「新人君、あのドキュメントどうなった?」
「昨日お客さまに出しました」
「ええっ? 最終レビュー受けてないのに勝手に提出しちゃ……」
「あれ、一度お見せしましたけど」
「……」
ドキュメントの作成は典型的な業務の1つですね。仕様書やマニュアル、プレゼンテーション資料など、種類もさまざまです。特に仕様書などは、プログラムのソースと並ぶ成果物・納品物の一部ですので、非常に重要性の高いものです。従って、そのレビューもまた重要な作業であることは、いわばこの業界の「常識」です。
新入社員の中には、プログラミングだけが自分の仕事であると思い込み、ドキュメントを軽視する人もいます。新入社員にドキュメント作成を依頼して、以下のような経験をした方はいないでしょうか。
ケース1:
「書き終わったら見せて」といわない限り、いつまでたっても見せにこない
ケース2:
「できました」というのはいいが、内容が稚拙。特に誤字脱字が多すぎる
ケース3:
一度レビューを受け、それを直したら完成と思っている
このような経験をしたあなたは、そのとき新入社員に対してどのような態度を取ったでしょうか。誤りを正すことはもちろん必要ですが、われわれの常識が新入社員にとっては常識でない場合もあるのです。新入社員であることを考慮し、適切なアドバイスをすることも考えてみましょう。
ケース1の場合:
書く内容が分からなくて作業が滞っている場合もあります。いざ必要なときに「まだできていない」では遅いので、依頼時にあらかじめ期限を定め、途中でもいいから見せるように指示しましょう。単なる報告漏れの場合も、きちんと正しておく必要があります。
ケース2の場合:
ドキュメントの重要性をあまり理解していないと、面倒な仕事はさっさと終わらせてプログラムしたいと思うかもしれません。あるいは誤字脱字のチェックも先輩がやってくれる、レビューとはそんなものだと思い違いをしている場合もあります。
誤字脱字だらけのドキュメントをお客さまが読んだら、それだけで会社の信用に傷がついてしまうかもしれませんね。ドキュメントの重要性を説いてあげる必要があります。最低でもレビューの前に自分で一読し、誤字脱字を指摘されないレベルにしておくことを徹底させましょう。
ケース3の場合:
実業務では工数などの関係から、一度見て「ここ直しておいて」でおしまいというケースは往々にしてあります。しかし新人教育という観点からはやはり好ましいことではありません。修正した結果が間違っていないとは限りません。
こういう指導をしてしまっては、新入社員は指摘された個所を直せば終わりなんだと思ってしまいます。どの段階でOKにするかは、自分の判断でなく上司の判断で決まるということを理解させましょう。
「新人君、頼んでおいた今日締め切りの仕事だけど」
「ああ、あれ結局できなかったんで先輩やっといてください」
「……」
新入社員に作業を指示し、本人は「できます」といっていて最初は順調に進めていたものの、締め切りの当日になって聞いてみると「やっぱりできません」といわれる……。そんなケースがあると思います。もちろん、先輩としてはリスクを見込んで少し早めに締め切りを設定したりしていると思うのですが、それでもまったくできていなかったら、皆さんの残業が増えてしまうのは避けられないでしょう。
新入社員はつい1カ月前までは学生だったので、このあたりのメンタリティが社会人のそれとは全然違っています。学生のときは、自分の行動がもたらすものは「学校からの自分に対する評価」であって、それ以上でも以下でもないことが多かったでしょう。自分の失敗は自分の評価を下げるだけで、それ以外には波及しないというのが、彼らを支配している感覚ではないでしょうか。
社会人として持つべきメンタリティは違います。自分の行動がもたらすものは「顧客からの会社に対する評価」です。自分の失敗は会社全体の評価や信頼を下げることにつながるという感覚を、先輩社員の言葉で自覚させることが必要でしょう。
裏を返せば、自分の失敗は周りのメンバーにとってもひとごとではありません。上記のように新入社員の失敗が皆さんの残業時間を増やしてしまうこともあるわけです。企業の業務では、全体として完全な成果を出すために、失敗しそうなところは周囲がカバーするのが当然です。ですので、自分に失敗の兆候が見えたらできるだけ早く上司(プロジェクトリーダー)に相談することが重要だということを教えましょう。
周囲のメンバーに相談するのも1つの方法ではありますが、遅れが大きくなっている場合は、付け焼刃のような対応では根本的な解決にならないことがほとんどです。失敗をカバーする体制をつくる権限を持つリーダーに、できるだけ早く報告・相談するのが一番であると指導しましょう。
「新人が知らない会社の常識」というテーマで、いくつかのトピックを紹介しました。われわれにとってはすでに当たり前のことでも、新入社員にとってみれば初めて直面することばかりなので、戸惑ってしまうことがあるのです。
自分が新入社員だったときを思い出してみると、意外と「そういえば同じことで悩んだな、失敗したな」と感じることもあるのではないでしょうか。
ミスした事実のみに着目し指摘するのではなく、なぜミスをしてしまったのか(知っていたのにうっかり間違えたのか、知らずに間違えたのか)を考えることが、指導する側の人間にとって重要なことのように感じます。
会社の業務はいわば団体競技です。組織として円滑に業務を行うことができるよう、うまくリードしてあげてください。この記事が新入社員を指導するうえで皆さんの参考になれば幸いです。
越川剛臣
テンアートニ プロダクト&SIビジネスユニット テクニカルソリューション コンサルティンググループ 越川剛臣●1972年東京都生まれ。1996年青山学院大学 法学部卒業後、ソフトウェア会社勤務を経て、2003年5月テンアートニ入社。トレーニング講師・技術コンサルティング案件などを担当。現在は教育事業(コース開発および講師・教育コンサルティング業務)に従事。『DBマガジン』(翔泳社刊)、『日経ソフトウエア』(日経BP社刊)への記事寄稿がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.