前節で述べたように、IBM System Storage SANボリューム・コントローラー(以降SVCと表記)は、専用仮想化装置ですので、新規にSAN環境を構築する場合でも、あるいは既存のSAN環境をストレージ仮想化環境に移行する場合でも、追加の装置としてSANに接続することになります。また、何らかの理由でストレージ仮想化環境を非仮想化環境に戻す場合は、装置のSANへの接続を削除することになります。具体的なSAN環境への物理接続(ケーブリング)と論理接続(ゾーニング)、そしてLAN接続は次のとおりです。
サーバとディスク装置がSANスイッチに接続されているSAN環境において、SVCをSANスイッチに追加装置として接続します。図1は通常のSAN環境、図2はSVCによるストレージ仮想化環境のSANを表しています。
通常のSAN環境では、ディスク装置のファイバチャネル(FC)ポートとサーバのHBAのFCポートをゾーニング(グループ分け)し、ディスク装置のLUNマスキング機能でLUNをサーバにマップします。LUNマスキング機能とは、特定のLUNを特定のサーバからのみ使用できるように設定する機能です。この機能により、あるディスク装置が複数のサーバと同じゾーン(グループ)に属していても、特定のLUNは1台のサーバからのみ使用させることが可能です。逆に、特定のLUNを複数のサーバから使用させることも可能ですが、その排他制御はサーバ側で行うことになります。図1は通常のSAN環境でのゾーンを表しています。
SVCを使用したSAN環境では、ディスク装置はSVCがサーバであるかのように、そして、サーバはSVCがディスク装置であるかのようにゾーニングします。つまり、ディスク装置のFCポートとSVCのFCポートをゾーニングし、サーバのHBAのFCポートとSVCのFCポートをゾーニングします。そして、SVCのマッピング機能で仮想的なLUNをサーバにマップします。図2は、SVCによるストレージ仮想化環境でのSANのゾーンを表しています。
SVCの管理にはWebブラウザやSSHを使用します。このためにSAN接続以外にもSVCをLANに接続する必要があります。
ストレージ仮想化装置のSAN環境とLAN環境への接続が完了すると、次は、ストレージ仮想化装置を使用して、ディスク装置が作成した物理的なLUNを一括管理し、サーバに対して仮想的なLUNを提供する作業が必要になります。
それでは、ディスク装置が作成した物理的なLUNをどのように仮想的なLUNに変換し、サーバに提供するのかを順を追って説明します。
最初のステップはディスク装置での作業となります。ディスク装置でLUNを作成し、ディスク装置のLUNマスキング機能を使用して、あたかもSVCがサーバであるかのようにLUNをマップします。このLUNはRAIDアレイなどから作成される場合が多く、必ずしも物理的なディスク・ドライブに対応しているわけではありませんが、この記事では便宜上これを“物理的なLUN”と呼びます(図3)。
ここからのステップはSVCでの作業となります。ステップ1でSVCにマップされた物理的なLUNをSVC側でスキャンします。そして、SVCはこれらの物理的なLUNを管理対象ディスク(SVCではManaged Disk、あるいはMDiskと呼びます)として認識します(図4参照)。
ステップ2で認識された1個以上の管理対象ディスクを管理対象ディスクグループ(SVCではManaged Disk Group、MDiskグループと呼びます)と称するストレージ・プールとして管理します。管理対象となるディスク装置はアクセス速度の異なるディスク装置、信頼性の異なるディスク装置など多種多様な装置が混在している場合もあるでしょう。これらの装置全てを一括して1つの管理対象ディスクグループで管理することも可能です。しかし、次のステップで説明するように仮想的なLUNは、これらディスク装置の特性を継承するため、ディスク装置の特性ごとに複数の管理対象ディスクグループを作成することが推奨されます。
管理対象ディスクグループ内の管理対象ディスクは「エクステント」と称する同じサイズの小容量のブロック(例えば16MBなど)に分割されて管理されます。このため、ディスク装置の仮想化は“ブロックレベルの仮想化”と称される場合もあります(図5参照)。
次のステップは、仮想ディスク(SVCではVirtual Disk、VDiskと呼びます)と称する仮想的なLUNの作成です。
仮想ディスクは1つの管理対象ディスクグループから必要となる容量だけ、エクステントを寄せ集めて作成されます。つまり、仮想ディスクの実体はこれらのエクステントへのポインタの集合体となります。例えば、ある仮想ディスクの容量が160MBで、これを作成した管理対象ディスクグループのエクステントのサイズが16MBならば、この仮想ディスクの実体は10個のポインタの集合体となります。サーバから仮想ディスクのあるブロックにアクセスがあると、SVCはそのブロックに対応するポインタが指しているエクステントへアクセスするように変換します(図6参照)。
ディスク装置のLUNマスキング機能と同等の機能を用いて、SVCは仮想ディスクをサーバへマップします。これにより、サーバからこの仮想ディスクにアクセスできるようになります(図7参照)。
最後のステップはサーバでの作業となります。サーバで稼働しているOSの機能を用いてSVCからマップされた仮想ディスクを認識することになります。例えば、Windowsであれば“ディスクの再スキャン”といった操作になります(図8参照)。
以上の仕組みで、ディスク装置で作成された物理的なLUNが仮想的なLUNに変換され、サーバからアクセスできるようになります。
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