これまでの説明で、ディスク装置を仮想化することにより得られる多くの利点を理解していただけたと思います。
ここで、実際にストレージ仮想化環境を利用しようと考えた場合、新規にストレージ仮想化環境を構築するのは、比較的容易であることは想像していただけると思います。しかし、既存のSAN環境をストレージ仮想化環境に移行するのは難しい、あるいは不可能と思われるかも知れません。また、一度ストレージ仮想化環境を構築したり、ストレージ仮想化環境に移行したりしてしまうと、将来、何らかの理由でストレージ仮想化環境から元のSAN環境に戻ろうと決断した時に、それが不可能なのではないかと心配に思われるかもしれません。
SVCは「イメージ・モード」と呼ばれる特殊な仮想ディスクを使用することで、比較的容易に既存のSAN環境をストレージ仮想化環境に移行させる方法を提供しています。同様に、ストレージ仮想化環境から通常のSAN環境へ戻す方法も提供しています。
SVCのイメージ・モード仮想ディスクを使用した、既存のSAN環境からストレージ仮想化環境への移行方法を説明します。
ステップ1
既存のSAN環境では、図8のように、ディスク装置で作成された物理的なLUNが直接サーバにマップされ、サーバはこの物理的なLUNを直接アクセスしています。
ステップ2
サーバ側の作業として、移行対象となる物理的なLUNを切り離す作業を行います。また、ディスク装置側の作業として、そのLUNマスキング機能を使用してマップをサーバからSVCへ変更します。SANスイッチ側の作業として、この作業が可能にとなるようにゾーンを変更します。SVC側の作業として、このLUNを管理対象ディスクとして認識します。図9は、この様子を表しています。この時点で、この物理的なLUNはサーバではなくSVCに管理されることになります。従って、サーバ側の作業として、今後SVCの仮想ディスクがアクセスできるようにデバイス・ドライバの準備をしておく必要があります。
ステップ3
認識された管理対象ディスクをイメージ・モードの仮想ディスクに変換します。通常の管理対象ディスクは管理対象ディスクグループの中でエクステントと呼ばれるブロックに分割された状態で管理されます。そして、仮想ディスクを作成する時に必要な数のエクステントが任意に選択されて使用されます。これに対して、イメージ・モードの仮想ディスクは、移行対象となる管理対象ディスクをエクステントに分割し、その全てのエクステントをその順番通りに使用して仮想ディスクを作成します。管理としてはブロック・レベルで仮想化されていますが、結果としては元のLUNと全く同じ状態でサーバからアクセスできます。このため、ストレージ仮想化環境に移行する際にデータのバックアップやリストアなどの作業が必要なく、移行に掛かる時間を飛躍的に縮めることができます。図仮想化環境への移行(3/5)はこの様子を表しています。
ステップ4
SVC側の作業としてイメージ・モードの仮想ディスクを仮想的なLUNとしてサーバにマップします。そして、サーバ側の作業として、イメージ・モードの仮想ディスクをLUNとして認識し、アプリケーションからアクセスできるように操作します。このステップ以降は、業務を中断することなく、この仮想ディスクをアクセスし続けることができます。図11はこの様子を表しています。
ステップ5
ストレージ仮想化環境への移行の最終ステップとして、このイメージ・モードの仮想ディスクを通常の仮想ディスクへ移行します。このステップは「データ移行機能」で述べた仮想ディスクの移行と同じです。移行先の管理対象ディスクは移行したディスク装置内の未使用の物理的なLUNを使用することも可能ですし、新たなディスク装置の物理的なLUNを使用することも可能です。図12はイメージ・モード仮想ディスクから通常の仮想ディスクへの移行が完了した状態を表しています。
以上説明したように、通常のSAN環境からストレージ仮想化環境への移行は、比較的簡単、短時間に完了させることができます。
ストレージ仮想化環境から通常のSAN環境への移行は、前節で述べた既存のSAN環境からストレージ仮想化環境への移行の逆の手順となりますので、ここでは、簡単に説明します。
ステップ1
通常の仮想ディスクをイメージ・モードの仮想ディスクに変換する準備として、通常の仮想ディスクと同じサイズの管理対象ディスクとその管理対象ディスクグループを用意します。図12がこの状態を表しています。
ステップ2
通常の仮想ディスクからイメージ・モードの仮想ディスクへの変換が完了すると、管理対象ディスクは仮想ディスクと全く同じLUNとして扱えるようになります。図11)はイメージ・モードの仮想ディスクへの変換が完了した状態を表しています。ここまでのステップは、業務を中断することなく、サーバからこの仮想ディスクを使用し続けることができます。
ステップ3
サーバ側の作業として、移行対象となる仮想ディスクを切り離す作業を行います。図10は、この状態を表しています。
ステップ4
SVC側の作業として、移行対象となる仮想ディスクと管理対象ディスクグループを削除します。このステップ以降、この物理的なLUNはSVCではなくサーバに管理されることになります。従って、サーバ側の作業として、今後ディスク装置の物理的なLUNがアクセスできるようにデバイスドライバの準備をしておく必要があります。図9は、この状態を表しています。
ステップ5
ディスク装置側の作業として、そのLUNマスキング機能を使用して物理的なLUNのマップをSVCからサーバへ変更します。サーバ側の作業として、ディスク装置の物理的なLUNを認識し、アプリケーションからアクセスできるように操作します。SANスイッチ側の作業として、この作業が可能にとなるようにゾーンを変更します。図8は、この状態を表しています。
以上説明したように、ストレージ仮想化環境から通常のSAN環境への移行も、比較的簡単、短時間に完了させることができます。
ストレージ仮想化技術を使用することで、多種多様なディスク装置の物理的な属性を意識することなく、SAN環境においてディスク装置の一元管理を行うことが可能になります。ストレージ仮想化技術は、複雑化するSAN環境下において、TCOを大幅に削減するためのさまざまな解決策を提供していることをご理解いただけたと思います。
今回はIBMのSVCを例としてストレージ仮想化技術を解説しました。ストレージ仮想化環境を実現する基本的な考え方は、多くのストレージ仮想化製品で類似しています。それぞれのストレージ管理者が運用方針に最適な製品を選択し、快適なストレージ管理環境をストレージの仮想化により実現していただければ幸いです。
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