多くのディスク装置は「ポイント・イン・タイム・コピー」あるいは「スナップショット」と呼ばれる機能を備えています。これはある一時点のLUNのコピーを作成する機能です。通常のディスク装置では同じ装置内でコピーを作成する必要があるため、仮に1つのコピーを作成しようとすると2倍のディスク容量が必要となります。コピーの数が増えればそれだけ必要な容量が増えていきます。
ストレージ仮想化環境の優れている点は、コピー先のLUNとして、コピー元のLUNとは異なるディスク装置が使用できる点です。例えば、通常業務使用するコピー元のLUNには高性能のディスク装置を使用し、バックアップとして利用するコピー先のLUNには廉価なディスク装置を使用するといった運用が可能になります。
SVCではこの機能を「FlashCopy」と呼び、ある仮想ディスク(コピー元)のデータを他の仮想ディスク(コピー先)へほぼ瞬時にコピーします。
それでは、SVCのFlashCopyの仕組みについて、図を使い、順を追って説明します。
図3は最初の状態です。仮想ディスク Aと仮想ディスク Bが独立して存在しています。この例では、仮想ディスク Aと仮想ディスク Bは、それぞれ異なるディスク装置Aとディスク装置Bから作成されています。
図4はFlashCopyを実行した直後の状態を表しています。仮想ディスク Aの全てのポインタ情報が仮想ディスク Bに上書きされます。これにより、仮想ディスク Bは仮想ディスク Aと同じ管理対象ディスクグループ Aのエクステントを指し示すことになります。これで、論理的なコピーは完了です。この時点で仮想ディスク Bは仮想ディスク Aと全く同じ内容を持つ別の仮想ディスクとなります。従って、それぞれの仮想ディスクに対して独立した読み出し、書き込みが行えます。仮想ディスクのポインタ情報の量は、その仮想ディスクのエクステントの容量よりははるかに少ないため、この論理的なコピーはほぼ瞬時に完了します。
この後、コピー元である管理対象ディスクグループAのエクステントを管理対象ディスクグループBに物理コピーし、仮想ディスク Bのポインタ情報をそれに応じて変更する作業が時間を掛けて行われます。図5がこの様子を表しています。緑のエクステントは、すでに物理コピーが完了したエクステントです。この間も、仮想ディスク Aと仮想ディスク Bのそれぞれに対して独立した読み出し、書き込みが行えますが、仮にディスク装置Aの障害などにより仮想ディスク Aのデータが失われると、仮想ディスク Bのデータも同時に失われます。
コピー元である管理対象ディスクグループAのエクステントが全て管理対象ディスクグループBに物理コピーされ、仮想ディスク Bのポインタ情報もそれに応じて全て変更されると、仮想ディスク Aと仮想ディスク Bは完全に独立した仮想ディスクになります。図6はこの状態を表しています。物理コピーが完了すると、仮に仮想ディスク Aのデータが失われても仮想ディスク Bには何の影響もありません。
物理コピーの途中におけるコピー元仮想ディスクおよびコピー先仮想ディスクへの読み出し、書き込みは以下のように処理されます。
ここまで説明したのはFlashCopyの基本機能です。基本機能に加え、FlashCopyにはさまざまなバリエーションがあります。
ノー・コピー
基本機能では全てのエクステントに対して物理コピーを行っていましたが、物理コピーが必要なエクステントしか物理コピーしないのがノー・コピーオプションです。ノー・コピーの場合は、コピー元あるいはコピー先の仮想ディスクに書き込みが行われた場合にのみ、対象となるエクステントがコピー元の仮想ディスクからコピー先の仮想ディスクに物理コピーされます。例えば、図5でコピー元仮想ディスク Aあるいはコピー先仮想ディスク Bのエクステント6、7、8、9にのみ書き込みがあった場合、このような状態になりますが、この後、別のエクステントに書き込みがない限り、物理コピーは発生しません。第1回で紹介したSpace-Efficient 仮想ディスクと組み合わせてノー・コピーを使用すると、書き込みがあったエクステントのみが動的に確保されるため、管理対象ディスクグループのエクステントの消費を削減することができます。
差分コピー
同じ仮想ディスクの組み合わせであるFlashCopyで、2回目以降のFlashCopyは前回のFlashCopy以降に変更されたエクステントのみを物理コピーするのが、差分コピーです。全てのエクステントを物理コピーする基本機能に比べ、物理コピーするエクステントの数が少なくなる分、無駄なリソースの消費が削減できます。図6で、前回のFlashCopy以降にコピー元仮想ディスク Aのエクステント4とコピー先仮想ディスク Bのエクステント7のみに書き込みがあった場合、新たにFlashCopyを実行すると、コピー元仮想ディスク Aのエクステント4と7のみがコピー先仮想ディスク Bに物理コピーされます。
カスケードFlashCopy
FlashCopyのコピー先仮想ディスクを異なるFlashCopyのコピー元の仮想ディスクとして使用できます。
マルチターゲットFlashCopy
1つのコピー元の仮想ディスクに対して複数のコピー先の仮想ディスクを持つFlashCopyを構成できます。図7のように、カスケードFlashCopyとマルチターゲットFlashCopyを自由に組み合わせることも可能です。
多くのディスク装置は、ポイント・イン・タイム・コピーのほかに、「リモート・ミラー」と呼ばれる機能を備えています。これはローカルにあるディスク装置のLUNとリモートにあるディスク装置のLUNをミラーする機能です。通常のディスク装置では同じ機種の装置間でミラーを行う必要があります。このため、リモートのディスク装置は単なる災害時のバックアップのためだけで、通常の業務には使わなくても、ローカルのディスク装置と同じ高価な機種を使用しなければなりません。
ストレージ仮想化環境の優れている点は、リモート・ミラーにおいても、ローカルのディスク装置とリモートのディスク装置に異なるディスク装置が使用できることにあります。例えば、通常業務で使用するローカルのディスク装置は高性能なディスク装置を使用し、バックアップとして利用するリモートのディスク装置は廉価なディスク装置を使用するといった運用が可能になります。
SVCではこの機能のうち、ミラーの時に同期処理をするものを「Metro Mirror」と呼び、非同期処理を行うものを「Global Mirror」と呼びます。Metro Mirrorはリモートとローカル両方のディスク装置に書き込みが完了した時点で、サーバに書き込み完了を通知します。Global Mirrorはローカルのディスク装置に書き込みが完了した時点で、サーバに書き込み完了を通知し、その後にリモートのディスク装置に書き込みを行います。
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