インターネットのテクノロジーを学びたいと考える読者の皆さんは、どのようにこれらの情報を収集し、技術の吸収に努めているのでしょうか?本稿では、2001年8月まで約半年にわたり「インターネット・プロトコル詳説」の連載を続けてきた筆者の加地眞也(梁瀬介次)氏に協力をいただき、これらの技術習得に役立つお勧めサイトを紹介していきます。ぜひご活用ください(編集局)
何をおいても、RFC(Requests For Comments)はインターネット・コミュニティにおいてすべての根本ともなるスタートポイントだろう。もっとも、「それが最初からすらすら読めるならこんな記事は見ない」との声も聞こえてきそうだが、まあそういわず……。結局のところ、多くの標準仕様はRFCより出でてRFCへ帰する。最後はRFCに頼れる技術者を目指してみよう。
RFCの公開・関連サイトは数多いが、中でもこの「RFC Editor」は、名前のとおりRFC作成者のためのさまざまな情報やリンクを提供している。すべてのRFC/STD/FYIなどの参照や検索、RFCの書き方指南のほか、すでに発行されたRFCの訂正ページまである。RFCは、実は意外と記述ミスが多いのだ。また「RFC Editor's Queue」というページでは、現在IESGへ諮られているRFC候補のドラフトのステータスが確認できる。これから標準化されるかもしれない仕様がチェック可能だ。
とはいえ、英語のみでは理解も難しいし苦労が絶えない、という場合も多いだろう。そんなときには、ボランティアで多くの人々がRFCを日本語に翻訳してくれているので、感謝しながらぜひ活用させてもらおう。
検索サイトでも多く見つかると思うが、中でも井崎哲也氏の「日本語RFCリスト」は翻訳RFCのリンクリスト数も充実しており重宝することだろう。ただし、厳密には正式なRFCは英文オリジナルのみともされている。また、それぞれの訳にも注意書きがあるだろうが、翻訳ミスがあるかもしれない。それらの点だけは心に留めておこう。
インターネット・ドラフトとは、広義の意味ではRFCなど、標準化する前の仕様を広く周知してもらうために、各標準化団体などがまとめた仕様書だ。RFCに比べると格下のように感じるかもしれないが、実際にはXML関係など、ドラフト段階で十分標準仕様として認知されているものも少なくない。
またIETF(Internet Engineering Task Force)などの標準化団体では、まず仕様はドラフトとして公開される。特に仕様がいまだ激しく移り変わっている分野では重要な技術書となる。こうしたドラフトを数多く生み出しているのがIETFのワーキング・グループだ。
100を超える各分野別ワーキング・グループからさまざまなドラフトやRFCが発表されている。グループの活動記録なども残されているので、現在その技術分野がどのような方向性を持っているのかという目安にもなる。IETF Active IETF Working Groupsの中から、いくつか面白そうなワーキング・グループを紹介しよう。
DNS Extensions(dnsext)
DNSの拡張機能を議論しているワーキング・グループだ。一言で拡張機能といってもいくつかの分野に分けられるが、中でもセキュリティ機能とIPv6対応がメインとなるだろう。セキュリティ機能では、PKIのようにX.509証明書ベースで親ドメインから子ドメインを認証することで権限を委譲したり、悪意を持つ第三者によるDNSデータやキャッシュの乗っ取りを防ぐ、などの機能追加を図っている。すでにいくつかのRFC(RFC2535など)も発行されており、BIND9といったDNSサーバにもフィードバックされている。私見だが、ディレクトリ・サービスという観点からは、PKIを模したモデルというのが非常に興味深い。意外と、LDAPとの垣根やすみ分けにも、将来的には影響を及ぼすかもしれない。またIPv6対応では、AAAA/A6レコードの定義や移行のための議論が続いている。
Geographic Location/Privacy(geopriv)
名前が示すとおり、地理情報(緯度経度や高度など)をオブジェクト・データ化して、HTTPやHTMLで表現したり検索できる仕組みを目指している。同時に利用者のプライバシーを保護するための匿名性の仕組みも考慮するなど、時代に即したユニークなゴールを設定している。おととしから発足した比較的新しいワーキング・グループで、まだ公開ドラフトなどもないもようだが、例えばサーバの店舗情報に地理情報を記載すると自動的に行き方が表示されるカー・ナビゲーション・システム(従来ならCDやDVD-ROMにない情報には対応できないだろう)や、現在位置とポイント天気予報が厳密に検索できる携帯電話など、この例ではあまりオリジナリティがないが、こうした機能モデルが標準的な手法で行えるようになるというのは、大きなメリットとなるだろう。今後の注目株だ。
そのほか、連載などにも登場したワーキング・グループを以下にまとめておこう。
また、@ITの読者ならもはや紹介するまでもないかもしれないが、HTTP/XML関係での標準化団体としてW3Cは外せない。
よししん氏の「W3C Index」ではW3Cの日本語訳ページや日本語訳文書へのリンクなどが簡潔にまとまっている。W3C関連での最初のアプローチとして便利だろう。
IANA(Internet Assigned Numbers Authority)は、OID(オブジェクトID)やポート番号など、標準仕様やプロトコルに現れるアドレスの数値や定義名・資源名の決定や割り当てを行うための機関だ。例えばURLに現れるスキーム(「http://」や「ftp://」など)自体の意味はRFC2396に定義されているが、そこでRFCの公開時点で定義されているスキームの種類を挙げたとしても、次に新しいスキーム種類が追加・標準化されれば、そのRFCは最新の情報を保てなくなってしまう。それでは効率が悪いので、新たなスキームが追加されるならば、その部分のみのRFC化とともに、IANAが最新状況を管理することがよく行われている。IANA Protocol Numbers and Assignment Servicesには、これらの情報が一覧形式でまとめられている。
そのほか、メールなどで現れるキャラクタセットの定義、TCP/UDPポート番号一覧から、MIMEメディアタイプ、Ethernet/IPやTCPなどの各種パラメータ、DNSのgTLDレジストラ(登録業者)コード一覧などまである。単にリファレンスとしての使用のほかにも、関連してさまざまな仕様が存在しているということが一目で分かるので、興味半分でのぞいてみるのもいいだろう。意外な仕様に巡り合えるかもしれない。
TCP/IP入門書は数あれど、その先にある応用部分について分かりやすく解説した書籍は意外と少ない。特に、昨今のインターネットを支えるWebやメールなどのアプリケーション層のプロトコルについては、多くのネットワーク技術者にとって重要な技術であるにもかかわらず、それらを系統立てて理解するための書籍や資料は非常に少なかった。もちろん、RFCなどの英語の文献はあるのだが、これから技術を習得しようと考えているような読者にとっては、あたかも大学の受験対策に何百ページもあるような英語の辞書をまるごと暗記するような、途方もないものに感じられるかもしれない。
本書では、それらアプリケーション層のプロトコルを「インターネット・プロトコル」と総称し、これから技術習得を目指す初級者にも分かりやすい内容で、系統立てて学習する手段を提供する。@ITで約半年にわたり連載されてきた「インターネット・プロトコル詳説」が本書のベースとなっており、そこからさらに大幅な加筆とアップデートが行われている。HTTPやSMTPなど、各章はプロトコルごとの解説で構成されており、連載記事では紙面の都合で削られていた内容もボリュームアップした(Webでページ制限がないのに、「紙面の都合」というのも変だが)。また、連載ではカバーされていなかった「セキュリティ」「SOAP」「WebDAV」などの内容も新たに加えられている。
分かりやすい解説に加え、手元に置いて必要に応じて参照できる資料性。すでにWebで連載記事を見てきた方でも、再度読む価値は十分にあるだろう。(@IT 鈴木)
本連載のテーマでもあるアプリケーション層プロトコル「インターネット・プロトコル」について、検索サイトを活用するだけでも数多くの情報が集められるだろう。ここでは特に、日本語情報を中心に有益な情報の集まるサイトを紹介しよう。
プロトコルを理解するうえでの一番の壁は、なかなかプロトコルの動作の実感が得られない点だろう。頭では分かっていても、体では分かっていないという状況は、技術者にとってもどかしいことこのうえない。そこで、簡単なネットワーク・プログラミングはどうだろう。実際にプログラムを自分で書いてサーバ・アクセスなどを試してみれば。実感もわくことだろう。また、上記のコラムで紹介した書籍「インターネットプロトコルがわかる」を、その際のリファレンスとしても活用いただけることだろう。68user's pageでは、PerlなどによるHTTPやPOP3、FTPクライアントの簡易な例が多く挙げられている。ネットワーク特有のTipsや基本的な概念を学ぶには最適だろう。
書籍でもかかわったテーマから2つほど選んでみたのは「Internet Week」のサイトだ。Internet Weekについてはご存じの読者も多いだろう。毎年年末にJPNICやWIDEプロジェクト、SOI(School On the Internet:WIDE大学)が中心となって開催している国内のインターネット技術者のためのイベントだ。「キャッシュサーバ運用技術」と「メールサーバ・構築と周辺技術動向」はこのInternet Weekで行われた講義の内容だ。それだけであれば単なる資料なのだが、このサイトの秀逸なところは実際の講義の様子がすべてストリーミング・ビデオでも公開されている点だ。しかも、講義プレゼンテーション資料の任意のページから始めることもできる。どの講義もレベルが高く、しかも講師陣からして非常に実践向きの内容に仕上がっている。分野もIPv6からビジネスモデル特許、初心者向けから専門的な講義までと幅広い。ただし、どの講義も3時間ほどかかっているため、すべてをストリーミングで見るのは骨だと思われるので、少しずつでも参照してみるのはどうだろうか。これこそストリーミングの最も効果的な利用方法であるはずだ。昨年度版の資料は、この原稿を書いている時点ではまだなかったが、間もなく公開されることだろう。実は筆者もひそかに楽しみにしているコンテンツである。
またSOIでは、そのほかの一般講義も多く公開されている。特定技術を深く、または学術的に知るには最良のコンテンツだ。利用のためにはSOIへの入学/履修が求められている。つまり、ここはオンラインの大学なのだ。将来的には分からないが、現在は無料で簡単に入学できるようなので、興味のある方は検討してみてはどうだろう。かの村井純先生とチャットで議論というのも面白いかもしれない。
恐らくは、インターネット・プロトコルで最も読者の皆さんを悩ませ苦労させているのは、メール関係ではないだろうか。これを克服するには、メール・フォーマットやMIMEの正しい理解のほか、さまざまな現実的な問題点を把握しておくしかない。「Taki Internet Mail Private Lab.」では、一歩踏み込んだメールの仕様や問題点が簡潔にまとめられている。読んでおいて損はない。ぜひご一読を。また特に、MUA(メーラ)の詳細な機能比較で有名なサイトなのだが、qmail導入のトピック、リンク集なども非常に充実している。
それほど知られていないかもしれないコンソーシアム関係や一般的なポータル・サイトについても紹介しておこう。定番的な情報へのアクセスには便利ではないかと思う。「Internet Mail Consortium(IMC)」は、インターネットメール技術のための業界団体だ。vCard/vCalenderの開発元でもあり、詳しい資料がそろっている。またS/MIMEやPGPなど、メール標準に関するポインタも一通りまとまっている。「IMAP Connection」は、最初のIMAPプロダクトを開発したワシントン大学の運営するIMAP情報ポータルだ。まだあまり詳細な情報が見受けられないIMAPに関して情報を探しているなら、まずはここから始めてみるのもいいだろう。IMAP対応プロダクトリストや、IMAP対応ISPリスト(残念ながら米国内向け)も充実している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.