パソナテックが運営する「あすなろBLOG」は4月19日、秋葉原UDXギャラリーで「あすなろBLOGカンファレンス『スタート×キッカケ×ブログ』」を開催した。
同カンファレンスはあすなろBLOGの開設2周年イベント。ワークスタイル、キャリア、ライフハック、ブログとのかかわり方や、物事を始めたり、変えたりするきっかけについて、テーマごとに3部構成で展開した。
第1部は、シリコンバレーに拠点を置くコンサルティング会社、ブルーシフト・グローバル・パートナーズの社長を務める、渡辺千賀氏の講演。ブログ「On Off and Beyond」を運営するブロガーでもある同氏は、「きっかけを自ら作り出し、変化を起こすための7つのルール」というテーマで講演を行った。
同氏は冒頭で、「これから話すことは誰にでも向いているわけではない。特に、嫌われたり孤独になったりすることが人生最大の苦痛である人は、試さない方がいい」と前置きをしつつ、次の7つのルールを挙げた。
(1)実力発揮の場を作る
チャンスのきっかけとは常に、外からやってくる。そのため、外からチャンスがやってくるような「場」を作ることが重要である。同氏は自らの経験から、「人が何かを必要としているとき、それを見つけて助けてあげることで、『この人はこういうことができる』という理解を周囲に浸透させる。これにより、やがて周囲からさまざまなお願いが来るようになる」とアドバイスをした。
(2)一期一会のチャンスをつかむ
まず、チャンスとは一期一会であることを認識することが重要であると同氏は強調した。具体的なチャンスとして、20代のうちは、選択肢が広がるようにさまざまことに挑戦する機会を逃さないことを挙げた。その上で、30代では本腰を据えて専門性を作るのが良いだろうと考えを述べた。また、チャンスを逃さないために、「いま難しいことは将来もっと難しくなる」という考え方を披露。「例えば、23歳で転職を考えたときに大変だと思ったら、26歳になったときはもっと大変になる」と語り、5年後にそれをすることを考えれば、いまやった方が楽だと考えることを推奨した。
(3)「前向きなあきらめ」の達人になる
何かの問題があるときは、主語を「私」に変えて、自分自身の問題にすることが大切であると同氏は語った。例えば、嫌な上司がいた場合、これを「私はこんな上司を許している」と変換することで、私の問題にする。その上で、問題点の改善に無駄な時間を使わず、「私が」できなかったことは前向きにあきらめて、別の視点に移ることが大切だと結論付けた。
(4)孤独に慣れる
「自分は独りでいるのが平気なので」と前置きをしつつ、同氏は「何かを変えるときは、いったん孤独になる。これを恐れると、新しいチャレンジはできない」と断言した。孤独に慣れるための具体的な方法としては、「独りでいる時間を大切にすること」と、「人の判断を気にしないこと」が重要だと、自らの経験を交えながら話した。
(5)しない後悔よりもした後悔
一番怖いのは「何もしないで過ぎていく時間」であると同氏は主張。してしまったことは何とかできるが、しなかったことはどうにもできないのだから、した方がいいという趣旨の発言をした。「例えば、転職した会社がつぶれてしまっても、そこで得たことを次の会社で生かせばよい」(同氏)
(6)大きな理想と小さな達成でやる気をキープする
モチベーションを落とさない方法として、「今日、これができてよかった」という日々の小さな達成感と、「5年後や10年後、自分はこんな風になれているといいな」という大きな理想の両方を持ち続けることが大切であると同氏は語った。ただし、大きな理想は細かくなくてよい、と補足した。
(7)運の流れに逆らわない
運が良いときは積極的に波に乗らないと、飛躍はできないと同氏は考えを示した。一方で、運が良くないときは、いましていることをいきなりやめたりせず、無理をしない程度に淡々とこなして、運が戻ってくるのを待つのが大切であると述べた。
以上の7つのルールは、一見すると当たり前のような内容に見える。しかし同氏は、自らの経験や豊富な例を随所に交えながら、説得力のある持論を展開した。アメリカで独り、起業をした同氏の言葉には重みがあり、観客も時折挟まれる冗談に笑い声を上げながら、じっくりと聞き入っていた。
第2部は「スタート×キッカケ」と題した、独立や転職などのキャリアチェンジをしたパネリストによるトークセッションが行われた。
パネリストは、NTTから独立してマイネット・ジャパンを創業した上原仁氏、松下電器産業でネット家電の企画に携わり、近年ネット家電ベンチャー企業を創業した和蓮和尚氏、ゲーム業界やモバイル業界、Web業界を経て、現在は楽天の海外展開プロジェクトに取り組む美谷広海氏の3人。アジャイルメディア・ネットワークの徳力基彦氏がファシリテータを務め、それぞれの「スタートとキッカケ」を聞いた。
上原氏は、NTTでの新規事業にかかわる中で上昇志向を持っていたが、事業が失敗したことで憂うつな日々を送っていたことが「スタート」であると、当時の裏事情を明かした。2006年初頭、憂うつを抱えながらブログをスタートし、mixiにも参加。オフ会に顔を出すようになり、そこで出会った人との交流を通じて精神状態が改善されていったという。「オフ会が大好きになった」という同氏は、オフ会を通じて交流を広げ、やがて保田隆明氏と勉強会「RTCカンファレンス」を開催するに到る。また、インターネットを基点とした交流に可能性を見出し、マイネット・ジャパンの創業へとつながったという。
和蓮氏は、ネット家電の可能性を確信し続けるも、任天堂のWiiを見て「家電メーカーではもう無理かもしれない」と考え始めたのが「スタート」であると当時を振り返った。しかし、起業しようにも人脈も資産もない状態だったため、どうしようか悩んでいたときに、前述のRTCカンファレンスに参加したことで最初の転機が訪れたという。別の会社の人間同士であるはずの周囲の参加者が、互いに知り合いであることを、同氏は不思議に思ったという。しかし、「ブログを書くことで自分の状況をオンライン上にアップデートし続け、それを名刺代わりにしている」ことに気付き、自らもネット家電に関するブログを開設。ブログと勉強会で徐々に人脈が広がっていったという。やがて、「ネット家電で起業したいが社長をやる人がいない」という人たちと出会った同氏は、「先ほどの渡辺さんの話ともつながるが」と前置きをしながら、外からやってきたチャンスを逃してはいけないと考え、創業メンバーとして参画したと語った。
美谷氏は、ドリコムジェネレーティッドメディアに在籍をしていたころに、「技術はコモディティ化している。技術だけでは駄目だ」と考え始めたのが「スタート」であると語った。もともと海外での生活が長かった同氏は、同社を辞めてしばらく海外に行こうかと思っていたところ、楽天の知人に「海外展開をするので、来てくれないか」と誘われたという。同氏は、自らの考え方や好きなことをブログにまとめていたことで、こうした誘いが周囲からやってきたのだと分析した。
徳力氏の「キャリアとブログはどう関係しているか?」という質問に対しては、「ブログと、そこからつながったオフ会での出会いが、自分の変化のきっかけとなっている」(上原氏)、「出会うためと、出会ったときに自分に対する理解を加速させるための装置として役に立っている」(和蓮氏)、「思考の整理に役立っており、同時に会った人がどんな人かを調べられるのが良い」(美谷氏)と、それぞれが自らの経験を踏まえて回答した。
また、徳力氏は3人の話に共通する点として、「『スタート』と『キッカケ』が同時ではない。いつか誰かが自分の才能を見出してくれるという、白馬の王子様のような話はウソ。スタートがあり、ブログを始めたりオフ会や勉強会に行ったりしている中で、やがてキッカケがやって来る」とまとめ、第1部の渡辺氏の講演内容との関連性を指摘した。
開始から2時間が経過し、最後のセッションとなる第3部「ライフハック徹底討論会2nd」が始まった。昨年のあすなろBLOG開設1周年記念イベントで行われた第1回に続く、2回目。仕事術系サイト「シゴタノ!」管理人の大橋悦夫氏、ライフハック系著名サイト「Lifehacking.jp」管理人の堀 E. 正岳氏、あすなろBLOGで「とりあえず、やってみる!」を運営する増田光俊氏の3人をパネリストに、パソナテック社員であすなろBLOGプロデューサーの堀川貴満氏がファシリテータを務めた。
ライフハックに関するいくつかの質問に対し、3人はさまざまな回答を披露した。特に、「ライフハックとは?」という質問に対し、大橋氏は「再現性を持たせる工夫。同じ失敗を繰り返さず、うまくいったことを繰り返させるような仕組み作りがライフハック」と定義した。
また、これからのライフハックについて、増田氏が「小手先ではない、マインドのハックが増えていくのではないか。また、いまはビジネス分野に偏っているが、プライベート方面も増えていってほしい」と語ると、堀氏は「少し氾濫しすぎている。集約化が起きるのではないか」と警鐘を鳴らした。それを受けて大橋氏は、「現在は通過点で、いずれは当たり前になっていくものだと思う。だから、ライフハックをテーマに仕事ができるのは今のうち」と、やや自虐的に発言し、場内の笑いを誘った。
300人の会場がほぼ満席となった同カンファレンス。徳力氏が客席に「ブログを持っている人」「転職経験がある人」の挙手を求めると、いずれも多くの観客が手を挙げるなど、アクティブな客層が集まっていたようだ。あすなろBLOGでは、これからもブログを基点として、キャリアやワークスタイル、仕事術に関するイベントを開催していくという。
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