IT業界を目指す学生にとって、IT企業の人事担当者は気になる存在だ。果たして、IT企業はどんな人材を求めているのか。新卒採用のキーパーソンに学生記者が迫る。
レジェンダ・コーポレーションの調査によると、2010年4月入社を目指す就職活動中の大学生と大学院生の志望業界ランキングにおいて、「ソフトウェア・情報処理」は全国6位に位置している(*)。トップ5はマスコミ、食品、銀行、専門商社、機械・電子だ。
学生にとって、IT業界はかつてのように魅力ある業界といえるだろうか。決して「不人気業界」ではないようだが、そもそも「IT業界の仕事」が学生には見えにくいため、イメージしづらいというのが正直なところではないだろうか。
@IT自分戦略研究所は本日より「IT業界就職ラボ」を設立し、学生記者とともにIT企業へと潜入して、その実態を探っていこうと思う。IT業界への就職を考えている学生にとって参考となれば幸いである。
本連載「IT企業 新卒採用の裏側」では文字どおり、IT企業の新卒採用にかかわるキーパーソンへのインタビューを掲載する。第1回は日本ヒューレット・パッカード(HP)人材採用本部の山岸雅己氏に話を伺った。中途採用から新卒採用まで幅広く手掛ける山岸氏の言葉から、日本HPの、ひいてはIT企業の採用の裏側を探る。
―― HPはどんな会社なのでしょうか。
山岸 HPはスタンフォード大学の同級生だったビル・ヒューレットとデイブ・パッカードが2人で起業した会社です。シリコンバレー発祥の地であるパロアルトのガレージでビジネスを始めました。
HPといえばパソコンやプリンタを思い浮かべるでしょうが、それだけではなく、お客さま向けのサーバやストレージ、ソフトウェア、サービスなど幅広く手掛けています。お客さまのITインフラにかかわるほぼすべてをやっている、というのが説明としては正しいでしょうね。いまはそういった事業内容なのですが、最初のお客さまはウォルト・ディズニーでした。映画『ファンタジア』で使われたオーディオ発信器、つまり音響技師が使用する電子計測器を作りました。それからいままで、お客さまのニーズに合わせて事業が変化してきています。
―― 学生からは見えづらい仕事であると感じました。具体的な例としては、どのようなことをしているのでしょうか。
山岸 一番分かりやすい例としては、携帯電話のメールサービスです。皆さんにとって携帯電話は欠かせない存在となっていると思いますが、その中でもメールは特に使うものだと思います。実は、そこにHPの製品とサービスが関わっています。具体的には、メールというのはAさんからBさんへと直接送られるのではなく、一度メールサーバと呼ばれるITインフラを通して送られます。直接目に触れるサービスではないかも知れませんが、HPはそのメールシステムを構築し、携帯大手3キャリアへ提供しております。ですから、皆さんが送信するメールのほとんどは、実はHPのサーバを通って、相手の携帯電話に届いているということです。
実は、パソコンやプリンタの売り上げは全体の中でそれほど大きくないんです。ビジネス向けのITサービスであったり、サーバやストレージが売り上げの多くを占めています。
―― IT業界は、若い人が非常に多く、勢いがある、というイメージがあります。HPはどうでしょうか。
山岸 「外資だから、社員は若くて、ガツガツ働いて……」と思われがちではありますね。しかし実際のところ、HPは社員の平均年齢がほかのIT系の企業よりも高いと思います。平均勤続年数もかなり長いですね。普通の、いわゆる外資系企業とはちょっと雰囲気が違うかもしれません。
―― それは日本法人に関していえることなのでしょうか。それとも、HP全体がそうなのでしょうか。
山岸 日本法人に関して、ですね。横河電機という、計測機器や制御システムを手掛けている老舗のメーカーさんがあるのですが、HPが日本でビジネスを始める際に、その横河電機と「横河ヒューレット・パッカード」としてスタートしています。もしかしたら、そのときの(横河電機の)文化が現在も残っているのかもしれませんね。
―― 実際に働いている人の雰囲気はどうなのでしょうか。
山岸 部署によって違うので一概にはいえませんが、「HPの人は真面目で固い」とよくいわれます。真面目で固いからこそお客さまから信頼される、という良い意味でとらえています。
―― 新卒で入社した学生は、どういった仕事に就くことになるのでしょうか。
山岸 現状、新卒採用をしている職種は「セールス」「プリセールス」「HPサービスエンジニア」「ビジネスプロセススペシャリスト」の4つです。
サービスエンジニアに関してはいろいろな種類があります。開発もいれば、運用保守もいるし、サポートもいます。新卒採用においては様々な部署のエンジニアをサービスエンジニアとしてひとくくりに採用しています。面談で何をやりたいかの希望を聞いて選考を進め、入社後の研修や面談を通じて配属が決まります。
―― セールスは文系、エンジニアは理系というように分かれるのでしょうか。
山岸 いえ、まったくそんなことはありません。文系出身で活躍しているエンジニアはたくさんいます。
確かに、最初の3〜4年は理系出身の学生の方が有利です。特に情報系を専攻している学生であれば、専門的に学んでいたわけですから、仕事を覚えるのは早いですね。また、IT業界において理系学生の論理的思考力がアドバンテージとなることは事実です。ですが、この業界は変化が激しく、スピードが非常に速いので、理系出身のアドバンテージは3〜4年でなくなってしまいます。適応力があり、積極的に新しい技術を勉強する人が結果的に伸びます。30代になるころには、文系も理系もまったく変わらなくなっています。
文系であっても、あきらめる必要はありません。逆に理系の人は、理系だからといってあぐらをかかないでほしい。有利なのは最初の3〜4年だけなのですから。
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