のサービスに影響を与えることなく、4週間で全て移行した。
State Farmは今後、短期間での移行を優先した体制から、長期的な運用を見据えた体制へ移行する。移行時には事業部門ごとに専用クラスタを用意して管理を分散させたが、今後6カ月の技術ロードマップでは「Red Hat Advanced Cluster Management for Kubernetes」を導入し、共有クラスタを中央で管理する方針だ。全社で運用の一貫性を高め、セキュリティガバナンスを統一することを狙う。
本事例は、Red Hatが2026年8月14日(米国時間)に公式ブログで公開したものだ。State Farmが「Red Hat Summit 2026」で語った内容に基づいている。
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