シスコの不況脱出を支える30の取り組み、ジョン・チェンバース氏隣接市場機会にフォーカス

» 2009年06月08日 00時00分 公開
[@IT 三木泉,@IT]

 「2001年のときは人員を削減し、給与を下げ、経費を削減するしか方法がなかった」

 シスコシステムズ会長兼CEOのジョン・チェンバース(John Chambers)氏は6月4日、米国ボストンで同社が開催した「Cisco Partners Summit」における講演で、2001年の不況期と現在を比較して、同社が不況に強い企業に進化していることを説明した。

シスコ会長兼CEO ジョン・チェンバース氏

 「当時は経費を25%削減した。数十億ドル規模の事業機会を与えてくれる新しい高度なテクノロジ(が育つ)4、5年前のことだったからだ。今回は違う。われわれには30の『market adjacencies』(隣接市場機会)がある。給与削減や人員削減を回避しながら不況を乗り越えることができる」

 market adjaccenciesとは、新たな市場機会を意味する同社独特の言葉だ。製品に基づく分類ではなく、インテグレーション志向の市場定義だ。「コンシューマ市場」などの大まかな市場分類を示す場合もあれば、「データセンター」といったより具体的な市場機会を示すものもある。しかし既存の市場を示しているように見えても、これらの変革をリードすること自体を新たな市場として定義するのがmarket adjacenciesという言葉の特徴だ。

現在シスコは30のmarket adjacenciesを定義しているが、来年にはこれを50以上に増やすという

 例えば図に見られる「China 3.0」「India 3.0」「Mexico 3.0」というのは単なる国別の市場を示しているわけではなく、これらの国の政府と協力し、社会的ブロードバンドインフラなどを構築する取り組みを示している。

 チェンバース氏は以前、これらを「priorities」(優先項目)と呼んでいたことがある。しかしmarket adjacenciesという表現に換え、明確に目的化することで、それぞれを事業推進のエンジンとしている。これらのmarket adjacenciesはばらばらなものでなく、相互に関連するのだという。「『ビデオとモビリティとスポーツ&エンターテイメントとセキュリティとヘルスケアとがどうつながるのか分からない』といわれる。しかし、これらはまず非常にゆるやかな形でつながり、その後非常に密接に連携するようになる」

 「データセンターをはじめとするmarket adjacenciesをパートナーとともにすばらしい速度で開拓していき、それぞれの市場で、40〜50%のマーケットシェアを取ることが重要だ」

 間接販売を事業の基本に据えるシスコは、これまでも販売パートナーに対し、価格競争に巻き込まれやすい箱売りではなく、複数の製品を組み合わせたシステム、あるいは特定分野の問題を解決するソリューションとして販売することを奨励してきた。「Value Incentive Program」(VIP)というインセンティブプログラムでは、単に製品販売ボリュームではなく、どのような付加価値をつけて販売したかを勘案したインセンティブを提供してきた。

 今回のパートナーサミットでは「Architectural Play」(アーキテクチャ的活動)という表現を持ち込み、これに基づくVIPプログラムの再編を発表した。難しい概念だが、単一のソリューションにとどまらす、複数のソリューションや技術を組み合わせることにより、顧客の業務プロセスにどこまで踏み込めているかに応じてインセンティブを与えていくことになる。

パートナーも製品、システム、ソリューション、Architectural Playへと、高度な売り方が奨励されている

 シスコは事業を大まかに3分野に分けて推進する。コラボレーション、データセンター/仮想化、次世代ネットワークだ。それぞれ340億ドル、200億ドル、 400億ドルの事業機会を意味するという。VIPもこの3分野で、それぞれ製品よりもシステム、システムよりもソリューション、ソリューションよりも「Architectural Play」にどこまで近づけたかによる評価を行う。

 「ルータやスイッチ、無線といった個々の製品でなく、まずこれがどのようにテクノロジ・アーキテクチャとして成立するか、つまりあらゆる端末があらゆるコンテンツに対し、あらゆるネットワークを通じて、データ/音声/ビデオの任意の形式で提供できるかをパートナーとともに考えたい。それだけでなく、ビジネステクノロジをどう変えられるかを考えていきたい。顧客や政府がどのように市民や彼らの顧客と、サプライチェーンのすべての段階で触れ合っていくことができるのかということだ」

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