スペックを読み進めると、Google Waveには多くのメールとの類似点があることが分かります。
Google Waveがリアルタイム性に注力している点を除くと、大きな枠組みは同じであるといってよいでしょう。
しかし、データの保存については大きな違いがあります。
「メールは、データがそれぞれの受信者に分散しますが、Waveでは常にマスタは1つです。やりとりされるのは、データへの操作となります」(ワン氏)
このことは、データのバージョンが分岐することを防ぎ、コラボレーションにおける行き違いを軽減してくれると思われます。
「Google Waveが成功するためには、外部のデベロッパやサービスプロバイダがプロトコルを受け入れてくれることが重要」(ワン氏)という考えから、Google Waveの仕様は専用サイトで公開されています。
現在稼働しているWaveサーバも今後オープンソース化される予定で、メールサーバのようにサービスプロバイダや企業が、独自のWaveサーバを立ち上げたり、あるいはデベロッパが独自にWaveサーバの実装もできます。
Google WaveはすでにAPIの情報を公開していて(「Google Wave API Overview - Google Wave API - Google Code」)以下のような機能を拡張できることになっています。
Robot APIを使うことで、外部のサービスとGoogle Waveを接続できます。
JavaScriptで記述されたガジェットをGoogle Wave上で動かせます。
ワン氏とのインタビューに続いて行われた記者会見で、さらにいくつかの質問ができました。
Wave中の会話を翻訳したり、コラボレーションの結果をブログに反映したりするRobotですが、当初はGoogle App Engineを使って実装する必要があるそうです。
Internal APIを使って、ツールバーに独自拡張機能を追加できます。機能の実態はJavaScriptで記述します。
「Waveチームは、バグを抱えた初期段階のソフトウェアからWaveを使ってコミュニケーションをしています」(ワン氏)とのことで、なるほどWave自身がWave上のコラボレーションを通じて開発されているわけですね。
また、多くのグーグル社員がテストに参加しているそうです。ただし、その多くは単にこのプロダクトを体験しにきた人たちで、本格的に業務のためにWaveを利用した例はいまのところないのではないか、ということです。
筆者は、Google Waveのメッセージングが、リアルタイム性を追究すると同時に過去の履歴を参照する機能を提供していることに注目しています。
これは、ネットワークを通じたコラボレーション機能で空間の障壁を超えると同時に、たとえ遅れてミーティングに参加してもディスカッションの内容にキャッチアップできるという点で、時間の障壁を超える可能性を提示していると考えられるからです。
一方で、こうした性質がGoogle Waveの持つ多様な側面の1つにすぎないことも忘れてはいけません。
Waveチームに「Google Waveを誰に使ってもらいたいですか? 同僚、友人、家族?」という質問をしたところ、「それは、ユーザーが何を求めるかで決めたい。まずはデベロッパの反応を見たい」という回答が返ってきました。
Google Waveはプラットフォームであり、その上に構築されるアプリケーションやユーザーの使い方が性質を決めるということでしょうか。そういう意味では、「Google Waveは、もともとGoogle Mapsを開発したRasmussen兄弟(Lars & Jens)によって始められた」という事実も、なるほどと思えてきます。
高度な技術を簡単に利用できるAPIを提供することで、デベロッパとユーザーに挑むGoogle Wave。数年後、あるいは数カ月後、いまとはまったく異なるユーザー体験を実現しているのかもしれません。
インタビューの最後に、ニコニコ動画をワンさんに見てもらって感想を聞きました。複数のユーザーが同時にコメントをやりとりする点で近いものがあり、同じようなサービスをGoogle Wave上で実現できないか聞くのが趣旨でした。
「Gadget APIを使って実装することはできそうだね」というのが回答でしたが、何よりユニークな動作に興味を持っているようで「Coolだね。どこが作っているの?」と聞いていました。
立薗理彦(たちぞの まさひこ)
1972年東京生まれ。慶應大学環境情報学部卒。シャープ、ノキアで組み込み系のソフトウェアエンジニアとして働く。会社員時代に週末プロジェクトとして iTunesでの再生履歴をネットで公開するサービス「音ログ」を開発したのをきっかけに独立、Web業界に。現在は、音楽ニュースサイト「ナタリー」の技術担当取締役
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