TCP/IPは、米国国防総省(DoD)の支援によって開発されたネットワーク・プロトコルで、インターネットの標準プロトコルであると同時に、いまやLAN内部のイントラネットについても標準的に使われているプロトコルである。すでに簡単に触れたとおり、NetBIOSやその発展によって作られたNetBEUIプロトコルと大きく異なる点は、ネットワーク・アドレスを、任意の文字列からなる名前(NetBIOS名)ではなく、コンピュータで系統的かつ効率的に扱うことが可能な数字列(IPアドレス)によって割り当てているということ、それからNetBEUIでは混然一体となっていたトランスポート層の処理(エンド・トゥ・エンドでのデータ通信を可能にする)とネットワーク層の処理(異なるネットワーク間でのルーティングを可能にする)をプロトコルとして明確に分離し、処理の特性に応じて異なるプロトコル・スタックを組み合わせることで、より柔軟なネットワークを実現できるようにしていることだ。
ルーティングが可能というのは、具体的にはどういうことだろうか? まずは、ルーティング機能のないネットワーク(NetBEUIネットワーク)のケースを見てみよう。
このようにルーティング機能のないネットワークでは、ネットワークに参加するすべてのノード(コンピュータなどのネットワーク機器)を1つのネットワークに収めなければならない。これまでの連載で述べたとおり、NetBIOSネットワークでは、ブロードキャストを多用して名前の登録を行ったり、セッションを確立したりする(実際にはそれ以前の問題として、NetBEUIネットワークの下位層として広く使われているイーサネットはブロードキャスト型の物理媒体であり、上位のプロトコルが何であれ、イーサネット・レベルの通信は常にブロードキャストで行われるということがある。この詳細については別稿「詳説TCP/IP 第6回 イーサネット(その1)」などを参照)。
具体的にいえば、SOHOや企業の部署単位など、何台かのコンピュータ機器同士をハブで接続するとこのような状態となる。ノード数が少なければ、これでもまったく問題はないのだが、前述したブロードキャスト・トラフィックの問題があるので、ネットワークに接続されるノード数が増えてくるとネットワーク効率がどんどん低下してくる(自分の通信とは関係のないトラフィックがどんどん増えてくる)。
トラフィックが増えたからといっても、ルーティングができなければネットワークを分割することはできない。ノードから発信されたブロードキャストは、常にすべてのノードに到達できなければならない。また遠隔地にあるノードを接続する場合も、常に全体を1つのネットワークとして構成しなければならない。NetBIOS、およびこれを発展させたトランスポート層プロトコルのNetBEUIが想定するのは、このようなルーティング機能のないネットワークである。
これに対し、ルーティング機能のあるネットワークでは、途中にルータをはさむことで、次のようにネットワークを分割することができる。
このとき、各ネットワーク内にあるルータは、ネットワーク内でやり取りされるパケットをモニタし、別のネットワークに配送すべきパケットを見付けると(正確には、ルータ宛に送信されたパケットのうち、別のネットワーク宛のものがあれば)、それを別のネットワークに送信する。従ってネットワーク内でブロードキャストが発生しても、それをネットワーク外に送る必要がなければ何もしない。つまりルータをうまく配置してネットワークを分割すれば、ブロードキャストによるトラフィックが到達する範囲を調整できるようになる。
また図から分かるとおり、ルーティングは、異なる物理媒体を通して行うことも可能である。xDSLや光ファイバ、無線LANなどで接続されたインターネットを介してネットワーク同士を接続することも可能だし、公衆回線+モデムを利用したダイヤルアップで接続することもできる。これにより、遠隔地にあるネットワーク同士を接続して、互いに通信することができるようになる。ルータは、パケットを正しく目的地に届けるために、どのルートを経由すればよいかを知っており、必要に応じてパケットを正しいルートで送信する。
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