東京編:YOUは何しに奥多摩へ?――山の廃校で語学教育とシステム開発と地域活性化を模索する“くらげ”たち:ITエンジニア U&Iターンの理想と現実(46)(3/4 ページ)
JELLYFISHは奥多摩の廃校を活用し、高度IT人材育成を目的とした学校を開校した。学校は同時にラボ型開発の拠点でもある。生徒たちは語学やエンジニアとして必要な思考力などを学び、同時にアルバイトとして開発経験も積む。ゆくゆくは自身のアイデアやプロダクトで地域活性化も狙う。
日本のマンガやアニメに憧れて
現在、BITでは1期生と2期生が修学している。2人の生徒に来日の経緯やここでの生活についてお話を伺った。
デビッドさんはフィリピン出身、ダイビングが好きな男性だ。フィリピンの大学でITサイエンスを専攻し、卒業後はWebエンジニアとして3年ほどサイト構築などを経験した。日本のIT技術の高さを評価し、日本アニメ好きも加わり、日本で働くことを目指して週末に語学学校に通っていた。SNSがきっかけでJELLYFISHのBITを発見し、応募したという。
クラウディアさんはインドネシア出身、バレーボールやバスケなど球技が好きな女性。働きながらインドネシアの大学でコンピュータサイエンスを学んでいた。卒業はまだ先だが、単位取得と卒論を終えているため、BITに来ている。JELLYFISHがパートナーシップを結んでいるインドネシアの大学でBITを知り、応募した。
生徒たちは、開発ラボでのアルバイト代で生活費をまかなう。貯金して旅行する生徒も多い。デビッドさんは夏に沖縄旅行を計画している。クラウディアさんは新宿御苑で桜を観賞したり、各地の名所を観光したりするなど、日本を満喫している。「広島の尾道、神戸の布引ガーデンがすてきでした」と目を輝かせる。
生徒たちは奥多摩もエンジョイしているようだ。奥多摩は東京でありつつも都会ではない。クラウディアさんは初めてこの地に着いたとき、「ここは東京ですか?」と驚いたという。
それでも彼らは奥多摩を気に入っている。クラウディアさんは「都心より好き」、デビッドさんは「自然があるところが良い」と話す。暖かい地域出身者が多いためか、昨冬初めて雪が降った日は、多くの生徒が大喜びしたそうだ。人生で初めて見る雪だ。それは感激したことだろう。
卒業後の進路はどうするのだろうか。1期生の中には、日本のIT企業に就職したり、自国に戻って起業したりした人もいるという。デビッドさんとクラウディアさんは目下、日本のIT企業入社を目指して就活中だ。
クラウディアさんは「日本で働きたい。いろいろな経験が積めそうだから、まずはスタートアップに就職したい」とITのスペシャリストとしてのキャリアアップを目指している。デビッドさんは日本で20年ほど働いた後に、自国で起業したいと話す(デビッドさんは取材後、ITベンチャー企業に就職が決まり、BITを卒業した)。
地域とのコミュニケーション、そしてコミュニティーの創造へ
BITを通じて地域との交流も生まれつつある。生徒たちは、地元の方々とバレーボールで遊んだり日本料理を教わったりして、地域の人々と触れあっている。
「奥多摩の課題をITのチカラで解決するサービス、プロダクト」をテーマとした学習プロジェクトでは、フィールドワークを通して地域とコミュニケーションを取り、町の方々を学校へ招いて発表をする。ITリテラシーが高くはない地元の方々にも分かるよう工夫をして、サービスやプロダクトの企画、開発をしている。
地域とコミュニケーションを取ることで、生徒たちにとっても奥多摩の地域活性化は「自分ごと」となった。
JELLYFISHの奥多摩での事業構想には、この場を活用したインキュベーションもある。ゆくゆくは奥多摩の地域活性化に役立つ事業につなげたいと考え、コミュニティー運営にも力を入れ、起業家やアントレプレナーを集めたミートアップBBQなど、さまざまなイベントを、日々、企画運営している。
肥田氏は「この事業構想を成功させるにはあと数年はかかるでしょうね。仕方がありません」と話す。時間がかかるからといって、肥田氏は諦めているわけではない。奥多摩に移住もしているように、決意は固い。
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