Internet Standards(インターネット標準)となるプロトコルは、ISOCという組織によって管理されているが、実際の技術的な検討や調査などの作業は、IABやIETFなどで行われている。ここでは、これらの組織についてまとめておく。
ISOC(Internet Society)は、インターネットの発展とその利用を促進するために1992年に設立されたインターネットに関する学会である。以下で説明する各組織を統括する国際的な非営利組織である。
IAB(Internet Architecture Board)は、インターネットの技術開発を監督するための組織で、IETF、IRTF、IANAを統括するISOCの技術的な諮問委員会である。
IETF(Internet Engineering Task Force)は、インターネットで使用される技術の標準化処理に責任を持つ組織である。IETFは、各技術の設計や開発を行う複数のワーキング グループを持つ。ワーキング グループの結成や調整などは、専門知識を持ったメンバーで構成されるIESG(Internet Engineering Steering Group)が行う。
IRTF(Internet Research Task Force)は、インターネットで使用される技術に関する長期的な研究を行う組織である。IETFがすぐに利用できる技術の開発を行うのに対して、IRTFはすぐには結果(成果)が得られる見通しが立たないような長期にわたる研究を行う。各研究グループの運営は、IRSG(Internet Research Steering Group)という組織が担当する。
IANA(Internet Assigned Numbers Authority)は、インターネットやプロトコルで使われる各種の数値や番号、名前などの管理を行う組織である。また、インターネットに接続されたすべてのコンピュータは、IPアドレスと呼ばれるユニークな番号を持ち、このIPアドレスによって各コンピュータを識別するになっているが、このIPアドレスの割り当て方針(どこの地域にどのIPアドレスを割り当てるか、など)もIANAで決められる。この方針に従って、実際にIPアドレスの割り当て管理業務を行うのがNIC(Network Information Center)で、各地域ごとにNICが存在する。アジア/太平洋地域を担当するNICとしてAPNIC(Asia Pacific Network Information Centre)があり、APNICからの委託を受けて日本ではJPNIC(Japan Network Information Center、日本ネットワークインフォメーションセンター)が実際の業務を担当している。
インターネットで使われるプロトコルは、IABによって定められた標準化のプロセス(下図参照)を経て「Internet Standards(インターネット標準)」という標準仕様にまとめられ(*1)、最終的にはRFCという文書にして公開されている。この標準化のプロセスは、プロトコルの実装とテストに重点を置いたものになっている。
*1 本連載では、便宜的に「Internet Standards」を「インターネット標準」などのように日本語に訳したものを併記しているが、これは正式な訳語ではない。インターネット プロトコルの規格は後で述べるように、英語で記述されたRFCが唯一の原典であり、日本語の訳語は特に定まっていない。本連載では、日本語の訳語として広く定着しているものはそのまま使うが、そうでないものは英語も併記したり、場合によっては英語表記のまま記述して、英語の文献を参照する場合の便宜を図ったりするので、あらかじめご了承いただきたい。
プロトコルが提案されると、最初はInternet Draft(インターネット草案)として公開され、これに対する意見などが広く求められる。その後、標準化されることになれば、Standards Track(標準化過程)に移行し、Proposed Standard(標準化提案)、Draft Standard(標準草案)、Standard(標準)という段階を経て、標準プロトコルとして認定されることになる。
新しいインターネットのプロトコルが提案されると、IETFのワーキング グループにより仕様の検討が行われる。ワーキング グループによって検討中のプロトコルは「Internet Draft(インターネット草案)」と呼ばれ、Internet Standardsとしての基準(仕様が明確で完成されており、多くの人々に支持される見込みがある)を満たすまで繰り返し改訂が行われる。新しいプロトコルは、IETFのワーキング グループから提案されることが多いが、外部の組織や個人から提案されることもある。
Internet Standardsとしての基準を満たすと判断されると、Internet DraftはIESGに提出される。そして標準化の対象とみなされると「Standards Track」と呼ばれるカテゴリに移動し、標準化の作業に入る。これに対し、基準を満たす可能性はあるが、長期的な研究が必要だと判断されると「Experimental」と呼ばれるカテゴリに移動する。
Internet Draftには6カ月間の期限があり、期限を越えても次の段階へ進む承認が得られなければ廃止される。
標準化の過程にあるプロトコルは「Standards Track(標準化過程)」と呼ばれるカテゴリに分類される。Standards Trackには「Proposed Standard(標準化提案)」、「Draft Standard(標準草案)」、「Standard(標準)」と呼ばれる3つの段階がある。
このうち「Proposed Standard」は最初の段階で、独立した複数の実装を行い、相互運用のテストを行う。その後6カ月以上経過すると、IESGの承認によってDraft Standardに昇格する。もし、テストで何らかの問題が発生した場合は仕様を訂正するが、その変更が大きな場合は、新しい提案として作業を最初からやり直す。
「Draft Standard」は、広くそのプロトコルの有用性を問う段階である。この段階で4カ月以上経過し、運用実績を積み、有用であると分かれば、IESGの承認によってStandardに昇格する。
「Standard」は最終段階で、この段階に達したプロトコルが、インターネットで公式に認められたInternet Standardsプロトコルである。
提案の中には情報の提供を目的としたものがあり、インターネットに有益な情報であると認められたものは「Informational」と呼ばれるカテゴリに分類される。主に他の組織によって開発されたプロトコルが分類される。たとえば、WWWで利用されているプロトコルである“HTTP/1.0”などがこれに該当する(現在の主要なWebサーバーやWebブラウザは、Standards Trackの“HTTP/1.1”を利用するようになってきている)。
インターネット上での実験を目的としたものや、研究や改良が必要と判断されたものは「Experimental」と呼ばれるカテゴリに分類される。Experimentalのプロトコルは、実験以外の目的でシステムに実装することはできない。たとえば、HTTPに安全を保証するための機構を追加した“Secure HTTP”などがこれにあたる。
別のプロトコルの出現と普及によって、置き換えられるなどして、使うべきではなくなったプロトコルは「Historic」と呼ばれるカテゴリに分類される。たとえば、現在、電子メールではPOP3というプロトコルを利用しているが、POP3の前バージョンのPOP2はHistoricになっている。
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