日本の3つ目の経済サクセスストーリー
人の姿勢というものは、政府の計画によって変わる経済政策や出資計画などとは違う。人は、物事が変化したという確証を得たときにだけ信念を変えるものだ。
日本社会はすでに、第3の経済的奇跡を起こそうと変化し始めている。変化の多くはまだ広く認知されていない。理由として考えられるのは、そういった変化は最初は望まれないものであるため、大規模な組織立った計画の結果として起こるものではなく、まずは組織内で起こり、少しずつ日本全体に広がり始めているからだということだ。
半面、ちょっと間違った見方をしただけで、このような有益な変化は見過ごされてしまうのだとも思う。慎重かつ詳細に分析し、改良を続けるという方法が有効だったことは過去に証明済みだが、次なる発展に求められるスキルというわけではないのだ。
伝統的なツールを使って状況を分析するとき、問題を列挙した長いリストを作成し、「あらゆる点で東京はサンフランシスコと違う」と説明するのはたやすい。絶え間なく発表される白書や研究報告で、日本はリスク回避的だとか、ベンチャー投資の資金源はほとんどないとか、日本人はクリエイティブな思考ができないなどの誤った指摘がなされている。
こういった研究の大半は、単純に「日本はシリコンバレーとは違う」という事実に行きつく。客観的にそれは正しいが、必ずしもそれが問題なのではない。ゴールは、日本をシリコンバレーに作り変えることではない。日本は独自の手法を見いだすだろう。
異なるところにばかり目を向けたり、やたらに変わらなければいけないと考えたりするよりも、うまくいった多くのものに目を向ける方が生産的だと思う。信じられないかもしれないが、起業家にとって、米国より日本の方がはるかに優れているところがたくさんあるのだ。
起業家は、非現実的に楽観的だからこそ素晴らしい
すでにお気づきのとおり、ぼくは日本経済の未来に対して、極端に(ある人は「非現実的に」ともいう)楽観的だ。過去20年間に4社を立ち上げたが、今はさらに起業家精神を育む環境が整っているのだ。
それに、そう思っているのはぼくだけではない。
今まさに新たなベンチャーを立ち上げようとしている「非現実的」に楽観的な日本人に、ぼくは年中会っているし、そういう人は増えている。皮肉にも、「日本はリスク回避的だ」といっている同じ研究者が、「今の起業家世代は未熟で非現実的、傲慢(ごうまん)で自信過剰で、実際の会社経営がいかに難しいかをまったく分かっていない」と指摘する。
この批判はもちろん正論。でも、だからこそ素晴らしいのだ。
シンプルな真実として、現実的で道理をわきまえた人ならベンチャーを始めたりしない。はた迷惑で、過剰に楽観的で、道理をわきまえていない人だから立ち上げるのだ。さらにいえば、そのベンチャーのほぼすべてが失敗に終わるが、政府の政策でそれをどうにかすることもできないし、する必要もない。
しかし、はた迷惑で非現実的だからこそ、実際の起業家は(研究者とは違って)失敗の可能性についてそれほど気に病まない。
おおむね、このことは社会で実にうまく機能している。日本の現状を踏まえると、非現実的で超楽観的な起業家のわずか1%が成功するだけで、第3の経済的奇跡を起こすには十分なのだ。
このことはすでに始まっている。鼻が効く人なら、今が次なる発展の入口だということが分かるだろう。景気回復の芽は、あちこちに顔を出しているのだ。
筆者プロフィール
Tim Romero(ティム・ロメロ)●プログラマでありながら、もはやプログラミングをする立場ではなくなってしまった。米国ワシントンDC出身、1990年代初めに来日。20年間に日本で4社を立ち上げ、サンフランシスコを拠点とする数社の新興企業にも関わってきた。現在はPaaSベンダであるEngine Yardの社長として、日本の革新的なベンチャー多数の成功をサポートしている。
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