WSFCを利用することからも分かるとおり、親パーティションはWindows Server 2008 R2のEnterpriseもしくはDatacenterが必要だ。StandardはWSFCを利用できないため、ライブ・マイグレーションも利用できない。
しかし実際の現場では、EnterpriseではなくDatacenterが選択されるケースが多い。これは、サーバ仮想化におけるWindows Serverのライセンスの課金方法が起因している。少し複雑な話になるが、無駄なライセンス・コストを削減する方法でもあるため、理解しておきしたい。
Windows Server 2008 R2には、ゲストOSの実行権(仮想インスタンス実行権)という概念があり、エディションごとにバンドルされる実行権の数が異なる。例えば、Enterpriseの場合、親パーティション用に購入したライセンスで4台のゲストOSをインストール/実行できる。しかし、マルチコア化が進んだ今日のサーバの場合、4台程度ではまだ余力が残ってしまうため、5台以上実行させるのが一般的だろう。
つまり、Enterpriseにバンドルされる4個の実行権だけでは足りず、追加購入が必要となってしまう。このような場合に効果を発揮するのがDatacenterだ。Datacenterは1ライセンスでゲストOSを何台動かしても、実行権を追加購入する必要はない。
ライブ・マイグレーションの利用 | ライセンスにバンドルされる仮想インスタンス実行権 | |
---|---|---|
Hyper-V Server 2008 R2 | ○ | 0個 |
Windows Server 2008 R2 Standard | ×(WSFCを利用できないため) | 1個 |
Windows Server 2008 R2 Enterprise | ○ | 4個 |
Windows Server 2008 R2 Datacenter | ○ | 無制限 |
Windows Server 2008 R2の各エディションと仮想インスタンス実行権 Datacenterはバンドルされる仮想インスタンス実行権が無制限となっている。 |
Datacenterの優位性は、ライブ・マイグレーションやクイック・マイグレーションを利用する場合に最も発揮される。
Windows Serverのライセンス規約上、ライブ・マイグレーションなどで仮想マシンそのものを移動したとしても、ゲストOSの実行権は移せないという制約がある。仮想マシンを移動すると、移動元ホストの実行権は行使できず、移動先ホストの実行権を行使しなければならないのだ。もし、移動先ホストに実行権が余っていなければ、そのホストに移動することができても、実際にはライセンス違反となってしまう。
なお、この制約はHyper-Vのライブ・マイグレーションやクイック・マイグレーションに限らず、VMotionやXenMotion、仮想マシンを一度シャットダウンするコールド・マイグレーションなど、移動手段に関係なく適用される。コンプライアンスにかかわる問題であるため、設計担当者はもちろん、管理者も意識しておかなければばらない。
では、この規約を基に4台の仮想マシンを実行するHyper-Vホストが3台あった場合を例に挙げてみよう。仮想マシンの総数は12台だ。また、各ホストはWSFCを構成してライブ・マイグレーションを利用しているものとする。
1台目のホストで実行している4台の仮想マシンは、突然フェイルオーバーすることやライブ・マイグレーションによって残りの2つのホストへ移動する可能性がある。つまり、必要な実行権は「4仮想マシン×3ホスト=12個」だ。同じように2台目、3台目のホストも12個ずつ必要であり、合計36個分の実行権が必要となる。
この36個の実行権をEnterpriseで見積ると、必要なライセンスは9個となる。コストが非常にかさんでしまうことが分かるだろう。これが、1ホスト当たりの実行権が無制限であるDatacenterだと、必要なライセンスはホストの台数、つまり3セットだけで済んでしまうのだ。Windows Server 2008 R2は販売方法によって価格が異なるが、仮想化で多く利用されている2プロセッサ・サーバの場合、Datacenterの価格はEnterpriseの概ね1.6〜2.0倍程度に設定されている。Datacenterを購入することで大幅なコスト削減ができることが分かるだろう。
Datacenterのメリットはコストだけではない。運用フェイズに入った管理者にとっても喜ばしい利点がある。
ある日、急きょサーバが1台必要になったとしよう。仮想化を導入していれば、ハードウェアを新しく調達せずに仮想マシンで素早く構築を開始できるメリットがある。しかし、既存環境がStandardやEnterpriseなどで実行権が余っていない場合は、ライセンスの追加購入が必要となってしまう。つまり、仮想マシンを構築できる状態にあっても、上司の承認やライセンスの発注・納品を待たなければならない。ライセンス1個といえども数万〜数十万円はするものなので、あらかじめ予算化しないで緊急に欲しいといっても、なかなか稟議が通らないのではないだろうか。
こういったケースでもDatacenterが効果を発揮する。DatacenterはゲストOSの実行権が無制限であるため、サーバと同時に予算購入しておけば、いつでも、いくつでもゲストOSをインストール・実行することができるからだ。臨時で上司の承認を得る必要もない。高価な物品購入の稟議がなかなか通らない昨今、IT管理者にとっては非常に喜ばしいポイントである。
Datacenterのメリットをここまでいくつか説明してきたが、「Datacenterは使用したことがない」「アプリケーションがStandardとEnterpriseにしか対応していない」と思われたユーザーも多いだろう。こういった点は安心して構わない。Datacenterにはダウン・エディション権も付いていて、実際にインストールして利用するOSはStandardでもEnterpriseでも構わないのだ。Windows Server 2008 R2 Datacenterのライセンスを所有しているユーザーは、マイクロソフトのWebサイトから下位バージョンや下位エディションのメディアセットを3150円の実費購入できる。
また、Windows Server 2008 R2は大きく分けてパッケージ(FPP)版/ボリューム・ライセンス版、OEM/ROK(Reseller Option Kit)版の3つの販売方法があるが、Datacenterはボリューム・ライセンス版とOEM/ROK版の2つで取り扱われている。ボリューム・ライセンスはソフトウェア資産の管理がしやすく、OEM/ROK版はハードウェアとのセット販売を条件に非常に低価格に抑えられているところがそれぞれの特徴だ。
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