「業界で生き残る」チームに必要な条件とは?:ITエンジニアのチームリーダーシップ実践講座(1)(2/2 ページ)
業務で目的を達成するためには、活力あるチームを作り、運営していくことが重要だ。本連載では、ITエンジニアのリーダーシップスキルの向上に役立つツールや考え方を詳しく紹介する。
組織風土で診断するチームの現状
皆さんの所属する会社、あるいは皆さんの率いるチームが、仕事の世界で競争に打ち勝ち、生き残るためには、どうすればいいのでしょうか? 経営学の「組織風土」の研究分野に大きなヒントがあります。それは、会社全体という大きな組織に当てはまるだけでなく、身近な現場のチームにも適用できるものです。
ここでは、まず企業の風土診断について紹介し、次にそれを現場のチームに置き換えて考えてみます。
企業風土とは、その企業特有の行動特性のことです。企業が進化するために、現状でどんな特性があり、何を高めていく必要があるか。野村総合研究所による「コーポレートゲノム診断」では、「戦略活性度」と「組織活性度」の2つの要素を判断の材料にしています(図1)。
戦略活性度とは、自社の経営戦略を社員がどこまで認識しているか、組織活性度とは、組織の風通しの良さを社員がどの程度感じているかを表します。いい換えると、トップの意向が社員にどれだけ浸透し理解されているか、また、部署間の協力や連携がどれだけ取れているか、ということです。両者とも高いほど、生き生きとした組織になり、自らが変化を引き起こしたり、外の変化に対応したりする力が強くなり、理想の姿に近付きます。
戦略活性度・組織活性度ともに高い、右上の「生き生きタイプ」が望ましい姿です。社員1人1人が、自律的・意欲的に動き、社員間の風通しも良い、文字通り「生き生き」した状態です。しかも、それが会社の方針と一致しているので、無駄もありません。
「生き生きタイプ」の組織であれば、たとえ外部から予測し得ない大波が襲ってきても、その時点で自由に姿形を変えながら、組織で対応していくことができます。
一方、左上の「金太郎アメタイプ」だとどうでしょうか。経営トップの意向が社員に十分浸透し、全社一丸となって行動できるという強みがありますが、社員の個性が生かされるような体質ではなく、社内から変革が起こることは期待できません。会社のどこを切っても、みんな同じような社員ばかりというところから、「金太郎アメタイプ」と名付けられています。優秀な社員を集め、均一になるような教育を繰り返していると、今、目の前にある仕事に対しては最適化され、無駄なく効率が上がります。しかし、将来の変化に対しては、外部からてこ入れをして変えてもらわないかぎり、自分たちで自律的に変わっていくことは困難です。
右下の「仲良しクラブタイプ」だとどうでしょうか。社員の得意分野が生かされ、自由闊達(かったつ)な雰囲気なのはいいのですが、それぞれバラバラで、組織で団結してこそ生まれるパワーを利用することはできません。なあなあで仲良くやっているので、摩擦や衝突が起こらない代わりに、エネルギーとなる摩擦熱も発生しない、学生時代の部活や同好会のようなタイプです。
「金太郎アメタイプ」も「仲良しクラブタイプ」も、それなりの成果は挙げられるかもしれませんが、将来的に生き残れるか? という点では、内から変化が起こりにくいのが弱点になり、生き残りは難しいかもしれません。
「大企業病タイプ」の場合はどうでしょうか。トップの意向が社員に理解されず、管理や締め付けばかりが厳しい職場で、社員は組織の歯車として決められたとおりに動き、それなりの働きしか期待できません。肥大化した大企業によく見られる弊害を象徴しているので「大企業病タイプ」と名付けられていますが、組織規模が小さくても同じ症状が出ることは容易に考えられます。
皆さんの会社はどうでしょうか?
「金太郎アメタイプ」「仲良しクラブタイプ」「大企業病タイプ」の場合は、ぜひ、生き残りをかけて「生き生きタイプ」を目指してください。これは、経営層や管理職の人たちに改善策を丸投げするトップダウンのアプローチだけでは実現しません。社員の1人1人が、自律的に動き、個性を発揮していく必要があります。
ただし、自律が過ぎてあらぬ方向へ飛び出してしまったり、個性を発揮し過ぎて相手を傷付けてしまったりなど、度が過ぎると元も子もありません。そこで欠かせないのが、現場を束ねるチームリーダーの存在です。チームで行う日々の活動に、品質改善、プロセス改善、納期短縮といった改善目標を掲げ、変革のための仕組みを埋め込み、「生き生きタイプ」へ生まれ変わることを目指して仕事を楽しみましょう!
チームが活性化するための2つの条件
ここまで紹介してきた企業の風土診断の考え方は、現場のチームにもそのまま適用することができます。企業の風土診断での判断の要素には、次の2つがありました。
- トップの意向が社員にどれだけ浸透し、理解されているか?
- 部署間の協力や連携がどれだけ取れているか?
これは、チームにおいては、次のようにいい換えられます。
- チームリーダーの意向がメンバーにどれだけ浸透しているか?
- メンバー同士の意思疎通がどれだけスムーズか?
本連載を通して、これらについてリーダーが取り組むべき具体的な内容を詳しく説明します。
筆者プロフィール
上村有子●エディフィストラーニング インストラクター。外資SIer、証券会社を経て2000年に野村総合研究所入社。現在、情報化戦略、コンプライアンス、ビジネスコミュニケーション領域のコース開発、講師。専門分野はBA(ビジネスアナリシス)、コミュニケーション。
- それは連帯責任ではありません――チームが助け合ってはならないとき
- 優秀なエンジニアと優秀なチーム、日本企業が欲しいのはどっち?
- 正しいライバルを持つべき理由
- 仕事の評価=質×量÷?――「時は金なり」をメンバーに周知する
- 演繹法を駆使してメンバーを納得させる
- 論理思考を会話に応用する
- 情報交換スキルを高めるテクニック
- チームの立ち位置を見える化する「関係マップ」
- 会議の質を高めるために、リーダーが仕掛けるポイント
- 5つのプロセスで進める、効果的な会議ファシリテート
- 思考の癖を把握して効果的に評価する(後編)
- 効果的に指示するためのタイプ分け法(前編)
- 自分の性格や思考の癖を把握しよう
- リーダーは、目的ではなく目標を示せ
- リーダーは「分かりやすい人」であれ
- チーム活性化のために、リーダーが果たすべき役割
- 「業界で生き残る」チームに必要な条件とは?
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