マルチクラウド接続から“AI時代の基盤”へと進化した「Equinix Fabric」、ANAがネットワーク構築期間を80%短縮:羽ばたけ!ネットワークエンジニア(105)

SDNを使った柔軟性と迅速性に富むマルチクラウド接続としてスタートしたEquinix社のサービスは、AI時代にふさわしい機能を持つデジタル基盤へと大きく進化した。2026年8月6日、エクイニクス・ジャパンはANAが「Equinix Fabric」を活用し、デジタル基盤を刷新したことを発表した。

» 2026年09月28日 05時00分 公開
[松田次博,@IT]

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 2010年代から、企業は複数のパブリッククラウドやSaaSを利用するのが一般的になった。経済性、安全性(閉域接続)、信頼性、通信品質を確保してマルチクラウド接続を提供するサービスが複数登場した。その中でSDN(Software Defined Network)を使って柔軟で迅速なマルチクラウド接続を実現したのが、2014年にサービス開始したEquinix社の「Equinix Cloud Exchange」(以下、ECX)だった。

 その最新形である「Equinix Fabric」がECXからどう進化したのか、ANA(全日本空輸)でどう生かされたのか、エクイニクス・ジャパン広報に取材した。

接続対象と範囲が拡大されたEquinix Cloud Exchange Fabric

 主要なクラウドサービスとの閉域接続、オンデマンドでの接続設定、物理ポート上での複数の仮想接続が可能であったECXは2017年に「Equinix Cloud Exchange Fabric」(以下、ECX Fabric)へと進化した。

 図1は2018年9月の本コラム、「クラウド接続サービス」で企業ネットのボトルネックを解消しよう!」からの引用だ。

Equinix Cloud Exchange Fabricの構成 図1 Equinix Cloud Exchange Fabricの構成

 ECX FabricではECXより接続対象や接続範囲が拡大された。メトロ間をまたぐデータセンター間接続が可能となり、クラウド接続に加えてグローバルな相互接続基盤としての機能が強化された。クラウド以外のネットワーク事業者やパートナーとの接続も増えた。

 ECX Fabricを利用する企業はラックをEquinix社のデータセンター内に設置し、そこに企業ネットワークのキャリア回線を引き込む。キャリア網は「閉域網」であり、インターネットではない。企業ネットワーク側、Equinix側ともインターネットを使用せず、専用回線ベースで安全、低遅延、高品質(帯域幅の保証、パケットロスゼロ)なネットワークを実現する。図1では2つのキャリアで冗長構成を取っている。ラック内にはルーター、スイッチ、ファイアウォール、ロードバランサーなどを必要に応じて設置する。

 ラック内のLANとECX Fabricの物理的な接続は1Gbpsまたは10Gbpsのイーサネット(冗長化可能)だった。クラウド接続部分はSDN化されており、クラウド接続(仮想通信パスの設定)や帯域幅の割り当てと変更がユーザーコンソールで即時にできる。図1では10Gbpsの物理リンクの上で、「Amazon Web Services」(AWS)、「Microsoft Azure」「Microsoft 365」へそれぞれ帯域幅を割り当てている。

 クラウド接続側はSDNになっているが、企業ネットワーク接続側は物理的な接続であり、ラックを立て物理回線を引き込むため利用開始には1カ月程度を要していた。マルチクラウド接続の追加や帯域幅変更がリアルタイムで柔軟にできても、企業ネットワーク側の物理回線の帯域幅が不足すればその増速が必要になり対応には日数がかかった。

SDNを拡大した「Equinix Fabric」

 ECX Fabricは2020年12月に 「Equinix Fabric」へリブランディングされ、クラウド接続の枠を超え、企業、ネットワーク事業者、パートナーなどを結ぶグローバルなデジタル基盤となった。現在、65以上のメトロ、225以上のクラウド接続点を提供している。

 Equinix Fabricではマルチポイント接続などの新機能の追加や帯域幅オプションの拡充をはじめとするサービスの充実が図られ、それは現在も継続している。ECX Fabricと比較してもっとも大きな進化はクラウド接続側だけでなく、図2のように企業ネットワーク接続側もSDNが使えるようになったことだ。

企業ネットワーク接続部分もSDN利用可能となったEquinix Fabric 図2 企業ネットワーク接続部分もSDN利用可能となったEquinix Fabric(本図は筆者が作成した構成イメージでありANAとは無関係)

 図中の「Equinix Network Edge」が仮想ルーター、仮想ファイアウォール、仮想ロードバランサーなどをオンデマンドで調達、デプロイできる仮想化サービスだ。これを使うことでラックを設置して物理ルーターやファイアウォールを置く必要がなくなり、ごく短時間で接続環境を構築できる。

 キャリアの回線サービスでもNaaS(Network as a Service)が使えるようになっている。

 NTTドコモビジネス、KDDI、ソフトバンクなどのNaaS事業者はEquinix Fabricと相互接続するプラットフォーム・パートナーとなっており、キャリア側のコンソールとEquinix側のコンソールの操作だけで、企業ネットワーク側とEquinix間の仮想通信パスを短時間で設定できる。企業ネットワークからEquinixへ、そしてクラウドやAIなどの各種サービス、グローバルに存在する拠点などへの接続、帯域幅の変更などを全てSDNでできるようになったのだ。これによりネットワークの構築、運用の大幅な効率化、迅速化を実現した。

 企業がラックを立てて接続するコロケーションも従来通り利用できる。仮想ルーターよりも高いルーティング性能、仮想ファイアウォールにはない機能が必要な場合などは、高性能/高機能な物理ネットワーク機器を設置して使うことができる。

 図2ではNetwork Edgeと Equinix Fabric間の帯域幅は最大100Gとなっているが、帯域幅のオプションにはさまざまなものがあり、リンクアグリゲーションによる拡張も可能だ。

ANAにおける Equinix Fabricの活用

 ANAは急速に事業拡大する中、迅速・柔軟な顧客サービスの拡充を図るためには、物理的な回線や機器に依存したネットワークではなく、NaaSを導入することが不可欠だと判断し、Equinix Fabricを採用してデジタル基盤を刷新した。これにより、主要なクラウドへの安全なオンデマンドアクセスを利用しながら、事業ニーズの変化に応じた効率的な接続環境の拡張を実現した。

 具体的な成果としてアプリケーションの開発およびテストに必要なリソースを利用可能とするためのネットワーク構築期間を約80%短縮した。さらに、5年間の総保有コスト(TCO)を30%削減することを目指している。

 ANAのネットワークアーキテクチャは図3の通りだ。

ANAのネットワークアーキテクチャ 図3 ANAのネットワークアーキテクチャ(エクイニクス・ジャパンのプレスリリースより引用)

AI時代にふさわしいのは「インターネット主体」のSD-WANか、「SDNによる閉域網」か――

 コロナ禍が始まった2020年ごろから在宅勤務の急増を背景にゼロトラストとSD-WANが急速に普及した。SD-WANは信頼性や安全性を重視する大企業でもアクセス回線として安価なインターネット用ブロードバンド回線を複数引いて使っていることが多い。マルチクラウドへの接続はセキュリティ対策を講じてインターネット経由で行う。

 これに対して、Equinix Fabricを使ったネットワークインフラは、企業ネットワーク→Equinix Fabric→クラウドやAIサービスまで、徹底したSDNによる閉域網だ。

 企業でのAIの活用が急激に進む中で、インターネット主体のSD-WANとEquinixのような閉域網とどちらが企業ネットワークとして適しているだろうか。

 AIの利用が増えると企業ネットワークのトラフィックの増加率が高くなるだけでなく、大規模な社内データ更新や、全社的なAIシステムのバージョンアップ・再学習指示が行われた際には一時的に広帯域が必要になる。企業ネットワークには、ベースとなるトラフィックが増えた時に速やかに帯域幅を増やす、一時的に広帯域が必要な場合は確実に帯域を確保して不要になればリリースする、といったことが簡単、迅速にできることが求められる。また、AIを快適に使うにはクライアントが必要な帯域が確保され、低遅延であることが必要だ。

 そもそも、帯域幅や遅延時間の保証がないベストエフォートなインターネットで一時的に広帯域な通信を確保することや低遅延を保つことは不可能だ。 Equinix FabricのようなSDNによる閉域網であれば必要な時に必要なだけ帯域幅を確保し、低遅延を保つことは容易だ。AI時代の企業ネットワークはインターネットではなく、SDNで簡単に制御できる閉域網が主流になるかもしれない。

筆者紹介

松田次博(まつだ つぐひろ)

情報化研究会(http://www2j.biglobe.ne.jp/~ClearTK/)主宰。情報化研究会は情報通信に携わる人の勉強と交流を目的に1984年4月に発足。

IP電話ブームのきっかけとなった「東京ガス・IP電話」、企業と公衆無線LAN事業者がネットワークをシェアする「ツルハ・モデル」など、最新の技術やアイデアを生かした企業ネットワークの構築に豊富な実績がある。本コラムを加筆再構成した『新視点で設計する 企業ネットワーク高度化教本』(2020年7月、技術評論社刊)、『自分主義 営業とプロマネを楽しむ30のヒント』(2015年、日経BP社刊)はじめ多数の著書がある。

東京大学経済学部卒。NTTデータ(法人システム事業本部ネットワーク企画ビジネスユニット長など歴任、2007年NTTデータ プリンシパルITスペシャリスト認定)、NEC(デジタルネットワーク事業部エグゼクティブエキスパートなど)を経て、2021年4月に独立し、大手企業のネットワーク関連プロジェクトの支援、コンサルに従事。新しい企業ネットワークのモデル(事例)作りに貢献することを目標としている。連絡先メールアドレスはtuguhiro@mti.biglobe.ne.jp。


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