ジョブズの言葉に後押しされて――「ひとり家電メーカー」ができるまで:転機をチャンスに変えた瞬間(24)〜ひとり家電メーカー 八木啓太(2/2 ページ)
物があふれている世界で、新しい物を作る意味を問いたい――「ひとり家電メーカー」として独創的なプロダクトを送り出す八木啓太さんの美学とは。
新しい価値のある物を作り、世に問うていく
松尾 一方で、作った製品は売らなければなりません。販売はどうやっていきましたか。
八木 そこも非常に苦労したポイントです。名前を知らないメーカーの名前の知らない製品を初めて買うのは、お客さまにとって勇気がいることです。「これはいい物ですよ」という後ろ盾があった方がお客さまは買いやすい。
その意味で第三者の評価が欲しいと考え、経済産業省の「グッドデザイン賞」とドイツの「レッド ドット デザイン アワード」に応募しました。幸い両方とも受賞でき、少し信頼いただけるようになった。それと同時にFacebookなどで情報発信を始めたのですが、最初は一人でやっていることは隠していました。
松尾 隠していたのですか?
八木 「一人で作っている」ことで、「品質は大丈夫かな」とお客さまに不安を持たれるのを懸念していました。しかしある時、取材に来た新聞記者が「一人でやっていることも非常に面白いから、もっと発信した方がいいですよ」と言って「ひとり家電メーカー」と名付けてくれたのです。
「ああ、一人でやっているのは、むしろ面白いと思ってくれるんだ」と気付き、開発ストーリーの情報発信も始めたら「ひとり家電メーカー」がソーシャル上でバズるようになり、情報が広まっていきました。
その半年後くらいにメーカーズムーブメントが起こったのも大きかったです。メディアで取り上げられる機会が増え、記事を読んでWebサイトにアクセスして「シンプルなライトだね、欲しいな」と購入してくれる人がだんだん増えました。
松尾 起業は八木さんにとって大きな転機でもあり、大企業を辞めることや前例のないことにチャレンジするリスクでもあったのではないかと思います。なぜ八木さんは起業に踏み切れたのですか?
八木 実は、独立するときはものすごく不安もありました。でも、スティーブ・ジョブズの「今日が人生最後の日だとしても、それでも今日の予定をやりたいか」という言葉に後押しされて、勇気を持ちました。
成功する保証なんてどこにもないですし、事業計画を作ってもその通りいくとは限りません。でも、リスクはあるけれど、これまでなかった物や新しい価値を作り世に問うていくことが、自分の一番やりたいことであり、ビーサイズの事業なのです。
松尾 八木さんの考え方や生き方が、そのまま事業に反映されているのですね。
八木 そうですね。実際、独立しても大変なことばかりです。ものづくりをするなら大手企業にいた方ができることも多い。でも、私は「真・善・美」という理念を追求するために「一人」で起業するという手段を選びました。「技術的に優れ」「社会をより善くし」「美しい存在であること」。これを目指せば、無理せず、ウソをつくこともなく、素直なままで事業に取り組めますから。
構成:宮内健 撮影:上飯坂真
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- 築き上げたものを守ることに、興味はなかった
聞き手 松尾匡起
クライス&カンパニー シニアコンサルタント
ITベンダーにて人事(採用)を担当。チームマネジメント、人材育成などの経験を経て、転職支援エージェントに転進。コンサルタント、企画系の職種を中心に採用支援サポートを行い、2006年にクライス&カンパニー入社。
1975年生まれ。GCDF-Japanキャリアカウンセラー。
インタビューシリーズ「Turning Point」 バックナンバー
※この連載はWebサイト「TURNING POINT 転機をチャンスに変えた瞬間 ビジネスの現場から」を、サイト運営会社の許可の下、一部修正して転載するものです。データなどは取材時のものです。
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