多くのITエンジニアにとって「転職」とは非日常のもので、そこには思いがけない事例の数々がある。転職活動におけるさまざまな危険を紹介し、回避方法を考える。
ITエンジニアの皆さんが転職を考えるとき、そこにはさまざまな動機があるでしょう。いっそうのスキルアップを目指したい、自社開発をしたい、上流工程にチャレンジしたい、はたまた郷里の近くにUターンしたい……。
中でも特に、給与を上げたいという希望を持って転職活動をする人が多いように思われます。
そこで今回は、お金にまつわる転職活動の失敗エピソードをお話ししましょう。
松崎さん(仮名)は34歳のITエンジニアです。大学卒業と同時に入社した会社で10年以上、主に情報通信系の企業のシステム開発にかかわってきました。会社が嫌なわけではないのですが、給与水準には不満を持っており、年収面でいい条件を提示してくれる会社があれば転職するのに……と日ごろから思っていたそうです。
あるとき、松崎さんは転職する同僚の送別会に出席しました。そこで、転職への期待が一気に高揚してしまうような出来事があったそうです。その同僚が、松崎さんにこういったのです。
「松崎、お前、いつまでこの会社にいるんだよ。せっかくの売り手市場で転職活動しない手はないぜ、チャンスを棒に振ることになるぞ」
売り手市場、確かにそんな話は聞く。いま動かないのは損なのか?
結婚3年目の松崎さんは家の購入も視野に入れ始め、何とかもっと収入を上げたいと考えていました。そこへこの同僚のひと言で、とうとう転職活動を開始する決心をしたそうです。
松崎さんはインターネットや転職経験のある知人などから情報を収集し、収入を上げることを第一の目的として転職先を探し始めました。そして行き着いたのが、ITコンサルタントという職種でした。
「ITコンサルタントなら、収入は上がる」。そう確信した松崎さんは、ITコンサルティング系企業数社に応募しました。
仕事が忙しい中での転職活動で、相当の苦労があったようですが、みごとその中の1社から採用内定を勝ち得ました。収入面では550万円だった年収が700万円まで上がったそうで、採用内定書を見たときには夫婦で大喜びしたそうです。
もちろん、松崎さんは二つ返事で内定を承諾しました。退職活動もスムーズに運んだそうです。
ところが……。ITコンサルタントになった松崎さんを、入社早々試練が待ち受けていました。
これまでの経験が通用しない! 顧客のニーズがつかめない!
前職での経験を生かせるように、通信キャリア向けのプロジェクトにアサインされた松崎さんですが、顧客の要求に応えることができず、ストレスをためる毎日が続いたそうです。
それまで就業していたシステム開発会社では、ある程度仕様の決まった情報システムを構築していくことが主要な役割でした。もちろん顧客の情報システム部門や、あるときはエンドユーザーである業務部門の方に要件をヒアリングし、システムを提案する仕事も経験しています。
しかし、ITコンサルティング会社では、システム構築自体ではなく、あくまでも業務プロセスを改善するためのシステム構築が求められます。システム構築はできて当然、業務改善を実現し得る情報システムを企画することにウエートが置かれているのです。
松崎さんは必死に勉強したそうです。ITスキルには自信があったそうですが、業務改善を目的とする顧客の要求に応えられるほどの業務知識は持ち合わせていなかったのです。問題点を提起し、システム上の課題を形成したうえで論理的に改善策を導く、いわゆるコンサルティング手法についても、仕事が終わった夜中に勉強しました。夜明けまで頑張ることもしばしばだったそうです。
ITコンサルタントは自分が売り物です。高額な月額単価を顧客から受け取っている以上、それに見合ったパフォーマンスを提供しなくてはなりません。周りのコンサルタント仲間も必死です。
こんな毎日に疲れきってしまった松崎さん。ITコンサルタント歴は、半年間で終わってしまいました。
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