こうして私の新たなプロジェクト生活がスタートしました。
今回の使命は、「運用資料の追加」。分析・設計、開発、テスト、運用設計がいったん終わった状態での参画でした。
Nマネジャーがすでにテコ入れをしており、いくつか追加しなくてはならない運用資料が洗い出されていました。しかし、その資料作りに必要となる、かつてのやりとりの聞き込みや資料の発掘が、困難を極めているようで……。
当然、
「なんで資料、ないんだっけ?」
ということが頭をよぎりますが、時間もないようなので、新人時代同様、手っ取り早く足で稼ぐことにしました。
「ここなんですけどね、覚えていらっしゃらないですか?」
「ええ、ご担当でないことは分かっているんですが、もう○○さんはいらっしゃらないので、あなたが覚えていないかと思いまして」
「この資料とこの資料だけでは埋められないんです。この空白部分について何かご存じないですか。△△さんに、あなたなら知っているかもしれないと伺ったもので」
刑事さながらの聞き込みで、少しずつ穴を埋めていきます。
聞き込みでは期待どおりの情報を得られないこともあるのですが、その部分はマネジャーと相談して埋めていき、できるところから一生懸命資料を作っていくのです。
しかし、苦心の末生み出された資料も、ひとたびレビュー会ともなれば、偉い方々から、
「ねぇ、これ、何を基に作ってるわけ? あり得ないと思うんだけど」
とバッサリ。
そう。一生懸命、「自分なりに100%頑張った」資料だからといって、不確実な情報が含まれた資料は、「100%信頼できる」資料とはいえません。このような辛らつな批判を浴びても仕方ないのです。
そこに「その頑張りに免じて、これを確かな文書として認めるよ!」などという情けが入る余地はないわけです。
頭では分かっているものの、少し胃がキリキリしてしまいます。
私とマネジャーが食事する間も惜しんでPCにかじりついて、一生懸命作った資料なのに……。そもそも、情報不足の中で資料を作るしかない状況は、私のせいではない! 確かな情報があるうちに、作った人がいるうちに文書に残してないからでしょ!
と、鼻息を荒らげつつ自席へ。
周りにはまだ誰も戻っておらず、Nマネジャーと私だけです。
Nマネジャー 「まったく、誰のせいでこんな状態になってると思ってるんだよ……」 檜山 「せんぱーい、心の声が外に出ちゃってますよ」 Nマネジャー 「おぉ、すまんすまん」私はNマネジャーに突っ込みを入れつつ、ふと思いました。
Nマネジャーは、めったに愚痴をいわない人です。隣で聞いているだけの私が、腹が立って仕方なくなるような状況でも、「なるほど」と肯定も否定もせず、次に進める、そんな人です。
Nマネジャーは、高プレッシャーな状況下にしばしば助っ人として登場することで有名です。一緒に仕事をしていて、Nマネジャーの心の声を聞いたのはこのときの1回だけです。極力こうした愚痴を口にしないからこそ、幾多の困難を乗り越えてこられたのでしょう。
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