多くのITエンジニアにとって「転職」とは非日常のもので、そこには思いがけない事例の数々がある。転職活動におけるさまざまな危険を紹介し、回避方法を考える。
昨年に引き続き、IT業界における企業の採用意欲は高いものがあります。中でも、即戦力として30代のマネジメントができるプロジェクトリーダーとプロジェクトマネージャ、中長期的に育てていく20代の若手の需要が非常に高くなっています。
特に20代の採用に関しては、開発経験が少ない、もしくは未経験でも採用し育てるというスタンスの会社が多くなりました。20代の求職者からすれば完全に「売り手市場」です。
若手のITエンジニアで「若手なら未経験でも採用してくれる会社が多くなったと聞いています。また大手でも入社できると聞いていますので、大手を希望します!」と高らかにいう方が多くなったと感じています。
確かにIT業界は積極採用をしており、大手でも採用される可能性はあると思います。しかし、その可能性はすべての方に対してひらかれているものでしょうか。落とし穴はないのでしょうか。売り手市場であることを理由に転職活動を甘く見てしまったあるITエンジニアの事例を見てみましょう。
宮本さん(仮名)は27歳の金融業務系システム開発に強いITエンジニア。理系大学を卒業後、銀行系システムインテグレータ(SIer)に入社し、某大手銀行の基幹システムから業務系まで幅広くプロジェクトを経験しました。3年目にはサブリーダーとして、4年目にはリーダーとして10人前後のマネジメントにもかかわり、順調にキャリアを積んでいました。温厚で人当たりも良いため、顧客受けも上々でした。
ところが突然、転機が訪れました。当時、宮本さんがかかわっていた大規模な新規システム開発プロジェクトがうまく進行せず、宮本さんの担当業務にも多大な影響を及ぼしました。残業に次ぐ残業という状況が数カ月続き、心身ともに疲弊していたころ、新入社員時代にお世話になった元上司からある話を持ち掛けられました。この元上司は、ベンチャーのソフトウェア開発会社を立ち上げ、数年前に退職していました。
元上司の話の内容とは次のようなものでした。
「その後はどうだ? 元気にしていたか? いま、非常に大変な状況だと聞いているが……。実は、うちで優秀なシステムエンジニアを募集している。オレはおまえのことをよく知っているし、将来の幹部になる人材と見ている。ぜひ、一緒にやらないか」
宮本さんはお世話になった人から熱く口説かれ感激したことと、プロジェクトの状況からモチベーションが非常に下がっていたことが重なり、退職して元上司の会社に転職する決断をしました。
こうして宮本さんは新天地となる会社へ意気揚々と入社しましたが、まもなくこの決断が失敗だったことに気付きました。
実はこの会社は設立から2年弱で社員数も10人足らず。プロジェクトスタイルも請負とは名ばかりで、実質は派遣で4〜5次請けの仕事ばかりでした。また待遇面の問題もありました。口約束だけで入社しましたが事前に聞いていた賞与はまったくない状態で、到底納得できるものではなかったのです。
宮本さんは将来的なことも考え、やむなく早期の退職を前提とした転職活動を始めました。
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