「長期的な最適解を」「光を見つけよう」――竹迫氏&角谷氏 講演レポートITpro Challenge! 2009 Light

» 2009年09月16日 00時00分 公開
[岑康貴@IT]

 「皆さん、光は見えたでしょうか?」

 日経BP社が主催した開発者向けのイベント「XDev2009」の初日となった9月15日、「ITpro Challenge! 2009 Light」において、総合司会の小飼弾氏は会場に向かってそのように投げ掛けた。

総合司会の小飼弾氏 総合司会の小飼弾氏

 本セッションは2007年から毎年開催を続けている「ITpro Challenge!」の一貫で、今年はサイボウズ・ラボの竹迫良範氏と永和システムマネジメントの角谷信太郎氏が講演を行った。

 冒頭、小飼氏は竹迫氏を紹介する際に「今日は何語で話されるんですか?」と質問。竹迫氏が「今日は日本語です」と返すと、小飼氏は「Perlで話されるのかと思いました!」と発言し、会場の笑いを誘った。


機械は人間らしく、人間は機械らしく

 竹迫氏は「プログラマー最適化問題」と題し、機械と人間が近付いていく時代におけるプログラマの「最適な振る舞い」について、ジョークを交えながら軽妙に語った。

 まず竹迫氏は「株取引」における「機械社会」の例を提示。Yahoo! オークションの自動落札プログラムに代表される「コンピュータが取引を判断する」ケースを挙げ、「プログラムが株の売買を行うようになっている。よく株式会社は株主のもの、という議論があるが、もしそうなら現在、株式会社は機械のものなのかもしれない」と主張。また、サーバやデータセンターは「快適な空調設備を供え、故障したら人間がすぐに駆けつける医療保障まで付いている」ことから、「すでに人間は機械の奴隷なのでは?」と話した。

 さらに、「現在の科学ではウイルスが生物かどうか定義できていない」ことを紹介し、「それならば、ウイルスとよく似た性質を持つコンピュータウイルスも、生物である可能性は否定できない」と発言。これらのことから、「機械はより人間らしくなっていきている」と結論付けた。

竹迫良範氏 ジョークを交え、軽妙に話す竹迫良範氏

 一方、「人間はより機械らしくなってきている」と竹迫氏は断言。その根拠として「記号化されたコミュニケーション」「ブログやTwitterなど、オンライン上にライフログを蓄積していくネット依存傾向」「Googleストリートビューに代表される現実世界の“マトリックス”化」「外部記憶装置としてのインターネット」などを挙げ、「Googleのページランクやレコメンドエンジンの結果に、人間の意思決定が左右されている」と語った。

 こうした変化に加え、人間は情報が増えたために、「選択肢が増え、決断に時間がかかるようになった」と竹迫氏は主張。プログラマにとって、「生涯年収を最大化するためには、どのプログラミング言語を選べばよいか?」「会社に依存するか、それとも技術に依存するか?」などの決断が難しくなっていることを提示した。

 これらを踏まえ、竹迫氏はまとめとして「機械のご利用は計画的に。部分最適を追い求め過ぎると、局所最適解に陥る危険性があります。長期的な視野を持って、全体最適を意識した選択をしましょう」と提案した。

「Do You See the Light?」

 竹迫氏に続いて登壇した角谷氏は「『ITpro Challenge!』は、“コードで世界を変える”ハッカーの方々が“変化”や“挑戦”について講演する催し、というイメージ。今日もすごいハッカーである竹迫さんの後に講演するということで、緊張している」と話しつつ、「自分は普通のプログラマだけど、普通のプログラマにとっても“挑戦”や“変化”は他人事ではない」と語った。

 角谷氏は「Do You See the Light?」と題して講演を行った。このタイトルは、映画「ブルースブラザーズ」でジェームス・ブラウン扮する牧師のセリフである。自分たちの育った孤児院が、税金が払えずにつぶされてしまうという危機に陥った主人公2人は、このセリフと共に教会に差し込む光を見て、「I have seen the light!」と叫び、かつてやっていたバンドを再結成し、コンサートの収益を税金の支払いに当てようと決める、という内容だ。

角谷信太郎氏 スクリーンの前に立ち、アクションを交えて話す角谷信太郎氏

 この映画を引用しつつ、角谷氏は「1998年に就職した当時は、仕事をなめていた」と振り返った。その後、「オブジェクト指向スクリプト言語 Ruby(まつもとゆきひろ、石塚圭樹 著)」「XPエクストリーム・プログラミング入門(ケント・ベック著)」「達人プログラマー(アンドリュー・ハント、デビッド・トーマス著)」の3冊と出会い、「光が見えた」のだという。

 「光が見えた」角谷氏は、プログラミングの楽しさを知り、その楽しさを役立てたい、自分の仕事に誇りを持ちたい、そしてその仕事を通じて適切な報酬を得たい、と思うようになったという。その結果、「“世界”には、自分にも直せるところがたくさんある」ことに気付いた、と角谷氏は語った。

 こうした気付きが、さまざまなイベントでの講演や技術書の翻訳、RubyKaigiの運営など、現在の角谷氏の活動につながっていったという。最後に角谷氏は「人間は1人じゃ生きていけない。人とかかわり、人を信じ、なおかつ自分が我慢しすぎないことが大切」であると話し、講演を終えた。

「皆さんにも光あれ」

 2人の講演終了後、会場から「竹迫さんにとっての“光”は何でしたか?」という質問が上がると、竹迫氏は「LLDN(2005年に開催されたLightweight Language Day and Night)でライトニングトークを初めてやったとき。ここで拾っていただいた恩返しをずっとしています」と答えた。

質問に答える2人 質問に答える2人

 小飼氏は「エンジニアが講演するようなイベントには、光がありますか?」と尋ねると、竹迫氏は「イベントには多くの光があるが、まだまだ足りない。Shibuya.pmやYAPCを通じて、もっとたくさんの光を生み出せるような環境を作っていきたい」と竹迫氏と回答。これを受けて、小飼氏の「皆さんにも光あれ」という言葉でセッションは終了した。

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