PMBOKでは、コスト・コントロールのプロセスで、実績の測定を行うための技法として、アーンド・バリュー法が紹介されています。ここでは、単純化をしたモデルを使用して、アーンド・バリュー法を使用して完成時の予測を立てる例を紹介します。
このプロジェクトでは、敷地の南北の境界線上にレンガ造りの壁を造ることが目標です。
プロジェクトマネージャは図2のような計画を立てました。
敷地の南北の境界線上にレンガ造りの壁を作るプロジェクトです。
アクティビティ | 内容 | 所要期間見積もり | コスト見積もり |
---|---|---|---|
アクティビティA | 北側の壁を作る (幅64m) |
64時間 (1m当たり1時間) |
128万円 (人件費1時間当たり1万円) (材料費1m当たり1万円) |
アクティビティB | 南側の壁を作る (幅64m) |
64時間 (1m当たり1時間) |
128万円 (人件費1時間当たり1万円) (材料費1mあたり1万円) |
◎プロジェクト全体◎
総予算:256万円 ・・・ (1)
総所要期間:8日(64時間)
※アクティビティA、Bに依存関係はなく、2人の職人が並行して作業する
(1)アクティビティの定義として、北側の壁を造るAさんのアクティビティはアクティビティA、南側の壁を造るBさんのアクティビティはアクティビティBとする
(2)2つの壁はともに64mあるものとする
(3)作業にはそれぞれ1人ずつ職人を割り当て、職人は1時間当たり1m分の壁を造れると見積もった(アクティビティ所要期間見積もり:タイム・マネジメントの回参照)
(4)2つの壁を造るために発生するコストは、職人の人件費と材料の購入にかかるコストのみであり、それぞれ、人件費:1万円/1時間、材料費:1万円/1mで、1mの壁を造る際に必要なコストは2万円と見積もった(コスト見積もり)
(5)プロジェクト全体の所要期間は8日、総予算は256万円
2日目の作業完了の時点でのAさんとBさんの進捗は以下です。
Aさんは16時間の作業を行い、14mの壁を完成させました。実際にかかったコストは、人件費:16万円、材料費:14万円の計30万円でした。
Bさんは、20時間の作業を行い、予定どおりの16mの壁を完成させました。実際にかかったコストは、人件費:20万円、材料費:16万円の計36万円でした(図3)。
アクティビティ | 今日までの予定(3) | 進捗(2) | 実作業時間 | 実コスト(4) |
---|---|---|---|---|
アクティビティA | 幅16mまで完成 予算32万円 |
14m | 16時間 | 30万円 |
アクティビティB | 幅16mまで完成 予算32万円 |
16m | 20時間 | 36万円 |
(1)BAC(完成時総予算)……計画段階の総予算 = 256万円
(2)EV (アーンド・バリュー) …… 実際の成果に対する予算 = 60万円
(内訳:アクティビティA=28万円、アクティビティB=32万円)
(3)PV (プランド・バリュー) …… 当初の予定に対する予算 = 64万円
(4)AC (実コスト) ・・・ 実際に作業に費やしたコスト = 66万円
アーンド・バリュー法では、BACおよび、ある時点でのEV、PV、ACを用いて分析を行います。使用するパラメータの意味は、以下のとおりです。
BAC(Budget at Completion): プロジェクトの総予算
EV(Earned Value): 出来高。完了済みの作業に対する予算コスト
PV(Planed Value): ある時点での完了予定の作業に対する予算コスト
AC(Actual Cost): ある時点までに行った作業によって発生した実コスト
このようにPV、EV、ACはすべてコスト=金額で表現される点がポイントです。では、今回の事例に当てはめてみましょう。
EV …… 実際に完成した壁は、14m + 16m = 30mです。これを金額に換算します。今回、1mの壁を完成させるために必要なコストの予算は2万円です。従ってEVは、 EV = 30m × 2万円 = 60万円となります。
PV …… 作業予定では、合計32mの壁が完成している必要があります。1m当たり2万円のコストが発生する計画ですので、計画時予算は64万円となります。
AC …… 実際にかかったコストは、前述のとおり、アクティビティA:30万円、アクティビティB:36万円ですので、合計66万円となります。
次に分析を行います。分析を行う際には、SV、CV、SPI、CPIという指標を使用します。これらの指標の意味は、次の表のとおりです。
SV(Schedule Variance)…… スケジュール差異。作業が先行している場合はプラス、遅延している場合はマイナスの数値で表現される
CV(Cost Variance)…… コスト差異。予算に対して実コストが少ない場合はプラス、超過している場合はマイナスの数値で表現される
SPI(Schedule Performance Index)…… スケジュール効率指数。どの程度予定に対して進ちょくしているかの割合を表す。作業効率がよい場合には1より大きな値、よくない場合には1より小さな値を取る
CPI(Cost Performance Index)…… コスト効率指数。投入したコストに対して、どの程度の成果を上げているかを表す。コスト効率がよい場合には、1より大きな値、よくない場合には、1より小さな値を取る
今回のケースでは、以下のようになります(図4)。
SV = EV − PV = 60万円 − 64万円 = −4万円 (4万円分の作業(=2m)が遅れている)
CV = EV − AC = 60万円 − 66万円 = −6万円 (6万円のコスト超過)
SPI = EV / PV = 60万円 / 64万円 = 約0.94
CPI = EV / AC = 60万円 / 66万円 = 約0.91
例えば、このままのペースで作業を続けるとどの程度のコストがかかるかを予測したい場合にはCPIを使用します。
EAC(完成時予測) = AC + (BAC − EV) / CPI = 66万 + (256万 − 60万)/0.91 = 約 281.4万円
以上から、当初の予算に対し25.4万円程度コストが超過すると予測できます。
(1) SV(スケジュール差異)= EV − PV = 60万円 − 64万円 = −4万円
(4万円分(つまり4m)の作業の遅れ)
(2) CV(コスト差異)= EV − AC = 60万円 − 66万円 = −6万円
(6万円のコスト超過)
(3) CPI(コスト効率) = EV / AC = 60 / 66 ≒ 0.91
(投入コストの約91%しか成果をあげていない)
パターン1:今後発生するコストはこれまで実績が参考にならない場合
EAC(完成時の総コスト) = AC + 再見積もりの結果
パターン2:これまでのコストの差異は一過性のもので、今後は予定通り進捗
することが想定できる場合
EAC = AC + (BAC − EV) = 66万円 + (256万円 − 60万円)
= 262万円 (6万円のコスト超過)
パターン3:今後もこれまでと同じ効率でコストが発生すると予測される場合
EAC = AC + (BAC − EV) / CPI
= 66万円 + (256万円 − 60万円) / 0.91
= 281.6万円 (25.6万円のコスト超過)
コスト見積もりプロセスとコストの予算化プロセスには、「予備設定分析」と呼ばれる技法が定義されています(実は、アクティビティ所要期間見積もりプロセスにも存在します。前回(「計画命のタイム・マネジメント」参照)。
この予備設定分析とは、見積もりの際に万が一のための予備費を見積もっておくことを指します。ただし、この2つのプロセスの予備費は意味が異なります。
コスト見積もりプロセスの予備費は、単純にそのアクティビティのコスト見積もりの誤差を吸収するためのバッファを意味します。(いわゆるサバを読んで、多めに見積もっておくことです)。この予備費のことを「コスト・コンティンジェンシー予備」といいます。
対して、コストの予算化プロセスの予備費は、プロジェクト全体における不測の事態に備えるための予備費です。例えば、予期せぬ大きな仕様変更が発生し追加の工数が必要になった場合などに使用します。この予備費は「マネジメント・コンティンジェンシー予備」と呼ばれ、使用する際にはスポンサーなどから承認を得る必要があります。一般に、マネジメント・コンティンジェンシー予備は、プロジェクトの予算には含めて考えますが、コスト・ベースラインには含めず、その結果、前述のアーンド・バリューの計算の対象外として考えます。
最後に、今回の範囲のおさらいで、演習問題を解いて終わりましょう。
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