“コピー”をやめて工数削減――「データのサイロ化」を解消した2社の選択と、消えない“Excelの呪縛”:AI時代のデータ活用には何が必要か

データがシステムごとに分散していては、有効活用が難しくなります。こうした「データのサイロ化」を解消した2社は、何をどう変えたのでしょうか。調査から明らかになった、データ活用を阻む“手作業”の実態とは。

» 2026年10月25日 08時00分 公開
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 業務の効率化や迅速な意思決定、新たな知見の獲得を目指す上で、重要な役割を果たすのがデータ活用です。部門やシステムをまたいでデータを活用できれば、個々のシステムのデータだけでは把握できなかった傾向を捉えることも可能になります。ただしデータを十分に保有していても、それらを効果的に活用できるとは限りません。

 データ活用を難しくするのが、業務システムや部門ごとにデータが分散する「データのサイロ化」です。データが分散していると、必要なデータの所在を把握しにくくなり、複数のシステムからデータを集めて利用できる形に整えるにも手間が掛かります。その結果、全社的なデータ活用が難しくなるのです。

 こうした課題を乗り越えてデータのサイロ化を解消し、データ活用の効率化を実現した企業があります。

「データのコピー」をやめて工数8分の1 古河電工が変えたデータ統合の仕組み

 古河電気工業(以下、古河電工)は、経理や営業、購買などの部門ごとにシステムを管理してきました。それぞれのデータベースも分かれていたことから、約100システムにデータが分散し、全社横断でのデータ活用は困難でした。現場からは「必要なデータがどこにあるのか分からない」「必要なデータが存在するかどうかも分からない」といった声が上がり、経営層も決算数値の速報値を迅速に確認しにくい状況でした。

 課題を解消するために、古河電工はスクラッチ開発したシステムやSaaS(Software as a Service)など約100システムのデータ統合に着手しました。当初はデータレイクに、各システムのデータをコピーして集約する「物理統合」を採用していました。この方式では、データソースを追加するたびにデータをコピーして集約する必要がありました。そこで新たなデータ統合手段を検討することになるのです。

 古河電工が選択したのが、データをコピーせずに複数のデータソースを仮想的に接続し、1つのデータソースのように利用できる「データ仮想化」です。導入の効果はまず、データ統合の工数に表れました。関係会社の統廃合に伴う72種類のデータ提供に必要な統合を約1カ月半で実現し、物理統合と比べて工数を約8分の1に削減したということです。

 現業部門へのデータ提供も速くなりました。従来は、複数のデータソースのデータをまとめて利用できるようにする設定情報「仮想ビュー」の作成に、約3カ月かかることもあったといいます。データ仮想化の導入後は、データソースへの接続許可が得られれば、最短30分でデータを提供できるようになりました。

 「データが散らばっているならば、まずは一カ所に集める」。そう考えるのが自然に思えますが、古河電工の事例からは、全てをコピーして集約する必要はないことが分かります。データの所在や使い方に応じてデータ統合の仕組みを選ぶことが、データ活用の効率化につながる可能性があるのです。

アクサ・ジャパンがレイクハウスにデータを集約、コスト最大6割減を実現

 データのサイロ化を解消する方法は、データ仮想化だけではありません。データの管理状況や活用目的に応じて、適切な方法を選択する必要があります。アクサ生命保険やアクサ損害保険などから成るアクサジャパングループ(以下、アクサ・ジャパン)は、データインフラそのものを集約し、データの管理や分析の方法を変えました。

 アクサ・ジャパンでは、各現業部門がそれぞれデータレイクやアプリケーションを構築してきた結果、複数のデータインフラにまたがってデータを管理する状態になっていました。生命保険事業と損害保険事業の統合を進める中、意思決定に利用するデータへのアクセス性や信頼性、活用のスピードを高める必要が生じていたといいます。

 そこでアクサ・ジャパンは、データウェアハウスやデータベースを使った従来のデータインフラを段階的に廃止。部門ごとに分かれていたデータレイクを、データレイクハウスに集約しました。データレイクハウスとは、データレイクとデータウェアハウスの機能を兼ね備えた仕組みです。データへのアクセスを一元管理し、データインフラを集約しながらも、部門間でアクセス権限を適切に分けられるようにしました。

 こうした取り組みの結果、アクサ・ジャパンはデータインフラ関連コストを最大60%削減できました。これまで部門ごとに分散していたデータを横断的に分析できるようになり、部門をまたいだ知見を得やすくなったということです。データのサイロ化を解消するための方法は一つではなく、自社の課題や目的に応じた仕組みを選ぶことが重要だと分かります。

いまだにExcelとCSVでデータ連携 製造業に残る「厳しい現実」

 データのサイロ化を解消し、工数やコストを削減した企業がある一方で、データ連携の効率化が十分に進まず、「Microsoft Excel」(以下、Excel)などの表計算ソフトウェアやCSVファイルを使った手作業に依存している企業もあります。データ統合ツール「Reckoner」を提供するスリーシェイクが2026年6月9日に発表した「製造業におけるデータ連携実態調査」の結果は、その実態を示しています。

 調査では、データ連携を「ほとんど効率化できていない」と回答した人が22.5%、「あまり効率化できていない」は29.4%で、合わせて約5割に上りました。業務システム間のデータ連携方法については、「一部自動化しているものの、ExcelやCSVファイルによる手作業も含む」が36.3%で最多でした。「手作業が中心」の30.4%と合わせると、約3分の2が手作業を抱えている計算です。データ連携ツールなどによる自動連携は7.8%、内製のスクラッチ開発による自動連携は4.9%にとどまりました。

 手作業によるデータ連携が残る背景の一つに、業務システムの運用形式があるとスリーシェイクは説明します。調査では「オンプレミスとクラウドサービスが混在している」との回答が41.2%で最多となり、「オンプレミスが中心」が33.3%でした。異なる形態のシステムが併存していると、システムごとにデータが分断しやすく、ExcelやCSVファイルを使った手作業が残りやすいと同社は指摘します。

 この調査は製造業従事者100人を対象としたものであり、結果を全ての業種や企業にそのまま当てはめることはできません。それでもデータを横断的に活用するには、個々のシステムを導入・運用するだけではなく、データの連携や管理の方法にも目を向ける必要があることを示唆しています。

データ活用は「集める」だけでは終わらない

 データ活用を成果につなげるには、データのサイロ化を解消し、横断的にデータを利用できるようにすることが重要です。その代表的な手段であるデータ統合には、データを一カ所にコピーして集約する方法もあれば、データを移動させずに仮想的に接続する方法もあります。製造業の調査で見られたように、システム間のデータ連携に手作業が残っている場合は、自動化の進め方も検討する必要があるでしょう。どの手段が適するかは、利用するデータや業務、既存システムの構成によって異なります。

 AIの活用でも、データのサイロ化解消は重要な課題です。AIの学習や推論に必要なデータが個々のシステムに分散していると、必要なデータを収集・参照し、組み合わせて利用することが難しくなる場合があります。データを横断的に利用できる仕組みを整えるとともに、データの品質を確保し、AIやその利用者がアクセスできるデータの範囲を適切に制御することが重要です。

 データをコピーせずに仮想的に接続して横断利用するのか、データインフラそのものを集約するのか、あるいは手作業によるデータ連携の自動化から始めるのか――。自社の課題や既存システムの構成に応じて、適切なデータ統合の方法を選び、必要なデータを安全かつ効率的に利用できる状態を整えることが、AI時代のデータ活用に向けた第一歩となります。

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