1980年代後半から90年代前半にかけ、事業会社の情報システム開発や運用を担う「情報システム子会社」が多く設立された。ところが近年、IT技術の発展、グローバル化、連結経営、ITガバナンスなどさまざまな要因が彼らの立ち位置や役割を変化させている。情報システム子会社は、設立時の目的とのギャップに悩まされている状況にある。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)は9月3日開催の「ITガバナンス2008」で、情報システム子会社各社の代表らが議論するセッションを行った。会社の役割が変わればそこで働く人材も新たな役割を求められる。セッションでは人材戦略にも焦点が置かれた。
情報システム子会社の位置付けのタイプは次のように分けられる。
タイプAの情報システム子会社は、事業会社の情報システム部門全体を子会社化した形。タイプBは、戦略立案と企画は事業会社の情報システム部門が行い、開発・運用・保守を情報システム子会社が行う。タイプCでは、事業会社の情報システム部が戦略立案に専念する。事業会社の情報システム部門が大手ベンダと合弁して株式構造が変わったのがタイプDとなる。
これまではタイプAが主流で、これからも主流であるとされている。そしてタイプAは次の図のように変遷を遂げつつあるという。
最近では、新タイプAのように事業会社に情報システム部門をおかず、情報システム子会社が戦略・企画・開発・運用・保守とすべてを行う機能会社という形が出現している。例えば、キリンビジネスシステムがそうだ。
キリングループは昨年7月持ち株会社化し、グループの経営体制を刷新した。組織は大きく分けて、事業会社、機能分担会社、構成会社の3つに分類する。キリンビジネスシステムは、機能分担会社としてグループ内での位置付けが明確になった。キリンビジネスシステムの常務取締役 横溝治行氏は、「グループ内唯一の情報システム会社として期待される役割が大きくなった」と語る。
これまで、キリンビールとキリンビバレッジの開発・運用はキリンビジネスシステムが受けていたが、キリンビールでは昨年4月、キリンビバレッジは今年4月に、情報システムの企画や立案をしていた部署が解散し、その機能がキリンビジネスシステムに移ることになった。メルシャンなど、事業会社のほかの情報システム部門も、キリンビジネスシステムへその情報システム部門を集約する方向にあるという。
キリンビジネスシステムは、キリンホールディングスの上層部から「いままでのように各事業からいわれたことをやっているだけではいけない。グループ各社の情報機能を担っているという強い意識をもって、積極的に事業に提言してほしい。おかしな点や不要と思われる点があったら遠慮なしに提言してほしい」と期待されているという。また、国内酒類、飲料事業担当者らからは「システムに関しては、われわれは自分の事業のことしか知らない。全事業のシステムを熟知しているキリンビジネスシステムには、複数事業間のシステム統合などの提言を期待する」と言葉をかけられているという。開発・運用のみならず、戦略や企画での提案力、さらに問題探求力や解決能力までを求められるているのだ。
こうした変化についていくため、情報システム子会社は求められる役割に対し適切に対応できる人材の確保と育成が急務だ。討論の主軸は人材育成に移った。
合成ゴム、電子・光学材料などの製造を手掛けるJSRを親会社に持つ情報システム子会社のJNTシステム。JNTシステム 顧問の永松秀通氏は、親会社およびグループ企業の現状と自社の現状をこう認識している。
親会社およびグループ企業の現状 |
要件定義ができていないことが多い |
業務内容の把握ができていないことが多い |
IT関連の知識が不足していることが多い |
TCO(総所有コスト)の増加に歯止めがかからない |
など |
情報システム子会社の現状 |
業務知識や人脈がない |
設計の経験が不足している |
PMなどのスキル不足が顕著 |
など |
情報システム子会社が求められる役割は、「要件定義だけではなく、一緒に作る要件開発へ」「造るに重点から保守に重点。ものをつくれば保守がついてまわるのは子会社の運命」「中流工程担当から上流も」「業務が幅広くなっているため、個人力重視から組織力重視」へと変わってきていると永松氏は語った。
求められる人材像も変化する。「上流工程で企画をするために、業務知識を持ち業務改革にかかわれる人」「ユーザー企業を巻き込み一緒に要件定義ができる人」「システム構築を費用の問題も含めきちんとできる人」が求められるという。
永松氏は「人材育成=教育という考え方だけではもうダメだ」と述べる。スキルの向上だけでなく、キャリアプラン、報酬、成果に対する評価システムなど、人材にかかわる総合的な仕組みづくりが必要だという。また、設計の手順やプロジェクト管理の仕方など業務フローの標準化は、もはや教育の一部として取り組むべきだと述べている。標準化した内容を教えれば、個別に教育する手間がはぶける。
パネリストからは、「ビジネスモデルを考えられる人材をいかに育てるか」「親会社以上に業務知識を知っている人材がほしい」といった声があった。受身型から提案型へ、さらに探求型へ、人材育成の可能性が広がっている。
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