Windows 2000 Serverの後継として、現在開発が進められているサーバ向けOS「Windows .NET Server」(Windows Server 2003の旧称)。Q&A形式で整理して解説する。
■記事内目次
A:Windows 2000 Serverの後継として、現在開発が進められているサーバ向けOS。クライアント向けOSでは、Windows 2000 Professionalの後継としてWindows XP Professionalが既に発売されているが、このサーバ向けOSでは、Windows XP Serverという名称ではなく、「Windows .NET Server」が使われることになった。ちなみに開発コード名としては、Windows XPと同じ「Whistler(ウィスラー)」が使われ、「Whistler Server」と呼ばれていた。その後Windows 2002 Serverと呼ばれていた時期もあったが、最終的にはこの名称となった。これは、マイクロソフトが提唱するMicrosoft .NETのサポートが標準で実装され、同社の.NET戦略を推し進めるサーバOSとして位置付けられるためと思われる。
A:現時点での最新のバージョンはRC1である。このRC1は、2002年7月24日にシアトルで開催された.NET Breafing Dayで発表され、開発者向けのダウンロードサービスなどが開始された(前バージョンのβ3は、2001年11月12日開催のCOMDEX Fall 2001にて発表)。MSDN会員向けのダウンロードサービスでは、2002年7月30日の英語版(ドイツ語版)の公開に続き、2002年8月6日からは、日本語版RC1の公開も開始された(ただし、日本語版RC1の提供はWindows .NET Standard ServerとEnterprise Serverの2バージョンのみで、Web Serverは未提供)。
A:マイクロソフトからの公式な発表、およびそれに準ずる情報はない。米国のPC関連メディアでの報道では、英語版の出荷は当初2002年末といわれていたが、一説によればこれからさらに遅れており、2003年の初頭、あるいは2003年の中旬までずれ込むとの情報もある。ただし現時点では、「2003年初頭」説が有力のようだ。
A:細かい改良点は数え切れないほどだが、現状のWindows 2000と比較したWindows .NET Serverの最大の変更点は、XML Webサービス・サポート(.NET Frameworkの標準サポート)、Active Directoryの改良、Internet Information Services(IIS)の改良の3つだろう(β3レベルでのWindows .NET Serverの機能改良ポイントの詳細については別稿「Insider's Eye:Windows .NET Serverβ3の概要」を参照)。
Windows .NET Serverという名称が付けられたことからも分かる通り、Windows .NET Serverの大きな目標の1つは、マイクロソフトが提唱するMicrosoft .NETの普及に向けて、そのサーバサイドソフトウェアとして機能することである。このためWindows .NET Serverでは、.NET Frameworkが標準でシステムに組み込まれ、これをベースとするXML WebサービスやWebアプリケーション、Windowsアプリケーションを追加ソフトウェアなしで実行可能になる(現状のWindows 2000では、マイクロソフトから提供されている.NET Framework再配布パッケージを別途インストールする必要がある。再配布パッケージのダウンロードサイト)。
なおこれに関連して、メッセージシステムをサポートするMicrosoft Message Queueが強化され、SOAPフォーマットのメッセージが取り扱い可能になった。またCOM+と.NET Frameworkが統合され、COM+オブジェクトのメソッドをXML Webサービスとして公開できるようになった。
既存のWindows 2000のActive Directoryでは、いったんドメインコントローラー(DC)を構成してしまうと、容易にドメイン名を変更できない、フォレストの構成を変更できないなど、インストールや管理面での制限が少なくなかった。これに対しWindows .NET ServerのActive Directoryでは、ドメインの展開や運用を効率的かつ柔軟に行えるようにさまざまな改良が加えられている。
ネットワーク管理者にとって最も便利なツールの1つは、DCの情報の移行を支援するアップグレードウィザードだろう。このウィザードを使えば、DCに格納されている各種情報をリムーバブルストレージ(CD-Rなど)にいったん書き出し、別の環境でこの情報を書き戻すなどが可能になる。
Windows .NET ServerのActive Directoryでは、フォレスト内のドメイン(ルートドメイン以外)の名称変更や、フォレスト間での信頼関係の構築などが可能になっている。
周知の通り、2001年はIIS 5.0のセキュリティホールなどを突いて感染を広げるコンピュータワームのCode RedやNimdaが深刻な社会問題にまで発展した(Code RedやNimdaの詳細はそれぞれ「Insider's Eye:Code Redワームの正体とその対策」「Insider's Eye:ネットを震撼させたコンピュータワーム、Nimdaを検証する」を参照)。問題がここまで深刻化したのは、逆にいえば、IISを使ってインターネット向けのWebサーバを公開しているユーザーがそれだけ大勢いたということだ。Windows 2000 Serverに標準搭載されており、手軽で高機能であることから、利用者が多かったのだと思われる。しかしこれらのワーム事件は、少なくとも企業が安心して使えるWebサーバという意味では、その信用に大きく傷をつけたことは疑いがない。
WebサーバであるIISは、XML WebサービスやWebアプリケーションといった.NET環境の普及を図るうえで、その中枢を担う基幹ソフトウェアの1つである。そのIISを信用して使えないというのでは、.NETの普及もままならない。このためWindows .NET Serverに組み込まれるIISは、IIS 5.0からIIS 6.0へとメジャーバージョンアップされ、セキュリティや信頼性に関する機能が大幅に強化されている。
まずIIS 6.0では、デフォルトでは各種の拡張機能が無効化された状態(ロックダウンされた状態)になる。従ってIIS 6.0によりWebサーバを稼働させるには、必要な機能を管理者が明示的に有効化(アンロック)する必要がある。
IIS 6.0では、Webアプリケーションなどを安全かつ効率よく実行するために、ワーカープロセスを完全に独立して実行、管理できるようになった。これにより例えば、特定のワーカープロセスが動作不良を起こしても、他の正常なプロセスに影響を及ぼすことなく、問題のプロセスだけを停止し、代替プロセスを起動するなどが可能になる。IIS 6.0にはこのためのヘルスモニタリング機能が搭載されており、定期的にプロセスの応答を検査して、プロセスの状態をモニタすることができる。
マイクロソフトは、自社ソフトウェアにセキュリティホールやバグが見つかった場合には、積極的に情報開示を行い、その問題を解消するためのHotfix(パッチモジュール)などを提供している。くだんのCode RedやNimdaによって悪用されたセキュリティホールも、実際には、感染が広がる以前に公開されていたHotfixによって修復可能だった。つまり、タイムリーにHotfixを適用していれば、Code RedやNimdaの感染を防ぐことができたわけだ。
しかし現状では、Hotfixを適用するには、ユーザー自身でモジュールをダウンロードし、システムに適用する必要がある(そして基本的に、Hotfixの適用後はシステムの再起動が必要)。現実問題として、時間に追われる管理者にとっては、タイムリーなHotfixマネジメントは望みにくい状態だった。
これに対してIIS 6.0には自動更新の機能が追加され、重要なHotfixのダウンロードと適用をスケジュールできるようになった。この際、サービスの中断が不要なHotfixについては、Webサーバサービスを中断することなく(つまり稼働状態を維持したまま)、Hotfixのダウンロードと適用を実行できる。一方、サービスの停止を伴うHotfixについては、ダウンロードを先行して実行しておき、適用は別途スケジュールできるようになっている。
A:マイクロソフトが開発者向けに提供している有償の情報サービスの「MSDN」に入会すれば、Windows .NET Serverの開発途中バージョンをインターネットからダウンロードすることができる。2002年7月30日より、Windows .NET Web Server、Standard Server、Enterprise Serverの英語版RC1のダウンロードサービスが開始され、続く2002年8月6日よりWindows .NET Standard Server、Enterprise Serverの日本語版RC1のダウンロードサービスが開始された(日本語版RC1ではWeb Serverは未提供)。
なお米Microsoftでは、Windows .NET Serverの早期評価を希望するユーザーに対し、Windows .NET Server RC1英語版(360日限定版)の各バージョンをCD-ROMに収録したCPP(Customer Preview Program)キットを提供するサービスが開始されている。
このCPPキットには、次のものが含まれている。
前出のWebページでの解説を読む限り、このCPPキットは米国外からも申し込み可能で、料金は無料である(ただし、送料や輸入税などは個人負担)。
またこのプレビュープログラムでは、インターネットからのダウンロードサービスも提供している。前出のWebページからたどれる入力フォームに情報を入力して申し込めば、Windows .NET Server RC1英語版をダウンロードするための情報を電子メールで送付してくれると説明されている。このダウンロードサービスでは、以下のファイルをダウロードできると同時に、前出のニュースグループへの参加資格が与えられる。
入力フォームに国名の選択肢として「Japan」があることから、日本からこのダウンロードサービスに申し込むことも可能のようだ。ただし編集部で数日前に申し込んだ限りでは、ダウンロード手順を知らせるメールはまだ送られてこない。申し込み時に確認用として送られてくるメールによれば、「3週間程度たってもメールがこなければ連絡せよ」と記載されていた。
A:基本的に、Windows 2000 Server、Advanced Server、Datacenter Serverに対応する形で、Windows .NET Standard Server、Enterprise Server、Datacenter Serverが提供される。さらにWindows .NET Serverでは、これまでになかった製品として、Web Serverという製品が予定されている。これは、XML WebサービスおよびWebサーバのプラットフォーム用として、必要な機能だけに絞って特化した製品である。以下の比較表から分かる通り、Web Serverには、Active Directoryサーバ機能など、LAN向けのサーバ機能は提供されない。
機能 | Web Server | Standard Server | Enterprise Server | Datacenter Server | |
---|---|---|---|---|---|
クラスタリング | |||||
ネットワークロードバランシング | ○ | ○ | ○ | ○ | |
フェイルオーバークラスタリング | − | − | ○ | ○ | |
ネットワーク機能 | |||||
VPNサポート | △(クライアント機能のみ) | ○ | ○ | ○ | |
SIP(Session Initiate Protocol Service。Messengerなどで使用されている通信プロトコル) | − | ○ | ○ | ○ | |
IAS(インターネット接続のための認証システム) | − | ○ | ○ | ○ | |
ICS(インターネット接続共有) | − | ○ | ○ | − | |
ICF(インターネット接続ファイアウォール) | − | ○ | ○ | − | |
ディレクトリサービス | |||||
Active Directoryサーバ機能 | − | ○ | ○ | ○ | |
ファイル共有サービス | |||||
DFS(分散ファイルシステム)/EFS(暗号化ファイルシステム) | ○ | ○ | ○ | ○ | |
SharePoint Team Service(グループウェア) | − | ○ | ○ | ○ | |
Faxサービス | − | ○ | ○ | ○ | |
Macintoshファイルサービス機能 | − | ○ | ○ | ○ | |
Windows Mediaサービス | − | ○ | ○ | − | |
ターミナルサービス | |||||
管理用コンソール | ○ | ○ | ○ | ○ | |
ターミナルサーバ | − | ○ | ○ | ○ | |
Webサービスサポート | |||||
.NET Framework | ○ | ○ | ○ | ○ | |
IIS 6.0 | ○ | ○ | ○ | ○ | |
ASP .NET | ○ | ○ | ○ | ○ | |
その他の機能 | |||||
64bit Itaniumサポート | − | − | ○ | ○ | |
メモリのHot Add(動的なメモリの追加。ただしハードウェアのサポートが必要) | − | − | ○ | ○ | |
NUMA (Non-Uniform Memory Access) | − | − | ○ | ○ | |
データセンターサポートプログラム | − | − | − | ○ | |
Windows .NET Server各バージョンの機能比較 |
A:2002年7月末に公開されたWindows .NET Server RC1英語版での各バージョンの動作環境は以下の通り(ただし、Datacenter Serverについては、原稿執筆時点でRC1が公開されていなかったため、β3時点でのものをそのまま掲載している)。
必要条件 | Web Server | Standard Server | Enterprise Server | Datacenter Server *1 |
---|---|---|---|---|
対応プロセッサ | Intel Pentium/Celeronファミリー、AMD K6/Athlon/Duronファミリー、またはこれらの互換製品 | Intel Pentium/Celeronファミリー、AMD K6/Athlon/Duronファミリー、またはこれらの互換製品 | Intel Pentium/Celeronファミリー、Itanium、AMD K6/Athlon/Duronファミリー、またはこれらの互換製品 | − |
最低CPU速度 | 133MHz | 133MHz | 133MHz (x86) / 733MHz (Itanium) | 400MHz (x86) / 733MHz (Itanium) |
推奨CPU速度 | 550MHz | 550MHz | 550MHz(x86) | 733MHz |
最少RAM容量 | 128MB | 128MB | 128MB(x86)/1GB(Itanium) | 512MB |
推奨最低RAM容量 | 256MB | 256MB | 256MB(x86) | 1GB |
最大RAM容量 | 2GB | 4GB | 32GB (x86) / 64GB (Itanium) | 64GB (x86) / 128GB (Itanium) |
マルチプロセッサCPU数 | 1もしくは2CPU | 1もしくは2CPU | 1CPU〜8CPU | 8CPU〜32CPU |
最低ディスク必要量 | 1.25〜2GB | 1.25〜2GB | 1.25〜2GB (x86) / 3〜4GB (Itanium) | 1.5GB (x86) / 2.0GB (Itanium) |
グラフィックス | VGA以上(800×600ドット以上を推奨) | VGA以上(800×600ドット以上を推奨) | VGA以上(800×600ドット以上を推奨) | − |
Windows .NET Serverβ3の必要環境 2002年7月30日に公開されたWindows .NET Server RC1英語版の情報により更新。 *1:2002年7月30日時点では、Datacenter ServerのRC1は未公開だったため、β3時点での情報をそのまま掲載している |
■関連記事(Windows Server Insider)
■更新履歴
【2002/08/06】Windows .NET Server日本語版RC1の提供開始に関する情報を追加しました。
【2002/07/31】Windows .NET Server RC1の情報を反映して、記事を一部追加・更新しました。
【2002/05/15】「Q:Windows .NET Serverで何が変わるのか?」の回答における「■Active Directoryの改良」のWindows 2000のActive Directoryに関する記述部分で、「Windows 2000では、ドメインコントローラーのIPアドレスを容易に変更できない」旨の記述がありましたが、実際にはドメインコントローラーのIPアドレス変更はさしたる困難なく可能です。この部分の記述を削除させていただきました。おわびして訂正させていただきます。
【2002/05/11】初版公開。
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