100年に1度の大不況。「お荷物」でしかない新卒を採る意味は本当にあるのか。日本企業が受け継いできた“新卒主義”を再検討する。
明治後期から大正期のころより、日本の企業では学校を卒業したばかりで就業経験のない学生を“新卒採用”として迎え入れてきた。戦後の高度成長期には、人手不足の中、新卒者を労働力として吸収することで、企業は成長してきたのである。
昨今の経済状況の悪化に伴い、企業の新卒採用意欲は減退している。だが、新卒採用を完全にゼロにする、という動きは少ない。企業の置かれている状況や労働市場の変化はあるものの、大企業を中心とした新卒採用への注力、学生の就職活動の熱心さ、メディアの注目度などからも、新卒採用が日本において、依然として重視されていることが分かる。
一方、中途採用市場や第二新卒市場なども発達してきており、高度経済成長期のように「人手がどうにも足りない」という状況でなければ、新卒採用の必要性は大きくないようにも思える。企業があえて“新卒採用”する理由について探ってみよう。
企業が新卒を採用する理由には、消極的側面と積極的側面とがある。消極的側面では、「人事メカニズム」と「社会的要請」という2つの視点が挙げられる。
人事メカニズムでは、日本企業(特に大企業)において、終身雇用・年功序列の要素がいまだに残っていることが指摘できる。在籍年数とともに賃金が上がる仕組みのため、労働者は定年になるまで働き続けようと考える。毎年一定数が定年退職を迎えることから、一斉に労働市場に供給される新卒者を採用することが人材確保の現実的な手段となる。
さらに、新卒は一斉に4月に入社するため研修効率が良く、定期的な人事異動も実施しやすい。要するに、新卒採用を前提とした雇用慣行、研修体制、定期人事異動などの人事メカニズムが残っているのである。
社会的要請の視点も見逃せない。就職氷河期の未就業者や内定取り消し問題などからも分かるように、社会は新卒者の進路の受け皿としての責任を企業に求めている。過度な採用の抑制が中期的な人員構成バランスを崩すという教訓とも相まって、企業としても雇用への社会的要請を無視できないのである。
この2点が、新卒採用を続けざるを得ない消極的な理由といえるだろう。
積極的側面としては、企業にとって「新卒者を採用することがもたらす効用」という視点から、4点を挙げてみよう。
1点目は、企業内で必要とされる技能や企業文化を継承した「将来のコア人材」を確保できるということである。
新卒者には、(定年までの長期間、同一企業で業務経験を重ねるため)自社の独自技能を先輩社員からじっくり受け継ぐだけの時間的余裕がある。企業文化についても、新卒者は社会経験がないので、中途入社者よりも企業の文化に染まりやすい。上司・先輩・同僚との接触を通して価値観や行動習慣を素直に吸収することができ、企業文化を体現したコア人材となっていきやすいのである。
2点目は、新卒社員が既存社員を刺激し、組織活性化につながるという点である。
既存社員が「自分にもこんなフレッシュな時代があったな」とか、「後輩ができたからしっかりしよう」など新たな気持ちで業務に取り組めるようになった、という声はよく耳にする。これだけでも効果といえるが、新人に仕事を教える経験機会がより大きな影響を与える。
仕事のやり方や自分の考えを新入社員に伝えるのは簡単ではない。伝えたつもりが伝わっていない、ということはよくある。「なぜ自社では○○が習慣になっているのですか?」という素朴な質問は、自社の歴史や価値観を語ることにつながる。それが不適切な慣習を指摘する問いなら、既存社員の問題意識を刺激するだろう。
このように、新入社員の面倒を見ることは、既存社員の業務ノウハウの整理や自社の企業文化の再認識、コミュニケーション力の向上に役立つ。もちろん、自分が教えた新人の成長を見ることで教える喜びを味わい、それがモチベーションアップに寄与するのはいうまでもない。
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