このときの宮本さんの希望は「大手」に入社することでした。できればもう転職はしたくないということ、現状の不満点の打開、ITエンジニアとしてのキャリアアップや年収・待遇アップを考え、「安定」を強く希望したためです。
また前回の転職時はろくに情報収集をしなかったことを反省し、Webなどで転職市場について調べました。すると「現在は特に20代ならば売り手市場なので大手企業が狙い目!」という内容がいくつも見つかり、自分なら「大手」に入社できるという変な安心感を持ちました。
宮本さんは自分が知っているSIer、ハードベンダ、自社パッケージベンダなど、さまざまな「大手企業」をピックアップし、採用選考にエントリしましたが、意外にも企業からの反応が鈍いと感じました。エントリに通過したSIerが2社あったのですが、いずれも1次面接で見送りとなり、自身が想定していた状況とは違うことに焦りと不安を感じました。
会社でよくない雰囲気になったことも焦りに拍車をかけました。あるとき、上司からこういわれたのです。「最近、仕事に対するモチベーションが低いな。やる気があるのか? ……もしかして転職を考えているなんてことはないだろうな?」
こうした状況で私は宮本さんとお会いしました。ここでなぜうまくいかなかったかのポイントを整理しましょう。
エントリ時に使っていた職務経歴書を拝見しましたが、業務経歴のみを簡単に書いているだけで、とても職務経歴書といえるものではありませんでした。職務経歴書は自分の強みとなるポイントを的確に採用側に伝える大事な書類ですので、アピールできる技術、マネジメント経験、業務知識、経験したプロジェクトの規模・環境を明記することが重要です。
それぞれの会社には、例えば金融業界に強い、ネットワーク構築に強い、自社ERP製品を持っているなどの特徴があります。求人案件にもアプリケーション開発エンジニア、データベースエンジニアなどの特徴があります。宮本さんは会社や求人案件の特徴をあまり見ず、「大手」であるかどうかだけで選んでいました。確かに27歳なので売り手市場に属しますが、そう簡単にはいきません。
人当たりがいい宮本さんなので面接受けが悪いということはないはずなのですが、見送りとなった1次面接について聞いてみたところ、「退職の理由は?」「なぜ当社を受けにきたのか?」「今後はどうなりたいか?」という質問にうまく答えられなかったとのことです。
退職の理由についてネガティブな話は絶対に避けるべきですが、宮本さんは「前職で大変だったときに元上司の誘いがあって入社したが、待遇が話と違うので再度転職を考えた」と話していました。これを聞いた採用側はどう思うでしょうか? またつらいことがあったら安易に転職をするのでは、と思うでしょう。
志望理由と今後のキャリアプランは、一番大事なアピールポイントだと思います。宮本さんは「大手」というキーワードで志望していたことと、求人市場が売り手市場であるといううわべの情報だけで変な安心感があったことが重なり、企業の特徴やどういった人材が欲しいのかという情報収集を怠っていました。またそもそも自分がなぜこの企業に入りたいのか、どういったITエンジニアになりたいのかの考えが浅かったために、こういう結果になったのだと思います。
以上のようなポイントを確認し、宮本さんも素直に反省をしました。自分はどうなりたいのかをじっくりと再検討することにしたのです。自分は何が強みで、どんな企業で働きたいのか。もう宮本さんの頭の中には、「大手」や「売り手市場」という言葉はなくなっていました。
自分の一番の強みは金融業界の経験・知識だと考えた宮本さんは、より大規模なプロジェクトのマネージャとしてキャリアアップできる企業、という明確な希望を設定し、再出発することにしました。その結果、もともとスキルや経歴・人柄は問題なかったこともあり、有意義な転職活動を通じて、金融業界でも実績・定評があるSIerの内定を勝ち取りました。
あらためてになりますが、エンジニアから見れば現在の採用状況は「売り手市場」です。しかし、その状況を生かすも殺すも自身の考え方、とらえ方次第だと思います。
情報収集をしたり、自分の考え方がどうかを聞いてみたいときは、友人に相談したり、キャリアコンサルタントを活用したりするのがよいでしょう。客観的な立場から、自分が思ってもみなかった可能性や考え方を教えてくれるかもしれません。
アデコ 人材紹介サービス部 コンサルタント
1969年生まれ、大阪府出身。私立理系大学卒業後、精密機器メーカーにてソリューション提案営業を経験し、2000年にアデコへ入社。現在、IT系人材・ITエンジニアを専門にキャリアコンサルティングを担当。営業としての観点とキャリアコンサルタントとしての経験から、1人1人のニーズをくみ取り、的確な情報提供・アドバイスをすることを念頭に転職支援を行っている。CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)資格取得。
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